なぜ企業は「女性の管理職比率」をわざわざ公表しなければならないのか?
20年近く、管理者に対する研修や講演活動を行っているが、いつも風景は同じだ。40代から60代の男性が9割以上。いや、95%が男性なのだ。受講者が50人いても、そのうち2~3人しか女性が参加しない。これが実態である。
厚生労働省が企業に対し、管理職に占める女性の比率を公表するよう義務付けることを検討している。対象企業の規模は従業員301人以上(または101人以上とする案も)。企業の管理職登用の透明性を高め、女性活躍を促すための措置なのだろう。
■なぜ公表を義務化するのか?
なぜ公表を義務化するのか?
冒頭に書いたとおりである。企業が自主的に女性管理職比率を改善する動きが物足りないためだ。各国の男女平等度を順位付けした2024年版「男女格差(ジェンダー・ギャップ)報告」によると、日本は調査対象の146カ国中118位だった。管理職や国会議員の比率、所得での格差が影響した模様だ。
このままでは、女性のキャリアパスは限られ、賃金格差も解消されない。企業に具体的な行動を促すために強制力が必要とされた。私はそう見ている。しかし、これでうまくいくのか? 逆効果ではないのか?
■形だけの女性管理職の登用は逆効果?
義務化することで逆効果になる可能性はないか?
プロ野球でたとえてみよう。まだ実力が十分でないのにスタメンに抜擢される選手がいたら、どうなるか? 他の選手はもちろんのこと、監督もコーチもやる気を失うはずだ。
大事なのは、管理職としての実力があるのにもかかわらず「女性」であるというだけで登用されない人材に対して公正に対処すべきということ。
形だけの管理職登用が行われると、適材適所の原則が無視される。これにより組織全体の士気やパフォーマンスが低下することもあるだろう。登用された女性管理職も十分に力を発揮できない可能性もある。
■具体的な手順:企業の主体性を促進するために
では、どうしたらいいのか? 管理職登用を形式的に行うのではなく、採用段階から意識づけを行い、長期的なキャリアパスを企業側が啓蒙することだ。以下に具体的な手順を示そう。
(1)採用段階からバイアスを排除する
女性が活躍できる職場環境を整えたうえで、採用の段階から女性のキャリアパスを明確にしていこう。具体的には、採用プロセスでのバイアスを排除する取り組みが重要だ。採用現場には、昔ながらの考えを持つ人材ではなく、多様性を理解する人材を充てるべきだ。
(2)管理職登用までの環境と教育の場を整備する
次に、女性社員が管理職に登用されるために必要なスキルと経験を積ませることだ。積極的に外部機関を活用し、教育とトレーニングをする。これにはメンターシップやキャリア開発プログラムなども含まれる。
(3)企業全体で文化を醸成する
最後に組織文化の醸成だ。個人を教育し、経験を積ませることで管理職に登用できるわけではない。組織文化も変えていかなければ、どんなに優秀な女性管理職が誕生しても期待通りの活躍ができないだろう。企業全体で多様性を理解するための、粘り強い啓蒙活動が必要だ。これには経営層からの積極的なメッセージ発信が含まれる。
なかなか難しい課題であることは理解できる。だが、一歩一歩着実に進めていくことが必要だ。まずは企業全体での意識改革から始めよう。「比率」という数字だけを追い求めると、うまくいくものもうまくいかなくなる。
大事なことは、企業が持続的に成長することである。そのためのダイバーシティ&インクルージョン(多様な人材を受け入れ、その能力を発揮させること)なのだ。どんどん不確実性の高い時代になっており、生き残るためにも地道で懸命な努力が不可欠だ。