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過去の「名作ドラマ」が、もっと再放送されていい理由

碓井広義メディア文化評論家
『ハゲタカ』第1話より(筆者撮影)

6月20日から7月4日までの3週にわたって、NHKBSプレミアムとBS4Kで、ドラマ『ハゲタカ』(全6話)が再放送されました。

ドラマ『ハゲタカ』の衝撃

最初に放送されたのは、15年前の2007年でした。企業買収劇と人間ドラマを描いた名作です。

タイトルのハゲタカは、弱い企業を安く買収して企業価値を高め、株価が上昇した時点で売却する、企業買収ファンドを指す経済用語です。

物語の始まりは、バブル経済崩壊後の1998年。

先日、現在の円安水準が24年ぶりと報じられましたが、それが1998年でした。不思議な符合です。

ドラマでは、米国投資ファンドの敏腕マネージャー・鷲津政彦(大森南朋)が、不良債権処理で青息吐息の日本に帰ってきます。

目的は「日本買い」であり、かつて自分が勤めていた三葉銀行が所有する、不良債権を買い叩いていきます。

その後、老舗旅館や玩具メーカーなどに債権者として乗り込み、会社の売却を仕掛ける鷲津。

それを阻止して、企業再生の道を探ろうとするのが、鷲津の銀行時代に上司だった芝野健夫(柴田恭兵)。

ドラマは、この因縁の2人の攻防戦を軸に展開するのです。

最強の制作陣

起伏に富んだストーリー。俳優陣の迫真の演技。そして的確な演出と力のある映像。

経済ドラマというジャンルを超え、ドラマならではの醍醐味を堪能できる作品でした。

原作は真山仁さんの同名小説で、脚本は『医龍』(フジテレビ系)などの林宏司さん。

プロデューサーが、朝ドラ『あまちゃん』の訓覇(くるべ)圭さんです。

そして演出は、大河ドラマ『龍馬伝』の大友啓史さんや、同じく『利家とまつ』の井上剛さん。

さらに、朝ドラ『ちゅらさん』の堀切園健太郎さんもいました。当時、最強の布陣と言っていいでしょう。

原作・松本清張×演出・和田勉

また、今年4月から6月にかけては、松本清張原作の名作ドラマも総合テレビで再放送されました。

『けものみち』『天城越え』『ザ・商社』の3本です。

いずれも演出を手掛けたのは、「アップのワダベン」と呼ばれた鬼才・和田勉さんであり、見る価値のある好企画でした。

「名作ドラマ」再放送の意義

現在、NHKオンデマンドなどで、過去のドラマを視聴することが可能です。

とはいえ、見たい作品を自分で探し出さなくてはならない。年齢層によってはハードルが高い。

その点、再放送は普段の視聴スタイルのままで名作と出会うことができます。

ただ、難点は再放送が不定期であることです。

たとえば、名作ドラマ枠の「定時(レギュラー)番組」があれば、多くの支持を得るのではないでしょうか。

外部の専門家などを「キュレーター(学芸員)」に指名して、再放送する名作を選んでもらうのも一案かもしれません。

「再放送」という日常的な機会を活用することで、より多くの人が「名作ドラマという文化財」に接することが出来ればと思うのです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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