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EVは「走る以外」にどれだけ電気を使っている? ベンツEQCを使って検証してみた結果!

安藤眞自動車ジャーナリスト(元開発者)
メルセデス・ベンツ初の量産EVであるEQC AMGパッケージ装着車(撮影筆者)

 EV(電気自動車)は充電した電気でモーターを回して走りますが、電力を消費しているのは、走行用のモーターだけではありません。エアコンはコンプレッサーもファンも電気で駆動していますし、カーナビもオーディオも電力を消費します。EVはパワーステアリングもブレーキブースターも電動ですし、衝突軽減ブレーキなど運転支援システムのレーダーやコンピュータも、電力を消費します。

クルマのエアコンの能力は、家庭用なら14〜16畳用相当!

 特に消費電力が大きいのがエアコンで、一般にクルマのエアコンの能力は4〜5kWぐらいあります(クルマのサイズによって違います)。これは家庭用エアコンの14〜16畳用相当です。クルマは屋根がほとんど断熱されていないのに加え、温室のようにガラス面積が大きいため、それくらいの能力がないと適温を維持することができないからなのですが、このことからも、エアコンがかなりの電力を消費することがわかります。

 では実際のEVは、「走る以外」にどれくらいの電力を消費しているのでしょうか? メルセデス・ベンツブランド初の量産EVとして、日本でも2019年から販売されているEQCを使って検証してみました。

 出発時の外気温は17度(摂氏)と低めだったので、エアコンは運転席側を22度に、助手席側を24度にセットしました。東京都北西部にある僕の自宅から、圏央道を経由して富士吉田に抜け、東富士五湖道路を通って須走に出て、あざみラインの急勾配を上り下りして帰ってくるというルートで、走行距離は339km。天候は雨模様で終始気温は低く、エアコンはずっと暖房状態で作動していました。

意外と消費量の大きい「その他の電装品」

 結果は下の写真の通り、走行に使用したのは総消費量の78%、エアコンが15%、その他の電装品が7%となりました。

EQCは、マルチインフォメーションディスプレイで電力消費配分を確認することができます。(撮影筆者)
EQCは、マルチインフォメーションディスプレイで電力消費配分を確認することができます。(撮影筆者)

「その他の電装品」の消費量が、意外と多いですね。高速走行中はほとんどクルーズコントロールを使用していましたから、それを制御するコンピュータが、そこそこ電力を消費していたのではないかと思います。

 外気温とエアコン設定温度の差はそれほど大きくありませんでしたが、それでもエアコンで15%を消費しています。季節によっては、この割合はもっと増えることになるでしょう。他車の例ですが、三菱eKクロスEVを外気温35度/エアコン設定温度24度で試乗した際には、満充電時の走行可能距離表示が180kmから130kmまで減りました(約28%減)。

電費はWLTCモードをほぼ達成!

 平均電費は4.2km/kWhと、ほぼWLTCモードの電費(表記は236Wh/kmなので、単位を合わせると約4.24km/kWh)をカバーできました。高速道路ではほとんど走行車線を走っていたのが功を奏したのでしょう。せっかちな人には、EVは向いていないかも知れません。

充電インフラにはまだ課題が。

 途中「道の駅すばしり」に急速充電器があったので、それを使ってみて気づいた課題も報告しておきます。

 まず、充電ケーブルの長さが足りません。駐車枠的には後退入庫する形式なのですが、そうすると充電器がクルマの左側になります。対してEQCの充電ポートは右側にあるので、ケーブルをつなぐことができませんでした。

 前進入庫すれば良いのでしょうが、内輪差があるので切り返さずには入庫できませんし、後退出庫する際も前輪を縁石に引っかけそうになりますから、切り返さずには出られません。やむなくクルマを少し前進させ、駐車枠から頭が飛び出した状態で充電器をつなぐことになりました。平日の朝で空いていたから良かったものの、繁忙期では迷惑行為になりそうです。

クルマを70〜80cm前進させて、ようやく充電ケーブルが届きました。あと50cmケーブルが長ければ、駐車枠に収めたまま届いたのに残念です。(撮影筆者)
クルマを70〜80cm前進させて、ようやく充電ケーブルが届きました。あと50cmケーブルが長ければ、駐車枠に収めたまま届いたのに残念です。(撮影筆者)

 二つ目の課題は、充電器の出力です。ここは公称20kWですが、30分で充電できたのは8.3kWhでしたから、平均16.6kWしか出ていなかったことになります。ちなみに8.3kWhで走れるのは約35kmですから、せめてこの3倍ぐらいは入って欲しいところ。出力90kWの充電器が普及するまでは、EVで遠出するのはためらわれます。

 三つ目は、充電器に営業時間があること。ここは売店で鍵を借りて充電するシステムなので、売店の営業時間(9:00〜18:00)でないと使用することができません。ガソリンスタンドにも営業時間はありますから、急速充電器だけ責めるわけにはいきませんが、知らない土地で充電する必要が生じそうな場合は、事前に調べてからドライブプランを組み立てたほうが良いでしょう。

自動車ジャーナリスト(元開発者)

国内自動車メーカー設計部門に約5年間勤務した後、地域タブロイド新聞でジャーナリスト活動を開始。同時に自動車雑誌にも寄稿を始め、難しい技術を分かりやすく解説した記事が好評となる。環境技術には1990年代から取り組み、ディーゼルNOx法改正を審議した第151通常国会では参考人として意見陳述を行ったほか、ドイツ車メーカーの環境報告書日本語版の翻訳査読なども担当。道路行政に関しても、国会に質問主意書を提出するなど、積極的に関わっている。自動車技術会会員。

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