Yahoo!ニュース

ヘッドランプをLEDにしてみたけれど、期待していたより見やすくない!?その理由を実体験から考察します

安藤眞自動車ジャーナリスト(元開発者)
青みがかった光が格好良く見えるLEDヘッドランプですが、実用性には落とし穴が……(写真:イメージマート)

 初冬を迎え、日没が早くなってきました。クルマを運転していて、周囲のクルマや歩行者が見にくくなったなと感じたら、相手からもそう見えているはず。自分の存在に気付いてもらいやすいよう、早めの点灯を心がけましょう。

 さて、僕の乗っているクルマは、純正ではヘッドランプがハロゲン球で、あまり明るいほうではありません。そこでLEDバルブに交換してみたのですが、期待していたほど明るくなった感じがしませんでした。確かに明るくはなっているのですが、「何か見にくい」という印象なのです。

 それはいったい、なぜなのかを考えてみました。

■昼光色は必ずしも見やすくはなかった!

 LEDバルブを選ぶ際に、まず考えたのは色温度です(色温度については前回の記事で解説していますので、そちらを参照願います)。見やすい色温度はどれくらいなのかを考えたとき、最初に思い浮かんだのが昼光色です。いちばん明るいと人が感じるのは、晴天時の日中です。ならば、真夏の正午ごろに相当する6000K(ケルビン)のものが良いのではと、あまり深く考えずに選んだのですが、特に雨天時の視認性が、あまり良くないように感じられました。

 そこで、もしかすると色温度の影響ではないかと調べたところ、高山自動車短期大学から発表されている論文を見つけることができました。研究対象はLEDではなくHID(高輝度放電灯=水銀灯のように封入された金属に高電圧をかけて発光させるもの)なのですが、テーマ自体は色温度です。詳細は論文を読んでいただいたほうが良いのですが、簡潔にいうと「色温度が高いと乱反射が多くなり、特に雨天での視認性が悪くなる」というものです。

 なぜ色温度が高いと乱反射が多くなるのかについても、前回の記事に書いてありますが、ざっくりいうと「色温度が高い=波長が短い=同じ距離を進むのに振動する回数が多い=水蒸気やチリにぶつかる回数が増える」ということ。水蒸気やチリに衝突することで、光のエネルギーが減衰し、明るさが弱まってしまうのです。

■昼光色は真上から降り注いでいる!

 ならば晴天時の夜ならば、光束が増えた分だけ見やすくなったかというと、こちらも期待したほどではありませんでした。物体が平面的に見えて、遠近感が掴みにくいのです。たとえて言えば、カメラに付けたストロボを直接当てて撮った写真のようなのです。

 考えてみれば、クルマのライトもドライバーの視線と同じ方向から照射され、ドライバーはその反射光を見ていますから、ストロボを直接、当てた写真と同じ条件です。ならば同じように見えるのは当然ですね。

 一方で、現実世界での昼光色は、ほぼ真上から降り注いでいます。ドライバーの視線とは、ほぼ直角になりますから、凹凸部には陰影ができます。これが距離感の把握に役立っているのではないかと、僕は考えています。

 あるいは夕方の場合、太陽を背にすると、光の方向と視線の向きがほぼ同じになりますから、同様に遠近感が掴みにくくなるはずなのですが、実際には(僕は)そうとは感じません。理由は定かではないのですが、光の方向は完全に視線と一致するわけではないということと、夕日の色温度が2000〜3000Kと低め(赤っぽい)ことが関係しているのではないかと思います。

■Lo/Hi同時点灯は正しいか?

 以上のような考察の結果、もう少し色温度の低いLEDバルブを試してみようと、4000Kの製品に換えてみました。結果は大成功で、6000Kのものより悪天候時に見えやすく、晴天時でも遠近感が掴みやすくなりました。

 ところが、またまた問題が発生。ハイビームを点灯した際に、あまり明るく感じられないのです。H4ハロゲンバルブのハイビームの光束はだいたい2000lm(ルーメン)程度で、購入したものは3800lmですから、明るく見えて当然なのですが、むしろ遠いところが暗く見えるのです。

 なぜかと考えてみたところ、この製品はハイビーム時にもロービーム側を点灯し続ける同時点灯方式を採用しており、これが原因ではないかと思い当たりました。

 人間の目は、見るものの明るさに応じて瞳の大きさを変え、感度を調整します。ハイビームが単独で点灯すれば、その明るさに合わせて瞳を調整するはずですが、Lo/Hi同時点灯では手前が明るいため、感度がそちらに合ってしまい、遠くが暗く感じるのではないかと考えたのです。

 道路運送車両法の保安基準では、ロービームの視認距離は40m、ハイビームのそれは100mと決められています。光は距離の二乗で減衰するため、これを同じ明るさに見えるようにするには、ハイビームの光束はロービームの6.25倍なければならない計算になりますが、この製品のLo/Hi比は1.27倍しかありません。これではハイビームの照射エリアが明るく感じないのは当然ですね。

 ただし最後の部分は僕の独自考察であり、科学的に検証されたものではありません。実際にハイビームが使用できるような環境(街路灯がほとんどなく、対向車も先行車もいない状態)では、実用に支障があるほど遠くが見えにくいということはないのですが、同時点灯するなら、ハイビーム時にはロービームを減光するなど、より見えやすくなるよう工夫する余地はあるのではないかと思いました。

 以上、僕の経験からいろいろと述べてきましたが、もしハロゲン球からLEDに変えてみようと思うかたがいたら、①色温度は4000K前後のほうがオールラウンドに見やすい、②Lo/Hi同時点灯は必ずしも見やすいとは限らない、ということを覚えておいていただけたらと思います。それから、あまりルーメン数が高いものは、対向車の迷惑になる可能性があることも忘れずに。

 なお、カットラインや交換後の光軸調整など、車検に関わる事項についてはこちらの記事に記載しておりますので、併せてお読みいただければ幸いです。  

自動車ジャーナリスト(元開発者)

国内自動車メーカー設計部門に約5年勤務。SUVや小型トラックのサスペンション設計、英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェクト、電子制御式油空圧サスペンションなどを担当する。退職後に地域タブロイド新聞でジャーナリスト活動を開始。同時に自動車雑誌にも寄稿を始め、難しい技術を分かりやすく解説した記事が好評となる。環境技術には1990年代から取り組み、ディーゼルNOx法改正を審議した第151通常国会では参考人として意見陳述を行ったほか、ドイツ車メーカーの環境報告書日本語版の翻訳査読なども担当。道路行政に関しても、国会に質問主意書を提出するなど、積極的に関わっている。自動車技術会会員。

安藤眞の最近の記事