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LEDヘッドランプはなぜ眩しい? 技術面と製品面、運用面の3方向から解説します。

安藤眞自動車ジャーナリスト(元開発者)
(写真:イメージマート)

 純正装着される例も増えてきたLED式のヘッドランプですが、対向車のそれを「眩しい!」と思ったことはないでしょうか。なぜそう感じられるのかを、技術面と製品面、運用面の3方向から解説します。

■技術面1 絶対的な光量(光束)が大きい

 たとえばH4タイプ(ひとつのバルブでLo/Hi両方の機能を切り替えるもの)の場合、従来式のハロゲンランプの光量は2000lm(ルーメン)程度ですが、発光効率の高いLEDの場合、3000〜5000lm以上のものがほとんどです。光量が1.5〜2倍以上あるのですから、直接、目に入れば「眩しい」と思うのは当たりまえですね。

 ちなみに「ルーメン」とは、全体の光束を表す単位で、球体の真ん中に光源を置き、360度すべての方向に照射される光を合計したものです。

■技術面2 色温度が高い

 「色温度」とは、光の色味を表すもので、単位は「K(ケルビン)」です。

 たとえば炎は、色によって温度が異なります。焚き火のようなオレンジ色の炎は温度が低い一方、ガスコンロの青い炎は温度が高く、アセチレンバーナーのように白い炎だと、鉄さえ切断できるほどの高温になります。こうした特性を、光の色味に当てはめたものを「色温度」と呼びます。

 色温度の高い=白っぽい光ほど眩しく感じられることは、みなさんも経験していると思います。従来型ハロゲンバルブの色温度は一般に3200K前後ですが、LEDバルブのそれは、6000K以上に設定されていることが多いため、これが眩しさの要因のひとつになっています。

 では、色温度が高いと、どうして眩しく感じられるのでしょうか。

 光は電磁波の仲間ですから、空間を振動しながら伝わってきます。そして色温度が高くなるほど、波長が短くなります。波長が短いということは、振動の波のピッチが細かいということですから、同じ距離を進むときに、波長が短いほど波の数が多くなります。

 すると、空気中のダストや水蒸気と衝突する回数も多くなるため、乱反射が発生します。クルマのヘッドランプに限らず、LED光源を直接見ると、滲んだように見えるのがわかると思いますが、これは乱反射が主な要因になっています。乱反射した光は、光軸から外れた位置にいても目に入りますし、眼球内でも乱反射は起こりますから、その相乗効果によって眩しく見えるのです。

 ならば、LEDでも色温度を下げたものを作れば、と思うかも知れませんが、LEDは色温度が高いほど発光効率が良くなることや、交換した場合の「変わった感」が大きいほうが喜ばれること、昼光色に近いほうが視認性が良くなると考えられている(※)ことなどから、市販品は6000〜6500Kに設定されることが多いのです。

※:これに関しては必ずしも正しくないのですが、それはまた別の機会に解説したいと思います。

向かって左がハロゲンバルブ、右が光束3000lm、色温度4000KのLEDバルブです。このレベルでしたら、LEDでも眩しさはハロゲンとほとんど変わりません。(撮影筆者)
向かって左がハロゲンバルブ、右が光束3000lm、色温度4000KのLEDバルブです。このレベルでしたら、LEDでも眩しさはハロゲンとほとんど変わりません。(撮影筆者)

■製品面1 カットラインが出ていない

 続いて製品面を見てみましょう。製品に起因する眩しさの原因としては、「カットラインがきれいに出ていない」ということが挙げられます。

 ロービームを塀に当てると、ヘッドランプの高さぐらいから上は照射されず、明部と暗部の境に、左上がりのラインが見えると思います。これはロービームの法規要件である「40m先の障害物が視認でき、他の自動車の運転操作を妨げるものではないこと」を満たすためのものですが、市販品の中には、カットラインがシャープに現れず、上側に光が漏れてしまうものも見受けられます。そうなると対向車が眩しいだけでなく、車検を通らない可能性もあります。

 主に安価な製品に見られる傾向にありますので、多少、高くても、国産メーカー製か、国産メーカーが品質管理を行っているものを選ぶのが安心です。

■製品面2 ホットゾーンの輝度が高く、面積が広い

 ホットゾーンとは、ヘッドランプの照射エリアのうち、もっとも輝度の高いところを指します。ロービームの場合、それはカットラインが折れ曲がった”エルボー”と呼ばれる位置に来るのですが、LEDバルブはハロゲンバルブに較べ、ホットゾーンの輝度が高く、面積が広い傾向にあります。

 ホットゾーンはカットラインのすぐ下にありますから、路面の凹凸でクルマが揺れたはずみで、対向車のドライバーや先行車のルームミラーを照らしてしまうことがあります。しかも、カットラインより上の暗部とホットゾーンの輝度差が大きいため、照らされた瞬間は、より眩しく感じられますし、場合によってはパッシングされたように見えてしまうことがあるのです。

■運用面1 光軸が合っていない

 ヘッドランプの多くは、バルブから出た光をリフレクターに反射させ、レンズを通して前方に照射しています。バルブには製造バラツキがありますから、交換すると、光源の中心位置がズレ、照射される方向が狂ってしまうことがあります。これが上や右に向いてしまうと、対向車のドライバーを照らしてしまうことがあり、これも眩しさの要因となっています。

 こうしたことに対応するため、光軸は簡単に調整できるようになっているのですが、個人で交換した場合、光軸調整をしていなかったり、バルブがしっかり座らないまま使用していたりというケースも見受けられます。

 光軸調整は、ディーラーや自動車整備工場、カー用品店や車検場近くにある予備検査場(テスター屋)などでやってもらえますので、自分で交換した場合、そうした業者を利用することをお勧めします。費用はまちまちですが、1000〜3000円程度のところが多いようです。

 LED式ヘッドランプは新しい技術で、保安基準の整備が追いついていないという側面もあります。英国では眩しさ対策の議論も始まっているようですし、いずれはロービームの最高輝度や色温度など、具体的な数値規制が導入されることになるかも知れません。

自動車ジャーナリスト(元開発者)

国内自動車メーカー設計部門に約5年勤務。SUVや小型トラックのサスペンション設計、英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェクト、電子制御式油空圧サスペンションなどを担当する。退職後に地域タブロイド新聞でジャーナリスト活動を開始。同時に自動車雑誌にも寄稿を始め、難しい技術を分かりやすく解説した記事が好評となる。環境技術には1990年代から取り組み、ディーゼルNOx法改正を審議した第151通常国会では参考人として意見陳述を行ったほか、ドイツ車メーカーの環境報告書日本語版の翻訳査読なども担当。道路行政に関しても、国会に質問主意書を提出するなど、積極的に関わっている。自動車技術会会員。

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