朝鮮戦争はいつ終結するのか?「板門店宣言」にある「今年終戦」の謎を解く
27日に南北首脳が署名した「板門店宣言」には、朝鮮戦争の終結から平和体制への転換を言及する部分において、一点、不確かな部分がある。「今年」という表現がそれだ。この単語が持つ意味を追った。
「板門店宣言」そして首脳会談の見方
4月27日、板門店の南側施設「平和の家」で行われた、11年ぶり通算3度目となる南北首脳会談。
午前9時半、南北分断の象徴・軍事境界線を挟み初めて握手を交わした韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩国務委員長は、午後6時頃、「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」に署名した。
宣言は、「共同繁栄と自主統一の未来のため南北関係改善と発展」、「戦争の危険を解消するため軍事的な緊張を緩和」、「朝鮮半島の恒久平和体制構築のため南北が協力」の3項目からなる。
内容について、韓国のメディアや専門家の中では、「完全な非核化」という表現が含まれたことや、過去の南北合意に立ち返ることが明記されたことなどから「及第点」をクリアしたとする見方が多い。
なお、筆者が板門店宣言についてまとめた分析記事はこちら。「南北が独自にできることは多くなく、全ては米朝による非核化合意とその履行しだい」という点を説明している。
今回の南北首脳会談で判断できるものと、できないもの(徐台教)
https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20180428-00084580/
板門店宣言の「謎」…「今年」はどこにかかる?
本論に入る。今回の板門店宣言の内容のうち、専門家のあいだで「謎」として話題になっている点がある。
それは宣言第3項目3段落目にある表現だ。正確を期すため、韓国政府が日本語翻訳した文面を引用する。
この部分を読む限り、今年中に「終戦宣言」を行うということなのか、はたまた今年中に「停戦協定を平和協定に転換する」というのか、さらに今年はこれらのために「3者会談、4者会談の開催を積極的に推進していく」のか、よく分からない。
この「今年」という表現が「どこまでかかる」のかによって、今後の朝鮮半島の動きのスケジュールが大きく変わってくる。このため、実は「板門店宣言」の中で最も重要な部分と言ってもよい。
象徴的な「終戦宣言」自体は、南北ですぐにでもできるため置いておくとしても、「平和協定=朝鮮戦争終結=米朝国交正常化」という実効性を持たせるためには、北朝鮮の核廃棄が不可欠というのが米韓の一貫した見方だ。さらにその過程で3者、4者会談が必要となる。
「南北」がこれらをすべて今年中に行うとすると、尋常ではないスピードが要求される。今年中に北朝鮮の核廃棄が終わることを意味するからだ。それとも、あくまで「南北は今年これらを推進していく」という意味なのか。
なお、27日の会談終了に合わせ、南北関係を主管する政府部署・統一部が出した解説資料では「今年」という表現を含む上の段落について触れられていない。ただ「平和協定を最大限早く締結できるように関連国全ての関心事が包括的に含まれるよう努力する」とだけある。
依然としてあいまいなままだ。こうした疑問を、統一部に直接ぶつけてみた。
統一部「できるだけ早く推進する立場を表明したもの」
30日午前、統一部の定例会見で筆者は、「今年はいったいどこにかかる言葉なのか」と、統一部の白泰鉉(ペク・テヒョン)報道官に質問した。
これに対し白報道官は、「終戦を宣言し、平和協定に転換し、平和体制を構築する問題は、南北間が合意したとはいえ、南北だけでできる事案ではない。今現在では、南北首脳のあいだで、早い速度でこれを履行していこうという共感(合意)がある状況だ」と答えた。
筆者はさらに「今年はあくまで南北で終戦宣言を行い、3者、4者会談の開催を進め平和体制への転換を図ると理解すればいいのか?それとも今年、平和体制への転換を完了させるということか」と聞いた。
白報道官はこの質問については、「終戦宣言、平和協定などを含め、恒久的で強固な平和体制を構築する問題は、様々な包括的な内容を含んでいる。そのため、こうした内容を要件が整い次第、できるだけ早く推進するという立場を表明したものだと思う」と答えた。
つまり、具体的に「今年」何を完了するのかを明示した内容では無いということだ。あえて言うと今年「始める」といったところだろうか。
「年内完了は現実的に不可能」…秋の首脳会談で南北間の「終戦宣言」か
これと関連し、南北関係に詳しい徐補赫(ソ・ボヒョク)ソウル大平和統一研究所研究教授に、電話インタビューを行ったところ、「文章の構成上、いかようにも受け取れ、『今年』がどこにかかるのかは不明確だ。だが、平和協定には非核化が完了することが条件になるので、年内にやるのは不可能だ。このため、現実的には今年、南北終戦宣言と米中の支持を獲得し、平和協定の協議を始めるといったところだろう」とのことだった。
「板門店宣言」の最後では「当面して文在寅大統領は、今年の秋に平壌を訪問することにした」とある。
これらの点から考える場合、「今年行われること」の正体は以下の2つと見られる。
(1):秋に行われる南北首脳会談で、南北間による象徴的な終戦宣言を行う。
(2):5月(または6月)の米朝首脳会談で、非核化をどう進めるかの時間表を決めると同時に、非核化の進展および完了を前提とする、朝鮮戦争終結に向けた協議を3者もしくは4者で始める。
「朝鮮戦争終結」という、そのメッセージ性の強さから大きな注目を集めた板門店宣言の中の「終戦」をめぐる部分だが、「今年すぐに」という訳にはいかないようだ。文字通り、薄氷を踏む交渉とそれに続く履行が待ち受けていると見るべきだ。