【衝撃映像】助け求め叫ぶ男性を…入管「憲法違反」の瞬間―またも上川法相に痛撃
国内外から批判されている法務省・出入国在留管理庁(入管)による人権侵害の数々。その一つに東京高裁から厳しい判決が下った。2014年末、難民不認定の取り消しを求める裁判を受けられないまま強制送還されたとして、スリランカ人男性2人が起こしていた訴訟で、東京高裁は今月22日、入管側の対応を「憲法違反」と判断したのだ。筆者はその訴訟で裁判資料として提出された入管職員撮影の動画を入手。その内容は、本来、「法の守護者」たるべき法務省を根底から揺るがしうるものであった。
○入管の送還に違憲判決
今回、東京高裁は地裁判決を覆して、国に対し、スリランカ人男性2人へ計60万円の賠償金支払いを命じた。判決の決め手となったのは、原告である2人の、憲法が保障する裁判を受ける権利を、法務省/入管側が侵害したという判断である。スリランカ人男性2人は、法務省/入管に対し難民認定申請を行ったが、「不認定」とされ、異議申し立ても認められなかった。このような場合、裁判で争うことが制度として認められているのだが、入管側はスリランカ人男性2人に対し、難民不認定異議申し立てを退けたことを伝えてから、わずか1日も経たないうちに、強制送還を行った。この入管側の対応が、日本国憲法第32条の「裁判を受ける権利」に反すると断じられたのである*。
*法務省/入管に難民不認定の異議申し立てを退けられても、裁判を経て難民として認定されるケースは少なからずある。
○「殺される!」と叫ぶ男性
筆者は本件訴訟の裁判資料である、入管職員撮影のビデオ映像を入手*。その映像では、本件訴訟の原告であるスリランカ人男性が、難民不認定異議申し立てが退けられたことと同時に強制送還を入管職員に告げられ、「殺される」「怖い」と著しく動揺している様子が映っていた。スリランカ人男性はくり返し「弁護士を呼んで」と叫び、裁判を受けることを求めていたが、男性からの電話を弁護士は取ることができず、男性は留守番電話にメッセージを残すことしかできなかった。そして、入管職員らは、男性から携帯電話を取り上げて電源を切り、弁護士が折り返しの連絡をできないようにしてしまったのである。なおも、男性は「弁護士を呼んで」と訴え続けたが、入管職員は「弁護士さん、もう駄目です」と、男性が弁護士と連絡を取ろうとすることすら認めなかった。
動画の男性ともう一人の本件裁判原告の男性は、難民不認定異議申し立てが退けられたことを伝えられてから、わずか15~18時間ほど、翌朝5時に強制送還された。しかも、その間は、外部との連絡を原則遮断され、身体拘束・監禁状態だったのだ。つまり、入管側によって、男性2人は裁判を提訴したくても、時間的にも物理的にもできない状況に置かれたのだ。
*本記事で紹介の動画は字幕をつけたり尺を短縮したりした編集済みのもの。オリジナル映像はこちら。https://youtu.be/pJ7wPMWRwCE
○手続きを経ず騙し討ち
そもそも、手続き上、難民不認定異議申し立てが退けられたのは、2014年の10月下旬から11月上旬であったのに、その結果を男性2人は同12月17日、送還の15~18時間前まで、入管側から知らされなかった。異議申し立ての可否については、入管側が申し立てた当事者に速やかに通知する義務がある(難民異議申立事務取扱要領)。だが、送還の正に直前まで通知しなかったのは、裁判をさせずに送還させるための騙し討ちのようなやり方だ。本件での一連の入管側の振る舞いは、法務省/入管が定める、難民認定に関する一連の手続きにすら反するだけでなく、東京高裁判決から「日本国憲法第31条の適正手続きの保障にも反する」「憲法第31条と結びついた同13条(個人の尊重)にも反する」と指摘されている。本件判決が浮き彫りにしているのは、入管が送還ばかりを優先し、憲法も含めた法令の遵守が全くできていないということだ。行政機関としてあり得ない、その存在意義も問われる状況であろう。
その後、送還されたスリランカ人男性2人は、日本にいる弁護士と連絡を取り、裁判を受ける権利を侵害されて送還されたことについて提訴。弁護士によれば、男性らは今も存命とのことであるが、迫害から逃れるため居場所を転々としており、気が休まることはないのだという。NHKの報道によると、今回の東京高裁の判決を受け、入管は「判決の内容を十分に精査し、適切に対応したい」とコメントしているとのことであるが、必要なのは、当時、違憲の対応をした入管側の責任者の処分であろう。そして、最も責任を問われるべきは、上川陽子法務大臣である。2014年末の本件当時も、上川氏は第二次~第三次安倍内閣の法務大臣を務めていた。当時の入管を所管する法務省の最高責任者であった上、現在も法務大臣である上川氏は、入管の違憲行為に対し、自ら責任を取るべきではないのか。
○ウィシュマさん事件にも影響か
本件はウィシュマさん事件にも波及する。名古屋入管に収容中であったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんは著しい健康状態の悪化にもかかわらず、適切な医療を受けられないまま、今年3月に死亡した(関連記事)。これに対する法務省・入管の「調査」は、数ヶ月もの月日を費やしながら、ウィシュマさんの死因すら特定できない、お粗末なものであった。そのため、ウィシュマさんの遺族は、真相究明のための客観的な証拠として、ウィシュマさんが死亡するまでの最後の2週間の、監視カメラ映像を代理人立ち会いのもとで視聴することを求めているが、上川法相は頑なに代理人立ち会いでの視聴を認めない。その理由として上川法相が主張するのは「保安上の理由」「故人の尊厳」等であるが、結局のところは、入管による人権侵害の実態を隠したいだけではないか。今回の違憲判決が下された裁判資料の映像は、上川法相及び法務省/入管の「ウィシュマさんビデオ隠し」の動機を雄弁に語るものであった。ならば、我々メディアの側もより一層の追及を行うべきなのだろう。
(了)