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過去20年で水紛争676件。毎年2150万人が気候難民に。「世界水の日」のテーマは「平和のための水」

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
世界水の日のポスター(https://www.unwater.org/news)

 3月22日は国連が定める「世界水の日」。水の大切さに焦点を当てた国連の年次行事で、 今年のテーマは「平和のための水」(Water for Peace)です。

「世界水の日」のWEBサイトには「水は平和を生み出すこともあれば、紛争を引き起こすこともある。(略)水に関して協力することで、すべての人が必要とする水のバランスをとり、世界を安定させることができる」というキーメッセージが記されています。

 2つ以上の国で水資源を共有する場合、国同士の関係はどうなるでしょうか。一般的には国際河川の流域国は協力することが多いとされていますが、「世界の水紛争:報道されていない事実」(米パシフィック・インスティチュート)によると、2000年から2019年までの20年間で起きた水をめぐる紛争や暴力事件は676件あり、そのうちの3分の2(466件)が2010年以降に起きています。どこで紛争や暴力事件が多いかというと、中東、サハラ以南のアフリカ、南アジアに集中しています。

 2つ以上の国を流れる川を国際河川といいます。歴史を振り返ると、国際河川を共有する国々の水をめぐる争いが数多く記録に残っています。しかし島国である日本には国際河川がありません。川を他国と共有していないので、この問題を考える機会がほとんどありませんでした。

 キーメッセージで注目したいのが、「各国が気候変動、大量移民、政治不安に対処するためには、水への協力を計画の中心に据える必要がある」(As nations manage climate change, mass migration and political unrest, they must put water cooperation at the heart of their plans.)という部分です。

 「大量移民」とは難民のことを指します。現在世界には1億840万人という、日本の人口に匹敵する数の難民がいます(「グローバル・トレンズ・レポート2022」/国連難民高等弁務官事務所(UNHCR))。


 難民が発生する原因は、紛争や人権侵害が多いのですが、「忘れられた犠牲者」と呼ばれている人たちがいます。それは、干ばつや洪水など気候変動によって住んでいた場所を離れざるを得なくなった人々。彼らは「気候難民」と呼ばれることもあります。(ただし国連難民高等弁務官事務所は「気候難民」という用語を承認していません。「災害や気候変動の関連で移動を強いられた人々」とするのが正確であるとしています。)


 国連難民高等弁務官事務所は2010年から19年のあいだに、毎年2150万人が気象災害によって居住地を追われたと発表しています。「突発的な災害だけでなく、気候変動によって食糧難や水不足が発生し、天然資源へのアクセスが難しくなるなど複合的な原因となっている」と指摘しています。

 「地球沸騰化」と言われる極端な暑さ、降水量の変化が、作物や家畜の生育に悪影響をおよぼし、人々の暮らしを根本から脅かしており、こうした傾向はますます強くなると見られています。

 オーストラリアの国際シンクタンク「経済平和研究所」が2020年9月に発表した「生態系脅威レジスター」では「2050年までに、少なくとも12億人が居住地を追われる可能性がある」と指摘しています。

 だからこそキーメッセージにあるように、私たちは「公正で持続可能な水の利用を軸に団結する」必要があるのです。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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