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発達障害グレー、ひきこもり、不登校、ニート、体調不良…就労に結びついた実例報告

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:イメージマート)

「ダイバーシティ就労」は、働きづらさを抱えた人が、障害者手帳の有無にかかわらず、既存の障害者の就労支援事業所を利用できる新しい働き方だ。 2022年度より日本財団と千葉県・岐阜市・福岡県でモデル事業が始まっている。3月に千葉市内で3地域の報告会が開かれ、行政や福祉の分野で関心を持つ人たちが集まった。

【主な登壇者】

NPO法人ユニバーサル就労ネットワークちば 理事長 池田 徹さん

一般社団法人サステイナブルサポート 代表理事 後藤 千絵さん

福岡県就労支援協同組合 理事長 中村 信二さん

NPO法人ユニバーサル就労ネットワークちば ダイバーシティ就労担当 嶺 千鶴子さん

【千葉県】

「NPO法人ユニバーサル就労ネットワークちば」 は、既に16年ほど続けているユニバーサル就労を踏まえて、「就労が困難な人は障害者だけではない。障害者の事業所を利用しステップアップし、自立を果たしていくことが大切」と強調した。障害者の事業所に対して障害者以外の人が利用したらどうかと聞くと、4割が歓迎し実施したいと答えたという。

 ユニバーサル就労で、120人以上が就労している千葉県。ダイバーシティ就労に関しては、直接、希望者を募るよりも、まず相談機関に説明をして周知した。その上で、実際に受け入れる福祉事業所に声をかけた。NPOは間に入ってコーディネートをする。ステップアップやダウンではなく、スライド式に仕事の強弱をつけていく。

 実績は70件の面談があり、実際に就労・通所に40人以上がつながっている。年代は10代から60代とまんべんなくおり、全県に渡っている。特性としては、不安や緊張が強い、人間関係が苦手、長期ブランクがある、ひきこもりや不登校などとなっている。体調不良の女性はB型事業所に通いながら、資格を取りたいと意欲が出た。発達障害グレーゾーンの男性は、以前は失敗したときに自己嫌悪や怒られるのが怖い気持ちがあったが、ダイバーシティ就労では、周りの支援もあり、A型事業所に通えるようになった。

 千葉では、ユニバーサル就労の下地があったため、障害者の事業所利用に抵抗は少ないという。今後は継続していくために、理解ある職場としての企業を開拓するという課題がある。

【岐阜市】

 岐阜市では、少子高齢化と人口減で、労働力が低下する中、多様な働きづらさのある人を支える事業を展開している。このダイバーシティ就労のモデル事業以外には、超短時間雇用創出やテレワークを利用した働き方などがある。

 モデル事業を担当するサステイナブル・サポートは、福祉事業所を持ち、若者やひきこもり、制度の間にある人たちの支援もしてきた。ダイバーシティ就労のモデル事業では、問い合わせが約50件。見学などを経て、11人が利用に至っている。何らかの障害がある人、発達障害グレーの人が目立ち、20代から30代はニートやひきこもり、40代から50代は生活困窮や病気が背景にある。A型事業所ではトレーニングを受けられて賃金も出るため、希望する人が多い。笑顔が増え、考えや悩みを自分で伝えられるようになるなど、成果が上がっている。

【福岡県】

 ダイバーシティ就労のモデル事業は、障害者の就労移行支援事業所のみで実施している。面談につながったのは8人、利用は7人。県のエリアを4つに分け、パソコン講座やデザイン、各種作業などの事業所がある。ひきこもりを脱したり、自己紹介ができるようになったり、苦手な数字を扱えるようになったり、モデル事業の成果が見られる。就職が決まった人もいて、調理師免許取得へ意欲を持っている。

 課題は、やりたい仕事が、住むエリア内にはないこともあり、エリアごとに協力事業所を増やして選択肢を持てるようにしたいと言う。モデル事業を通して、人との関わりができることが大きい。自分の特性や困り事を理解したり、家族に理解してもらったり、医療機関で診断を受け、必要なサポートを得られるようになった人もいる。

 こうした3自治体の現場報告のほか、参加者から、難病の場合について質問があった。また利用者の希望に合わせられるかとの質問もあり、得意な分野の事業所を見つけて紹介するアセスメント力も大事との話もあった。

 法政大学現代福祉学部教授・眞保智子さんは、昨年末に行われたダイバーシティ就労の討論会で、「三つのモデル事業に共通するが、ネットワーク構築の重要性を感じた。コロナ禍において、施設の効率化とか関係機関・団体のつながりが希薄化していると言われる中で、持続可能なネットワークの重要性が改めて示された。信頼関係を、1年のモデル事業の中で、ここまで築いたのは素晴らしい。

 職業リハビリテーションとして見れば、多様な背景から就労に困難が生じるケースについて、実践を通じた研究の蓄積が必要。モデル事業が継続していかないと、実践を通じた研究ができないので、続けられる方向性が必要かと思う」としている。

登壇した3自治体の皆さん 筆者撮影
登壇した3自治体の皆さん 筆者撮影

「WORK!DIVERSITYプロジェクト」は、日本財団が取り組む、だれもが働ける社会を目指す仕組み作り。2018年、日本財団の調査により、引きこもり、ニート、刑余者、若年認知症、難病、依存症など、働きづらさのある人たちがのべ1500万人におよぶことがわかった。適切な支援があれば働けるが、現行の制度では公助のシステムがほとんどない。

 一方で、労働力不足は加速し、2038年には50兆円を越えようとする社会保障費は、財政赤字をさらに膨張させようとしている。労働人口も減少し、2025年頃には国全体で600万人が不足するとの試算がある。日本財団は、働きづらさのある人たちを新しいシステムにおいて支援し、就業を促進、労働市場において活躍し、さらにタックスペイヤーとなることで社会保障や財政改革にも好影響をもたらすと考える。

 この課題解決のため、既存のシステムを活用し、個々のQOLを高めて社会に新たな労働力を輩出しようとするプロジェクトがWORK!DIVERSITY(ダイバーシティ就労)だ。具体的なシステムは、既存の障害者の就労移行支援事業および就労継続支援A型事業を活用する構想。現行でこれらのサービスは障害者以外は利用できないが、その就労支援の内容は、働きづらさを抱える多様な人に活用できると考えられる。

 日本財団はすでに、就労支援のモデル実証実験を3自治体と協働して行っている。研究とモデル実践を通し、具体的な支援方法を確立、その新システムにおいて障害者以外にも多様な就労希望者を支援し、社会に送り出すことを目ざす。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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