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「極秘文書」はシリア軍がロシアの侵攻に晒されるウクライナで対外任務にあたっていることを示す

青山弘之東京外国語大学 教授
al-Sharq al-Awsat、2021年4月1日

シリア軍部隊がロシアでの対外任務、すなわちウクライナに対するロシア軍の特別軍事作戦(あるいはロシアのウクライナ侵攻)に参加していることを示す「極秘文書」を入手した――英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団が1月18日に発表した。

シリア人権監視団によると、ウクライナ侵攻に参加しているシリア軍の部隊は、第25特殊任務師団(ないしは単に第25師団)。同部隊は、「トラ」の愛称で知られ、シリア国内で高い人気を誇るスハイル・ハサン准将が司令官を務める特殊部隊で、ロシアの支援を受けている。

「極秘文書」は、第25特殊任務師団が、ロシアの支援のもと、シリア政府と和解した元反体制武装集団の司令官や戦闘員、親政権民兵を糾合するかたちで編成された第5軍団司令官に宛てたもの。その内容(全文)は以下の通り。

シリア・アラブ共和国

軍武装部隊総司令部

第5軍団

第25特殊任務部隊

第688号

2023年1月3日

第5軍団司令官少将閣下どの

財務局長である少将閣下の書簡の写しを貴殿に同送する。同書簡は、2022年12月15日付書簡第614号への回答を記したものである。これは、友好国であるロシア連邦での対外任務にあたる第25特殊任務師団の将兵の経費を周知するためのもので、2022年11月と12月の給与を振り込むために必要な予算や外貨が不足しており、2023年の予算に繰り越すことを示している。なお、同師団司令部は、(第5)軍団から送付された月給リストに基づき、国内のすべての支払い対象者への給与を完了した。本件にかかる月次表を添付する。

閣下におかれましては、対外任務にあたる兵士のための支払い手続きを早急に行われたい。ロシア・シリア合同中央作戦司令室は、第25特殊任務師団司令部に、軍・武装部隊の割り当て分のみからこれらの予算を支払うことを指示している。なお、国外にいる第25特殊任務師団の兵員は火急に本任務への支払いに介入することを要請している。

シリア人権監視団、2023年1月18日
シリア人権監視団、2023年1月18日

「極秘文書」の入手先、そして文書そのものの真偽は定かではない。だが、シリア人権監視団は、この文書により、シリア軍の部隊(あるいは「傭兵」)がロシア軍とともにウクライナでの戦闘に参加していること、同部隊の財務状況が外貨や予算不足によって逼迫していること、ロシア軍とシリア軍が合同作戦司令室を設置し、同部隊の指揮にあたっていることが示されていると主張している。

なお、シリア人権監視団は、2022年10月、ウクライナに派遣されていた第25特殊任務師団の兵士5人がヘルソン州北東部のドニプロ川右岸の、ウクライナ軍が反転攻勢で支配地を回復した地域での戦闘で死亡したことを確認したと発表している。

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同監視団によると、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシアに派遣されたシリア軍将兵は2,000人あまりに達しているという。

なお、シリアからウクライナへの部隊派遣は、ロシア、シリア政府側に限られず、シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が主導する反体制派も、トルコ経由でウクライナに戦闘員を派遣し、ウクライナ軍とともに戦闘に参加している。

最近では、ウクライナ国防省情報総局が1月17日にウクライナ東部ドネツィク州にあるバフムート市の最前線でウクライナ軍とともに戦う「コーカサスの兵(アジュナード・カウカーズ)」のアブドゥルハキーム・シーシャーニー(ルストゥム・アズィエフ)司令官らの映像を公開した。

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東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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