シリアでアル=カーイダと共闘していたチェチェン人戦闘員がロシアの侵攻を受けるウクライナでの戦闘に参戦
シリアで活動を続けていた「コーカサスの兵(アジュナード・カウカーズ)」のアブドゥルハキーム・シーシャーニー(ルストゥム・アズィエフ)司令官がウクライナでの戦闘に参加していることを示す動画が公開された。
ウクライナ国防省情報総局が映像を公開
動画を公開したのは、ウクライナ国防省情報総局。1月7日にツイッターやユーチューブを通じて、シーシャーニー司令官ら複数のチェチェン人戦闘員が、「国際部隊」の一員として、ウクライナ東部ドネツィク州にあるバフムート市の最前線で戦う様子を撮影した映像を公開したのだ。
映像のなかで、シーシャーニー司令官は、チェチェン・イチケリア共和国からの義勇兵として登場し、ウクライナ防衛のために戦い続ける意思を表明している。
シーシャーニー司令官は昨年10月15日、チェチェン・イチケリア共和国の武装部隊の大佐に昇進している。
シーシャーニーはどのようにシリアからウクライナに入ったのか?
米国のウェブサイトでイスラーム過激派の動静をフォローしているアル・モニター(2022年10月22日付)によると、シーシャーニー司令官は、2022年10月に、コーカサスの兵のメンバー25人とともに、シリアのイドリブ県を去り、ウクライナ軍とともに戦闘に参加しているチェチェン人武装グループであるシャイフ・マンスール大隊と連携し、ウクライナ入りしていたという。
一方、ロシア系米国人研究者のヴェラ・ミロノヴァは1月8日にツイッターで、ロシアが2022年2月にウクライナへの侵攻を開始した直後に、シーシャーニーがトルコの当局に殺人容疑で拘束されたのち、同年10月に釈放され、1週間もしないうちに、ウクライナで姿を現したと主張している。
チェチェン人グループの活動をフォローしているムスリムを名乗るツイッター・アカウントも1月8日、最近オランダで逮捕されたエリック・ジャファロフを名乗るビジネスマンが、シーシャーニーが強請に関与していたと証言したのを受けて、トルコの当局が彼を逮捕、イスタンブールで2回にわたって審理が行われ、逮捕の半年後にすべての容疑が取り下げられたと主張している。
米シンクタンクのジェームズタウン財団は1月9日に公式サイトで、シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構の圧力が増すなかで、シリア北西部で活動する外国人武装グループは解体や統廃合を余儀なくされ、指導者の一部がトルコに逃れていたと指摘している。
シャーム解放機構は、2020年3月にロシアとトルコがシリア北西部での停戦に合意して以降、戦闘継続を主唱する武装集団、とりわけ外国人戦闘員への締め付けを強化していた。
シリアにいたチェチェン人はどこにいったのか?
シリアで活動していたチェチェン人戦闘員をめぐっては、スィカ通信の創設者であるマージド・アブドゥンヌールが1月8日にツイッターで、そのほとんどが現在、ウクライナに移動したと主張している。
これに対して、シャーム解放機構の司令官の1人でアブー・マーリヤー・カフターニーの名で知られているマイサル・ブン・アリー・ジャッブーリーは1月9日、ツイッターでこうした見方を否定している。
「コーカサスの兵」とは?
コーカサスの兵の司令官を務めるシーシャーニーは、2011年3月にシリアに「アラブの春」が波及し、混乱が増すと、体制打倒をめざして、同国に潜入した。
2013年に「コーカサス・カリフ国」を名乗る武装グループを結成、ラタキア県やクナイトラ県で活動、2015年春に、別のコーカサス人武装グループの「コーカサスの兵」(ジュンド・カウカーズ)と統合し、「コーカサスの兵」(ジュヌード・カウカーズ)を名乗るようになった。
「コーカサスの兵」は、アル=カーイダの系譜を汲むシャーム解放機構、シャーム自由人イスラーム運動と長らく共闘を続ける一方、これらの組織の間で繰り返される抗争においては中立の立場を貫いてきた。
シャーム解放機構がシリア北西部における軍事・治安権限を握って以降は、同組織に忠誠を誓い活動を継続していた。
チェチェンでの紛争で、ロシアからの独立をめざしていた「愛国的英雄たち」は、シリアで国際テロ組織との共闘を経て、ウクライナで自由と民主主義のために戦う「フリーダム・ファイター」として、新たな戦場に身を置いている。しかし、この間、大国の思惑に翻弄され続ける彼らの境遇には何らの変化もない。