Yahoo!ニュース

「シリア革命」最後の牙城とされるシリア北西部をロシア軍が爆撃し、中国人戦闘員1人が死亡

青山弘之東京外国語大学 教授
シリア人権監視団、2024年5月23日

シリア北西部で5月23日、ロシア軍戦闘機複数機が爆撃を実施し、同地で活動する中国人戦闘員1人が死亡した。

英国で活動する反体制派系NGOのシリア人権監視団や反体制派系サイトのザマーン・ワスルが伝えたところによると、ラタキア県のフマイミーム航空基地(殉教者バースィル・アサド国際空港)に駐留するロシア空軍は5月22日深夜から23日未明にかけて、ラタキア県のクルド山地方のカッバーナ村一帯、クバイナ丘一帯、イドリブ県のザーウィヤ山地方のシャンナーン村、ルワイハ村、イフスィム村、マアッルバリート村、マジュダリヤー村一帯を爆撃した。

ザマーン・ワスルによると、爆撃を行った戦闘機は2機で、攻撃回数は8回に及んだ。

爆撃が行われたシリア北西部は、「シリアのアル=カーイダ」として知られる国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が軍事・治安権限を掌握し、行政機関に相当するシリア救国内閣、立法機関に相当するシューラー総評議会などを通じて統治している地域。国内外の反体制活動家は、自由と尊厳の実現を目指す「シリア革命」最後の牙城と位置づけ、「解放区」と呼んでいるが、実際にはテロの温床となっている。

このテロの温床で活動を続けている組織の一つが、トルキスタン・イスラーム党だ。

トルキスタン・イスラーム党

トルキスタン・イスラーム党は中国の新疆ウイグル自治区出身者を中心に構成される武装集団で、正式名を「シャームの民救済(ヌスラ)トルキスタン・イスラーム党」と言い、「シャームのくにのイスラーム党」を名乗ることもある。中国の新疆ウイグル自治区の分離独立を主張する過激派組織の東トルキスタン・イスラーム運動(ETIM)の系譜を汲んでいる。

「アブー・リヤーフ」を名乗るヌスラ戦線メンバーの支援を受けて、ウイグル系戦闘員が2013年末頃にトルコ領内に拠点を設置し、戦闘員の募集や教練を開始した。2014年半ば頃からイドリブ市一帯地域を中心に活動を本格化させ、同年末にアブドゥルハック・トゥルキスターニーを指導者(アミール)として正式に結成を宣言した。2016年時点で戦闘員7,000人を擁していたとされ、アル=カーイダとつながりがある組織である。

Beirut News Arabic、2016年1月30日
Beirut News Arabic、2016年1月30日

ロシア軍の爆撃で死亡したのは、このトルキスタン・イスラーム党に所属するジャアファル・ブン・アビー・ターリブ旅団の戦闘員で、新疆ウイグル自治区出身のウイグル系中国人だった。

「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」のアーカイブによると、ロシア軍がシリア領内で爆撃を実施するのは、5月に入って3回目。過去2回の爆撃はイスラーム国の拠点を標的としたもので、シリア北西部に対する爆撃は4月10日以来約1ヵ月半ぶり。

なお、トルキスタン・イスラーム党の母体組織であるETIMは、2004年にジョージ・W・ブッシュ米政権に外国テロ組織(FTO)の指定を受けていた。だが、2020年11月6日、マイク・ポンペオ米国務長官(当時)は「10年以上にわたり、ETIMが存在を続けているという確たる証拠がない」として、FTO指定を解除した。

しかし、ETIMのメンバーが家族を連れて、シリアに移住し、トルキスタン・イスラーム党として、シャーム解放機構と活動を続けているのは周知の事実である。

関連記事

中国封じ込めというパラダイムをアル=カーイダとの「テロとの戦い」が続くシリアに持ち込む米国

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

青山弘之の最近の記事