『ファインディング・ドリー』で学ぶ子育てと人生の心理学
テーマは家族愛と親子の絆。そして、行動し、泳ぎ続けること。過保護になりがちな親に、臆病になりがちな現代の子どもたちに、オススメのアニメ映画です。
■ピクサー・ディズニーアニメ映画『ファインディング・ドリー』
アカデミー賞をとった『ファインディング・ニモ』の続編『ファインディング・ドリー』。ピクサーのメッセージは、家族愛と、そして「待っているだけでは奇跡は起きない」。
■子どもを信じる
前作『ファインディング・ニモ』。人間に捕まってしまったニモを、お父さんのマーリンと、旅の途中で知り合ったドリーが、大冒険の末助け出す話です。
マーリンには、悲しい過去がありました。多くの子どもたちが卵からかえる直前に、すべての卵と妻を大きな魚に食べられてしまったのです。たった一個だけ残った卵から生まれたのが、ニモでした。さらにニモには、片方のヒレが小さいという障害がありました。
お父さんのマーリンは、大事に大事にニモを育てます。マーリンはとても優しくて、息子ニモの小さなヒレを、「幸運のヒレ」と呼び、彼を支え続けます。ただ心配性のマーリンは、過保護な子育てをしがちでした。しかし冒険の旅を通して、マーリンは子どもを信じることを学んでいきます。
息子には、何事も起きないようにと気をつかってきたのですが、「子どもに何も起きなければ、子どもは何も学べない」とドリーは語ります。正解などわからに困難が次々と襲ってくるのですが、ドリーはいつも楽天的でした。
思いあぐねているマーリンにドリーは語ります。
「今できることをする。あとは、うまくいくように祈るしかないじゃない」。
■新作『ファインディング・ドリー』:「わたし、ドリー。何でもすぐ忘れちゃうの」
ドリーは、とんでもない忘れん坊です。記憶障害です。何でもすぐに忘れます。前作でも、「私についてきて!」と言ったのに、ほんの少ししたら、「何でついてくるの!」と怒り出します。
だから、ドリーは自己紹介の時にいつも言います。
「わたし、ドリー。何でもすぐ忘れちゃうの」。
ドリーは、子どもの頃に両親からはぐれていました。両親の名前も、住んでいた場所も、ドリーは忘れていました。
けれども実は、この自己紹介のセリフをドリーは両親から学んでいました。
今回は、ドリーが両親を探す旅に出かけるのを、ニモとマーリンが助ける話です。
■「泳ぎましょう、泳ぎましょう、どんどん、どんどん、泳ぎましょう」
ドリーのお気に入りの歌です。
♪「泳ぎましょう、泳ぎましょう、どんどん、どんどん、泳ぎましょう」。
この歌も、ドリーは自分で作ったと思っていたのですが、実は両親から教わった歌でした。
前作『ファインディング・ニモ』でも、「泳ぎ続けろ!」は、大きなテーマでした。泳ぎ続けることで、魚たちは危機を乗り越えます。
その人生訓を、明るいドリーは、楽しく歌うのです。
考えることは大切ですが、考えすぎることは逆効果です。心配することも大切ですが、心配しすぎると、かえってうまくいきません。明日のことを考えて用心し、準備することは必要なことです。けれども、「明日のことは思いわずらうな」(聖書)ですね。
そして考える時も、心配する時も、自分探しをする時も、いつも行動しながら考えることが、心の健康と幸福につながるでしょう。
心理学の研究によれば、人はどこかにこもって考えすぎてしまうと、心が落ち込み抑うつ感情が高まることがわかっています。
経験だけが、その人を作っていくのです(オズの魔法使いの心理学:性格とは何か? あなたもなりたい自分に)。
「親の中には、子どもが歩く道の小石を取ってあげて、線路までひいてあげて、その上をできるだけスムーズに通らせようとする親もいます。
親は子どものことを思って頑張っているのですが、逆効果です。こんな、愛の空回りとも言えるに過保護な育て方をすると、子どもは経験を通して力を身につけることができず、弱い子が育ってしまいます」(やる気のある親は子どものやる気を奪う!?:親や上司のやる気を正しく活かすための心理学:Yahoo!ニュース個人有料)。
■記憶と思い出と人生
ニモのお父さんマーリンは、記憶力が良さそうです。いつも心配し、計画を立て、原因を探り、先を読もうとします。もちろん、それが必要な時もあります。
マーリンは、家族を失った悲しみから、用心深くなりました。そのおかげで、ニモは守られてきたのかもしれません。けれども、人生において、原因探しをし続けても意味がないことも多いでしょう。計画を立てても、その通りにいかないことの方が、きっと多いでしょう。
さて、新作『ファインディング・ドリー』に登場する新キャラクター、タコのハンク。彼は、素晴らしい身体能力を持っています。頭も良さそうです。記憶力も高そうです。
ただ、彼には足が7本しかありません。これは生まれつきではなく、何かがあって、足を一本失ったようです。ドリーは両親を探す旅の中で、海洋生物研究所のスタッフに捕獲されます。この研究所でタコのハンクに出会います。
ハンクは、海に帰りたくないと思っていました。海には、良い思い出がないそうです。
心理学的に言えば、一つ一つの記憶が再構成されて、「思い出」を作っていきます。この思い出の連なりが、その人の「人生」となります。これまでの経験の中で、何を覚えていて、どんな意味づけをするのか、それがその人の人生そのものになります。
思い出に関する研究によれば、様々な経験、世代の人を調べてみた結果、どの人も、楽しい思い出が6割、中間的な思い出が3割、辛い思い出が1割でした。健康な心を持つ人は、辛い出来事を体験していても、次第に思い出が浄化されていくのです。
私たちは、ハンクのように辛い出来事をいつまでも覚えていて、ネガティブな解釈をし、チャレンジをあきらめるのでしょうか。それとも、ドリーのように失敗にこだわらず、泳ぎ続けるのでしょうか。そして、子どもたちに何を教えるのでしょうか。
■「ここ海洋生物研究所の仕事は、助けて治して海に帰すことです」
ドリーたちが捕獲されてしまう「海洋生物研究所」。この研究所の目的を説明するアナウンスが、映画の中で繰り返し流されます。
「ここ海洋生物研究所の仕事は、助けて治して海に帰すことです」。
ピクサー・ディズニーアニメ『ファインディング・ニモ』と続編の『ファインディング・ドリー』。二つの映画は、家族愛、親子の絆を描きます。けれども、それは同時に、子どもが親から自立する物語でもあります。
大きな海は危険がいっぱいです。親は、子どもを心配し、心から愛しています。ニモもドリーも、弱さを持っています。それでも、ニモもドリーも、冒険を通して多くの経験をし、成長し、自立していきます。
親は子を守ります。傷ついた心や体を癒します。そして、多くの経験をさせます。子どもは天からの授かりものではなく、本当は、天からの預かり物なのでしょう。
助けて治して海に帰す。親の役割も、子どもをしっかり愛して、癒して鍛えて、そして社会にお返しすることなのだと思うのです。