『ズートピア』は以外と深い!:「ありのまま」再考:ウサギはウサギらしく?:偏見からの解放、殻の破り方
■ディズニーアニメ『ズートピア』は以外と深い(2016年4月23日公開ゴールデンウイーク映画)
動物たちが人間のように暮らす街『ズートピア』。そこは、ゾウもネズミも「ありのまま」の個性を認め合い、草食動物も肉食動物も一緒に暮らす理想の街!・・・だったはずなのに、謎の失踪事件をきっかけに街の存亡に関わる大事件が。この危機を解決するのは、ズートピア初のウサギの警官ジュディと詐欺師キツネのニック!?
『アナと雪の女王』『ベイマックス』 に続くディズニーアニメ『ズートピア』です。
物語の主人公はアナウサギのジュディ(日本語版声:上戸彩)。ウサギらしい素直な性格と、ウサギらしからぬ悪と勇敢に戦う正義の心を持って、動物の国ズートピア初のウサギの警察官を目指します。
このようにご紹介すると、いかにも子ども向けメルヘンという感じですが、いえいえ大人の鑑賞にも十分に耐えます。『ズートピア』は以外と深いです。ズートピアは、一見理想郷ですが、人間世界が持つ矛盾をも含んだ世界です。そして主人公たちの悩みと葛藤は、そのまま私たちの心が抱える問題です。
☆「子供向けのCGアニメーションと思ったら大間違い。私たち大人も、最後までワクワクしながら観ることができます。」(ディズニー最新作『ズートピアの世界観 中江有里氏「深いテーマを動物を通してわかりやすく」:zakzak)
☆「ディズニーアニメ『ズートピア』は“甘くない現実”も描く」(クランクイン!!)
☆「最初から最後まで徹底的に楽しく、しかし最後まで観ると深いメッセージが観る者の心に残る。」(ディズニー最新作『ズートピア』観客の心をとらえる物語はどうやって生まれた?:ぴあ映画生活)
☆Yahoo!映画「ズートピア」ユーザー747人の平均評価4.40(5点満点)
■ありのまま:ウサギはウサギらしくか
大ヒットした「アナ雪」。そこで注目が集まったのは、主題歌とともに「ありのまま」と言う言葉です。ところが、本作「ズートピア」の日本語版を見ると、「ありのまま」という言葉が、主人公のジュディを苦しめる上司(アフリカスイギュウ)の言葉として登場します。ウサギは警官には向かない、ウサギはウサギらしくニンジンを作っていろと。
確かにウサギには強い牙も腕力もありません。見た目は可愛らしく、性格的には素直で、時には「まぬけ」と言われるほどです。
私たちの世界でも、警察犬はいますが、警察ウサギはいませんね。映画のパンフレットに掲載されている動物行動学者新宅浩二先生によると、アナウサギは温和で几帳面で人なつっこい動物だそうです。
■ありのまま:キツネはキツネらしくか
物語の中で、ひょんなことから主人公の相棒になるアカギツネのニック(日本語版声:森川智之)。彼の職業は詐欺師です。実にキツネらしい仕事です。キツネのイメージは、「ずる賢い」ですが、動物の世界「ズートピア」でも、同じように見られています。そして小さな草食動物から見れば、牙を持つ恐ろしい肉食動物です。
アカギツネは、狼のように群れにはならず、単独で狩りをします。動物行動学的には、観察力が鋭い賢い動物とされています。
■「ありのまま」とは
ウサギのジュディの家族は、農家です。実にウサギらしく暮らしています。けれども、ジュディの夢は警察官になって、世の中をもっと良くすること。その結果、彼女は苦しい道を歩むことになります。
キツネのニックも、子どもの頃は夢を持っていました。しかし、とても傷つく出来事を経験し、キツネはキツネらしくずる賢く生きていこうと決めていました。
さて、ウサギはウサギらしく、キツネはキツネらしくというのが、「ありのまま」なのでしょうか。
■「ありのまま」と「偏見」
社会心理学的に言えば、偏見とはあるグループに所属しているというだけでその人に持つマイナスのイメージです。たとえば、〇〇県の人間は嘘つきだ、△△県の人間は怠け者だなどと言ったら、偏見だと批判されるでしょう。
しかし、私たちは偏見を持っています。偏見を持っているのですが、私たちはそれを事実だと思っているので、偏見だと気がつかないのです。
たとえば、「女性は数学が苦手だ」も「男性は子育てが苦手だ」も偏見です。実際は男女差よりも個人差の方がずっと大きいですし、どちらも経験によって変化するものです。
男性の平均身長は女性の平均身長よりも高いというのは、事実です。けれども、「男は女より背が高い」と考え、男には全員Lサイズの服を配り、女には全員Sサイズの服を配るのは、愚かでしょう。実際は、個人差が大きいのです。
野生のウサギやキツネは、もちろんウサギらしくキツネらしく暮らしていますが、動物たちは進化し、ここは誰でも何にでもなれるはずの「ズートピア」。個性を活かして良いのです。
ウサギは全員気が弱く、キツネは全員ずる賢いなどということはないのです。そんな決め付けは、偏見です。
「ありのまま」は、民族、出身地、学歴、体型などによって決めつけることではなく、一人一人が、その人らしく個性を発揮することでしょう。
■私たちの「ありのまま」と「ズートピア」
ウサギといえば、耳が良いイメージでしょうか。主人公のジュディも耳の良さを生かします。でも、それはメインストーリーのクライマックスではありません。
物語の中では、「ありのまま」を再考させてくれるエピソードがいくつもあります。服を脱ぎ捨て、動物のありのままの姿を尊重する動物たちも登場します。理性を失って野生に戻る動物も登場します。肉食動物はいつでも凶暴で、草食動物はいつでもおとなしいのか、また小動物はいつも可愛いのかと、考えさせてくれる場面もあります。
それぞれの動物たちの、いかにもありそうな行動も出てきますし、意外な一面も出てきます。
そして主人公たちは、押し付けられた誤った「ありのまま」を打ち破り、本当の「ありのまま」を勝ち取ろうとします。
私たちが思っている自分自身の姿は、実は周囲に押し付けられた偏見なのかもしれません、私たちの「ありのまま」の個性は、まだ自分でも気づいていない部分にあるのかもしれません。
これは「アナと雪の女王」にも出てきたメッセージだと思うのですが、私たちはありのままの現状の姿を否定されると、悲しくなったり怒りたくなったりします。そして本当の意味のありのままを理解し受け入れると、人はそのままではいません。
♪「どこまでできるか、自分を試したいの」(『アナと雪の女王』主題歌「Let It Go〜ありのままで〜」)と、新しい自分のありのままの姿を探して、チャレンジを始めるのです。
ディズニーのメッセージは、子どもにも大人にも、夢と希望を与えます。そしてそれは、心理学的にも事実だと私は思っています。
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