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実現不可能な尹大統領の「8.15」提案! 三下り半突き付けられた北朝鮮に未練!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
尹錫悦大統領と金正恩総書記(大統領室と「労働新聞」から筆者キャプチャー)

 北朝鮮との対話、和解、協力に軸を置いた文在寅(ムン・ジェイン)前政権の「朝鮮半島平和プロセスは完全に失敗した」と批判していた尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は8月15日の「光復節」演説で初めて独自の「統一ドクトリン」を打ち出した。尹大統領の残りの任期は2年9か月である。果たして任期中に実現可能なのだろうか?

 韓国のメディアの多くは保守系、進歩系問わず、残念ながら実現不可能とみている。おそらく、当の尹大統領自身も実現できるとは思っていないであろう。

 尹大統領は「南北対話の扉は広く開かれている」と述べ、北朝鮮に実務レベルの「対話協議体」の設置を提案していたが、北朝鮮はすでに韓国を同胞ではなく、外国、それも「敵国」扱いにし、対話も交流も協力も一切やらないと、宣言している。

 南北を夫婦関係に例えるならば、これまで喧嘩(戦争)もし、仲直り(対話)もし、何とか夫婦円満な関係(統一)を築こうとしたが、今では疎遠どころか、絶縁状態に陥ってしまった。それどころか、一方が離婚を突きつけ、ついには一方的に戸籍まで抜いてしまった。離婚は認めないと叫んでも、片方からすればもはやアカの他人なのである。

 いくら「対話の扉は広く開かれている」と呼び掛けてもどう考えても「ただいまー」と言って、玄関の扉を開けて、入ってくるはずはない。さりとて、相手は扉を閉ざしているので入って行くこともできない。

 このドクトリンの立案に関与したとみられる金暎浩(キム・ヨンホ)統一部長官は「北朝鮮が反発するのでは」との質問に「私はそうは思わない。北朝鮮も慎重に検討するのでは」と回答していたが、本当にそう思っているとすれば、統一部長官失格である。

 金長官は信じ難いごとに「過去に実務級対話から高位級対話に繋がったケースもあり、南北間の信頼と交流のない状況ではボトムアップ接近を通じて一つ一つ成果を出していくことが必要である」と述べ、対話協議体で「南北連絡事務所の再稼働について話し合う」と言っていたが、金長官は南北連絡事務所が爆破され、跡形もないのを知らないのだろうか?

 尹大統領もまた、「北朝鮮が非核化の第一歩を踏み出すだけで政治的、経済的協力を即座に開始する」と、これまた非現実的なことを言っている。

 北朝鮮が核を放棄しないことは誰よりも尹大統領自身が知っているはずだ。というのも「文在寅政権は北朝鮮の非核化を信じ、騙された」と批判し、昨年11月には民主平和統一諮問会議の全体会議で「北朝鮮の政権が核を放棄できないのは核放棄が究極的には独裁権力を危険に陥れると考えるため」と、その理由まで語っていたからだ。

 尹大統領はまた、北朝鮮が非核化した場合の「大胆な構想」についても言及していたが、北朝鮮はすでに2年前に金正恩(キム・ジョンウン)総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)副部長が「紺碧の大洋を乾かし、桑畑をつくるといっているようなもので現実離れした愚かさの極致である」と全く関心を示していなかった。この時点でお払い箱にされているのである。

 どう考えても「北朝鮮が慎重に検討する」可能性はゼロに等しい。案の定、演説から3日経ったが、18日午前9時現在、北朝鮮からの反応はゼロだ。完全無視を貫いている。韓国からの水害支援の呼びかけにも反応しなかったことを考えると、予想されたことだ。

 北朝鮮を疲弊させるため経済制裁を掛け、金正恩政権を「非理性的な集団」、「主敵」と定義し、金正恩体制打倒を呼び掛けるビラを散布し、さらに拡声器を使って連日「自身の3代世襲政権の維持のためにだけ金を使っている無能な独裁者金正恩」と放送し、明日から世界最強の米軍と合同軍事演習を行い、圧迫する尹政権の呼び掛けに応じるほど金総書記は愚かではないであろう。ということは、尹大統領の提案はナンセンスであり、また一貫性がないことがわかる。

(参考資料:軍事衝突の危険を孕む「引いたら負け」の米韓対北朝鮮の「脅し合い」(Ⅳ)2024年5月~8月)

 尹大統領は大統領選挙中の2021年11月17日、韓国紙「国民日報」とのインタビューで「北朝鮮は国民が不安がれば、文政権を支持するだろうと計算し、あのようにミサイルを発射している。私に政府を任せてくれれば、あの者(金正恩)の癖をしっかり治す」と言っていたが、現実には北朝鮮のミサイル発射は文前政権よりも尹政権下の方がはるかに多い。

 三下り半を突きつけられ、赤の他人となった今、癖を治せるかどうか、甚だ疑問だ。

 人間関係ならば、未練を持たず、撚りを戻そうとせず、このまま突き放し、永遠に関係を断つことができるのだが、国民に向け「我々の前には必ず解決すべき重大な歴史的課題がある。それは、統一だ」と言った手前、そうはいかないのであろう。これからも遥か遠くに逃げる相手を追い続けなければならないようだ。

(参考資料:韓国人の88%が金正恩政権に反感! それでも尹政権の対北政策には60%が反対!韓国KBSの世論調査)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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