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北朝鮮の5県に韓国の知事が! それも脱北者が?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ソウル市内にある以北5道委員会の「庁舎」(以北5道委員会HPから)

 脱北者出身の「国民の力」の池成浩(チ・ソンホ)前議員(42歳)が「寄付金品法違反容疑で裁判に掛けられ、罰金刑(2千万ウォン)を宣告された」とのニュースが飛び込んできた。

 池氏は北朝鮮の咸鏡北道会寧市生まれで1996年の食糧危機時に石炭を盗もうとして列車に轢かれ、左の手と左の足が切断されるなど重度の身体障害を負いながらも18年前に松葉杖をついて中朝国境を越え、中国経由で韓国に入国した。議員時代に訪米し、ホワイトハウスでトランプ大統領(当時)に面談し、脚光を浴びたことはまだ記憶に新しい。

 池氏は北朝鮮人権団体「ナウ(NAUH)」の代表をしていた2020年までに登録庁に届けず、国民から後援金(28億ウォン=約3億1565万円)を集めていたことが問題視され、罰せられたようだが、池氏の現在の肩書がなんと、咸鏡北道知事になっていた。先月、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領によって咸鏡北道知事に任命されていたとのことだ。

 咸鏡北道は北朝鮮の北東部に位置する行政区であるが、韓国の憲法には「大韓民国の領土は朝鮮半島とその付属島とする」と定められているので韓国と陸を接している京畿道と江原道、それに分断前では平安北道と咸鏡南道に属していた慈江道と両江道を除く、咸鏡北道を含む咸鏡南道、平安南道、平安北道、それに黄海道の以北5道(県)は韓国に未収復されていないものの憲法上、韓国の行政区域となっている。そのため知事が任命されるのである。唐突にやってくるかもしれない南北統一の暁には直ぐに対応できるようにするためである。

 以北5道委員会は韓国行政安全部の管轄下にあるものの韓国の実効支配地区でないため知事は選挙ではなく、韓国の大統領が直接任命している。

 ソウル鍾道区にある委員会の建物には5人の知事と職員50人が常駐しており、知事の年俸は次官級なので約1億3300万ウォン(約1億5千万円)である。

 以北5道の知事は南北分断後以降、離散家族ら北朝鮮出身者が務めている。

 例えば、黄海道の奇德泳(キ・ドクヨン)知事(72歳)は黄海北道金川郡、咸鏡南道の孫良永(ソン・ヤンヨン)知事(74歳)は咸鏡南道北清郡、平安北道の李世雄(リ・セウン)知事(82歳)は平安北道義州郡出身で、いずれも失郷民である。

 しかし、尹錫悦政権になってから初めて脱北者の趙明哲(チョ・ミョンチョル)氏が第19代平安南道知事に起用され、大きな話題を集めた。

 金日成総合大学経済学部教授だった趙氏は1994年7月に脱北し、李明博(イ・ミョンパク)政権下の2011年に統一部傘下の統一教育院院長に任命され、朴槿恵政権下の2012年には与党「セヌリ党」の公認を受け、比例代表で当選し、脱北者出身の初の国会議員となったことで知られている。

 ちなみに翌年の2013年10月に他の外交委員会所属議員らと共に開城工業団地視察のため訪朝を申請したが、北朝鮮当局は唯一、趙議員には許可を出さなかった。

 現在の平安南道知事は陸軍第5軍団長や第3軍副司令官を歴任した軍人出身のチョン・ギョンジョ氏(72歳)だが、チョン知事は唯一、韓国釜山出身である。

 北朝鮮に「党責任書記」という肩書を持つ知事が建国以来存在するのでおかしなことに北朝鮮の5つの道に2人の知事が存在することになる。

 尹政権は自由主義による統一、即ち北朝鮮の自滅による吸収統一を成し遂げようとしているが、人口と経済力は韓国が北朝鮮を上回っているどころか圧倒しているものの国土面積では北朝鮮の12万余平方キロメートル余(朝鮮半島全体の55%)に対して10万平方キロメートル(45%)と小さく、事実上小が大を飲み込む形になる。

 ちなみに吸収統一されたドイツは東ドイツの10万8333平方キロメートルに対して西ドイツは24万8717平方キロメートルと国土面積は2倍以上もあった。

 北朝鮮は国連加盟国である。国連加盟国は190数カ国に上るが、このうち約160か国が韓国同様に「独立国」として北朝鮮を承認している。

 ドイツのように韓国が北朝鮮を吸収し、統一国家を樹立すれば、その時点で知事を任命すればよいものの今はどう考えても稚拙だ。また、この現象を不自然と思わない、異を唱えない韓国メディアの感覚もズレている。

 どう考えても、憲法改正は日本よりも韓国のほうが急務ではないだろうか。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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