【解説】「PS5」の強化版「PS5 Pro」発表 異例の12万円 世界情勢激変で思惑外れたか
ソニー・インタラクティブエンタテインメントは11日、家庭用ゲーム機「PS5」の強化モデル「PS5 Pro」を11月7日に発売すると発表しました。日本の価格は何と約12万円。同商品について考えてみます。
◇12万円 従来では考えられない価格設定
同日公開された「PS5 Pro」を紹介する動画「PS5テクニカルプレゼンテーション」では、現行機(PS5)と比べて、より高精細なグラフィックスを実現していることを強調。GPU(画像演算処理装置)のアップグレード、レイトレーシング(光の反射と屈折表現)の進化などを解説。しかし普通の人たちにとって現行機との差が分かりづらく、むしろ、日本にとって高すぎる価格に注目が集まっています。
価格ですが、米国で699.99ドル(税抜き)、日本は11万9980円(税込み)でした。特に日本の価格は、従来のゲーム機では考えられない高い設定。レートで換算すると、1ドル155円を超えています。
2カ月前、1ドルは160円目前でしたが、現在は1ドル140円台前半で推移しています。そうなれば税抜き10万円も「ありえる」と考えられていましたが、それだけに日本の12万円弱の価格設定は強烈でした。発表直後から「PS5 Pro」のワードがSNSでトレンド入りし、日本語での反応は総じて「高い」などと批判的です。
◇世界情勢の激変 思惑外れたか
今回の発表を見て改めて感じたのは、現在の世界情勢が激変し、ソニーの思惑から大きく外れたであろうことです。4年前にPS5について開発者に取材したとき、ゲーム機の設計は先の先を見据えてするもの……と教えてくれました。言葉に出さず、強化版の存在を示唆してくれたのです。
・PS5の構想とコンセプトは 5年後を見抜く眼力 そしてその先は…… 二人のキーマンに聞く(Yahoo!ニュース エキスパート 河村鳴紘)
そして前世代「PS4」では、年数の経過でゲーム機の価格が下がり、PS4シリーズの商品寿命を延ばすために「中継ぎ」として強化版「PS4 Pro」を投入したわけです。価格もそれなりに手ごろでしたから「PS4 Pro」のときは、PS4の所有者(ゲームファン)に対して「買い替え」を促すサインになっていました。この成功例を、PS5でもなぞろうとするのは、当然です。
ところが、世界的なインフレ、そして急激な円安が進みました。「PS5 Pro」ではディスクドライブを「なし(別売り)」にしており、「少しでもコストを下げたい」という意図……苦しみが見えてきます。
前述した通り、ゲーム機の設計・開発は数年前から動いているもので、技術的な意味での予測は可能なわけです。しかし「ロシアがウクライナに攻め込む」「世界的なインフレが進む」「急激な円安が進む」ということを予測しろというのは無理筋です。
◇ゲームファンのジレンマ
PS5の価格を下げるどころか、日本で何度も値上げせざるを得ない時点で、「PS5 Pro」の買い替えを促すようなお手頃な価格にするのは厳しいものがあったのでしょう。そうなると「PS5 Pro」は、経済力に余裕のある人向けの商材になります。しかし、熱烈なゲームファンであれば、高性能のゲーム機はとても欲しいわけで、ジレンマに苦しみます。そして批判の矛先(ほこさき)は、メーカー(ソニー)に向かうことになります。
PS5本体の売れ行きが伸びない日本市場の扱いが高くないのは、価格設定からも見えます。現行モデル(PS5通常版)と強化版(PS5 Pro)の価格差ですが、米国は200ドルですが、日本は4万円の上乗せなのですから。正直、日本に配慮して10万円を切る価格にしても、売れ行きが伸びないでしょう。
そもそも日本の庶民の感覚からすると、ゲーム機に5万円を出すこと自体が一苦労で、実は値下げを待っていたゲームファンは少なくなかったのではないでしょうか。むしろ今月2日から値上げされたPS5の通常モデルが約8万円(正確には7万9980円)で、PS5 Proの価格を知ったあとでは安く思える……という妙なことになっています。いずれにしてもメーカー、日本のゲームファンの双方にとって「どうにもならない」という答えになってしまうのが悲しいところです。
◇強化版を出した「狙い」 日本市場では薄く
今後は、PS5全体の出荷数に今後の注目が集まりそうです。PS5 Pro単体のデータを開示するかは不明ですが、PS5全体の数字は決算で出るわけで、弾みが付くかですね。
外部要因があるにせよ、強化版「PS5 Pro」を、このタイミングで発売したという「狙い」が、結果として薄まったことの影響が気になります。本来は、米欧でも通常版などを値下げして、PS5 Proの価格をよりお手頃にしたかったのがソニーの本音ではないでしょうか。
今後のPS5の普及はもちろん、業績、そして家庭用ゲーム機のビジネスモデルそのものに影響しないか心配なところです。