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止まらない北朝鮮の「ゴミ風船」 韓国軍はゴミ風船の拠点を爆撃できるのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
仁川市の野原に落下した北朝鮮のゴミ風船(仁川市消防署配信)

 北朝鮮のゴミ風船が5日連続で韓国側に落下し、韓国はその対応に苦慮しているようだ。

ソウル市内に落下した北朝鮮のゴミ風船(韓国合同参謀本部配信)
ソウル市内に落下した北朝鮮のゴミ風船(韓国合同参謀本部配信)

 韓国の対北宣伝ビラに対抗した北朝鮮のゴミ風船は5月28日から開始されたが、この間6月が最も多く6回あった。以後は7月に3回、そして8月に1回と減少傾向にあった。

 ところが、9月はすでに延べ6回に達している。ゴミ風船が再開された9月4日から8日まではなんと、5日連続である。また、5日は午前と午後2回も行われていた。結局、この5日間で確認されただけでゴミ風船は1250個に上り、このうち約400余個が軍事境界線に近い京畿道及びソウルに落下した。

 不気味なのは、北朝鮮が何も言わず、ただひたすら韓国に向け飛ばしていることだ。北朝鮮がこの件で言及したのは、金与正(キム・ヨジョン)党副部長の7月16日の談話が最後だった。

 金正日(キム・ジョンイル)総書記の代理人でもある金副部長は韓国の脱北団体が軍事境界線付近から北朝鮮に向けて飛ばしている対北宣伝ビラについて「他の複数の地域でもビラに関する申告が届けられている。専門機関がせわしく活動しており、多くの地域で当該区域のロックダウンによって人民の不便が増大している。これ以上傍観していられない状況が迫っている。改めて厳重に警告する。凄惨であっけに取られる代償を覚悟すべきであろう」と警告していた。

 その2日前の7月14日の談話では「韓国の連中は面倒なことによって疲れ果てるようになるであろうし、当然汚らわしいことをしでかした代償について覚悟すべきであろう」とも言っていた。

 結果は韓国にとって不幸にもそのとおりになっている。

 軍隊から警察、それに消防隊まで動員され、ゴミ風船の回収などの対応に追われている。

 ゴミ風船が集中的に落下している首都圏では風船の落下により乗用車のフロントガラスの破損や住宅屋上での火災発生といった被害が出ている。昨日(8日)もゴミ風船の落下により倉庫が火災し、約8700万ウォンの被害を出していた。

 韓国の消防庁のデーターでは、ゴミ風船に関する申告は8月13日まで延べ1567件に上り、消防車2485台、消防署員1万405人が出動していた。

 住民の不安は高まる一方だが、大統領室から国会議事堂、国防部、駐韓米軍、駐日大使館にもビラが落ち、また空港に落下し、飛行機の離着陸に影響を及ぼすなど国際空港の安全も脅かされている。公表されただけでも仁川空港では滑走路が12回も運用が停止されている。

 韓国は6月9日に北朝鮮のゴミ風船に対抗し「北朝鮮が耐えられないような措置を取る」として再開させた対北拡声器放送を7月18日以降は連日、軍事境界線の東部、西部、中部を含む全戦線で午後5時から午前5時まで12時間流しているが、それでも北朝鮮は一向に止めようとしない。

 現状では韓国の選択肢は言論の自由の一環として容認している脱北団体の対北ビラ散布を止めさせるか、拡声器放送を中止するかの2択しかないが、いずれも北朝鮮との「ビラ合戦」での「敗北」となることから北朝鮮との対決姿勢を鮮明にしている尹政権にとっては呑める話ではない。

 チキンレースは引いたほうが負けだ。「目には目を歯には歯を」での対応、即ち相手が譲歩しない限り、振り上げたこぶしを下ろすわけにはいない。舐められたら、あるいは「張り子のトラ」扱いされたら、二度とチキンレースを挑むことはできないからである。

 そうなると、今後、保守派の一部で議論されている「自衛権」の名によるゴミ風船の拠点への「爆撃」が検討の俎上に載るかもしれない。

 韓国与党「国民の力」の有力な政治家で、国防委員会委員長でもある成一鐘(ソン・イルチョン)議員は韓国紙とのインタビューで「我々は黄海道にあるゴミ風船の拠点13カ所をすでに把握している。我が軍はいつでも攻撃することができる」と、北朝鮮が止めなければ武力行使も辞さないと、北朝鮮を牽制していた。

 しかし、軍事的措置を取れば、休戦協定違反にとどまらず、北朝鮮の反撃を受けることになり、戦火に繋がる危険が大だ。

 北朝鮮の場合は、今から14年前の2010年10月、人民軍西部前線司令部が「公開通告状」を出して、「止めなければビラを散布する場所に向けて打撃を加える」と威嚇し、実際に韓国に向け銃撃を加え、翌11月23日には韓国の延坪島を砲撃したことがあったが、韓国は「休戦協定違反は容認しない」とする国連軍(駐韓米軍)が許可しない限り、勝手にはできないであろう。

 韓国はしばらくの間、ゴミを拾うしか術がないが、尹政権が、軍が果たしてどこまで我慢できるだろうか、それが今後の問題だ。

(参考資料:北朝鮮の14回目の「ゴミ風船」に韓国軍は290発の射撃訓練で対抗!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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