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あか牛は黒毛和牛ではない? 和牛の中で僅か1%しかいないあか牛を鉄板焼で味わえる!

東龍グルメジャーナリスト
鉄板焼 匠 (C) 東龍

黒毛和牛の頭数

鉄板焼は和牛をメインに用いているだけあって、他の業態に比べると高単価です。ランチでも1万円前後、ディナーでは2万円強が通常の価格帯に分類されます。

和牛をメインにすると述べましたが、基本的に和牛の中で用いられるのは黒毛和牛(黒毛和種)。神戸ビーフ、松阪牛、近江牛、前沢牛、仙台牛、宮崎牛など、よく知られたブランド牛のほとんどが黒毛和牛です。他の和牛には褐毛和牛(褐毛和種)、日本短角和牛(日本短角和種)、無角和牛(無角和種)がありますが、飼育頭数が非常に少なく、鉄板焼で用いられることはほとんどありません。

家畜改良センターの牛個体識別全国データベースを参照すると、2022年6月末時点において日本全国で飼育されているのは、黒毛和牛1,750,886頭、褐毛和牛22,743頭、日本短角牛7,334頭、無角和牛197頭。黒毛和牛が和牛全体の約98.3%を占めるなど、圧倒的に多いことがわかります。

褐毛和牛の鉄板焼

ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ「鉄板焼 匠」 (C) 東龍
ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ「鉄板焼 匠」 (C) 東龍

和牛を主役とする鉄板焼では、サシの具合や知名度、流通状況を鑑みて、利用されるのはほぼ全てが黒毛和牛。そういった状況にあって、あえて和牛全体の約1.3%しかない褐毛和牛をメインに据えた鉄板焼のコースがあります。

それは、ホテル インターコンチネンタル 東京ベイの「鉄板焼 匠」で2022年9月1日から11月30日にかけて行われている「くまもとあか牛フェア」(ランチ 平日 13,200円 土日祝 14,300円/ディナー 平日 25,300円、土日祝 26,400円)。

褐毛和種はあか牛とも呼ばれ、熊本県と高知県のあか牛をルーツにもつ品種です。その熊本県のブランドである、くまもとあか牛は赤身が多く、肉質等級は2から3と脂肪分は控えめ。コレステロールを減らしたり、心臓や肝臓の機能を高めたりするなど、様々な効果があるタウリンが豊富です。

くまもとあか牛フェア

ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ「鉄板焼 匠」内観 (C) 東龍
ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ「鉄板焼 匠」内観 (C) 東龍

「匠」で2018年9月から料理長を務めるのは、馬原雄一氏。外資系ホテルで豊富な経験を積んできており、見応えのあるパフォーマンスやプレゼンテーションが好評を博しています。

その馬原氏が力を込めるのがディナーの「くまもとあか牛フェア」です。

「くまもとあか牛フェア」ディナー

・グラスシャンパーニュ(Web予約特典)

※ノンアルコールスパークリングワインに変更可能

・冷前菜

匠 ファーストディッシュ 焼きトマトのフランベ

・温前菜

くまもとあか牛の"クラシタ"の和風煮込み 南阿蘇のバジル香る南関揚げと西原村の柚子胡椒添え

・魚料理

活 伊勢海老のグリル 球磨焼酎香るクリームソース有明海苔を添えて

・焼き野菜

本日の焼き野菜

・肉料理

くまもと あか牛のロース80g

・ご飯

味噌汁と香の物

特製高菜ご飯 または 特製ガーリックライス

・デザート(隣接するラウンジへ席を移動)

「アトリエ・デセール」より パティシエ特製デザート

・お飲物

コーヒー または 紅茶

黒毛和牛の通常コースと同じ流れになっており、温前菜やメインディッシュでくまもとあか牛が提供されています。定番の焼きトマトのフランベがあり、伊勢海老まで体験できるので、非常に贅沢なコースです。

コースを詳しく紹介していきましょう。

匠 ファーストディッシュ 焼きトマトのフランベ

匠 ファーストディッシュ 焼きトマトのフランベ (C) 東龍
匠 ファーストディッシュ 焼きトマトのフランベ (C) 東龍

栃木県の甘味の強い桃太郎トマトを目の前で華麗にフランベしました。ほんのりとした酸味があり、ジューシーな果肉が食欲をかきたてます。キプロスのレモン塩、低温で揚げた青森県のニンニク、千葉県のルッコラが添えられ、ヘルシーなイタリアの亜麻仁オイルが仕上げにかけられます。

くまもとあか牛の"クラシタ"の和風煮込み 南阿蘇のバジル香る南関揚げと西原村の柚子胡椒添え

くまもとあか牛の
くまもとあか牛の"クラシタ"の和風煮込み 南阿蘇のバジル香る南関揚げと西原村の柚子胡椒添え (C) 東龍

くまもとあか牛のクラシタ=肩ロース肉を2時間煮込んでやわらかくしました。昨年のフェアでは提供していなかった新たな一品です。馬原氏いわく「一頭買いしているので、色々な部位を使いたいと思いました。鉄板焼では利用されないクラシタを主役にしています。だんだん涼しくなってくるので、煮込み料理はよりおいしく感じられるのではないでしょうか」

スープは鰹と昆布の出汁がベースで滋味があります。南阿蘇村のバジルペーストが載せられた熊本名物の乾燥油揚げ「南関あげ」が添えられていました。熊本県阿蘇郡西原村の手づくりの柚子胡椒は、辛味よりも華やかな香りが印象的。リムに添えられるので、好みでつけていただきます。

活 伊勢海老のグリル 球磨焼酎香るクリームソース有明海苔を添えて

活 伊勢海老のグリル 球磨焼酎香るクリームソース有明海苔を添えて (C) 東龍
活 伊勢海老のグリル 球磨焼酎香るクリームソース有明海苔を添えて (C) 東龍

豊洲市場からの身が詰まった伊勢海老は、ややミキュイ(半生)に焼き上げました。貝の出汁、生クリーム、熊本県の球磨焼酎を用いたソースが仕上げにかけられます。球磨焼酎の香りが出色で、まろやかな味わいに。昨年のフェアでは伊勢海老にデコポンのソースを合わせましたが、今年は全く別の味わいです。伊勢海老の上にはライ麦パンと有明海苔の佃煮が載せられ、どちらともよいアクセントに。

本日の焼き野菜

本日の焼き野菜とくまもとあか牛のロース80g (C) 東龍
本日の焼き野菜とくまもとあか牛のロース80g (C) 東龍

季節に最適な野菜が焼かれます。黒豆モヤシ、徳山県の小さい天然椎茸である「ちいたけ」、緑色のビタミン大根、バターナッツかぼちゃ、胡麻油で焼いたオカヒジキ、アボカドと、東京では普段食べられない野菜がたくさん供されていました。

くまもとあか牛のロース80g

くまもとあか牛のロース80g (C) 東龍
くまもとあか牛のロース80g (C) 東龍

黒毛和牛のように脂がのった4等級程度のロース肉。馬原氏がオススメするミディアムレアの焼き加減で、表面はカリッと焼き上げ、中は赤身のジューシーな佳味が堪能できます。最高の状態で食べてもらいたいということから、手間はかかりますが、2回にわけて焼いてくれました。

コンディメントは実に豊富。オリジナルのつけジュレは3種あり、タマネギ、1週間かけてつくった自家製ポン酢、胡麻と黒胡椒です。プレーン、抹茶、ショウガという3種類の塩に、本ワサビ、金沢県の醤油も添えられています。最初は肉をそのまま食し、その後に好みでコンディメントをチョイスしてみるとよいでしょう。

特製高菜ご飯

味噌汁と香の物

特製高菜ご飯味噌汁と香の物 (C) 東龍
特製高菜ご飯味噌汁と香の物 (C) 東龍

熊本県のお米「森のくまさん」、熊本県の高菜、胡麻油、バターを用いて、鉄板焼では珍しい高菜ご飯を。香の物は熊本県の大根の五分漬。食後に、福岡県から馬原氏の知人がつくる希少なマコモダケの真菰茶をいただけます。

「アトリエ・デセール」より パティシエ特製デザート

イタリア産の濃厚なマスカルポーネを使った抹茶のティラミス (C) 東龍
イタリア産の濃厚なマスカルポーネを使った抹茶のティラミス (C) 東龍

最後のデザートと飲み物は、転卓してゆっくりと味わえます。

「イタリア産の濃厚なマスカルポーネを使った抹茶のティラミス」「桃とラズベリーのバシュランミルクアイス」「フルーツの盛り合わせとマンゴーとパッションのソルベ」という3種類から選べました。

チョイスしたのは「イタリア産の濃厚なマスカルポーネを使った抹茶のティラミス」。マスカルポーネチーズのおだやかな風味が、抹茶のほろ苦さを包み込んでいます。ここまでは和風の流れだったので、最後の洋風デザートで、メリハリある味わいです。

赤ワイン

左が「グロス カベルネ・ソーヴィニヨン オークヴィル 2017」、右が「テラザス・デ・ロス・アンデス  グランド・マルベック 2017」 (C) 東龍
左が「グロス カベルネ・ソーヴィニヨン オークヴィル 2017」、右が「テラザス・デ・ロス・アンデス グランド・マルベック 2017」 (C) 東龍

さすが鉄板焼店ということで、肉料理とマリアージュする赤ワインが取り揃えられています。

「グロス カベルネ・ソーヴィニヨン オークヴィル 2017」はアメリカのナパ・ヴァレーにある銘醸ワイナリーの赤ワイン。カベルネ・ソーヴィニヨン86%、メルロー14%と、しっかりした味わいです。「テラザス・デ・ロス・アンデス グランド・マルベック 2017」は、アルゼンチンで誉れ高い生産者の赤ワイン。日本ではそこまで馴染みのない品種マルベックを用いて、重厚感を醸し出しています。

どちらとも、くまもとあか牛の佳味を引き出してくれる素晴らしい赤ワインでした。

くまもとあか牛フェアが開催された理由

料理長の馬原雄一氏 (C) 東龍
料理長の馬原雄一氏 (C) 東龍

くまもとあか牛をしっかり堪能できるコースでしたが、どのようにして企画されたのでしょうか。馬原氏は答えます。

「以前から親交のあった慶応大学の教授の岸様から、くまもとあか牛のプロジェクトを進めていると連絡がありました。褐毛和牛は、脂が少なくてヘルシーというイメージがありますが、本来は脂がおいしいので一度試食してほしいと依頼されたのがきっかけでしたね」

馬原氏も褐毛和牛はヘルシーだと思っていましたが、実際に試食したところ、赤身と脂身のバランスがとれた肉であることがわかったといいます。これなら舌の肥えた「匠」のゲストに喜んでもらえると考え、総料理長の中宇祢満也氏に打診したところ、素晴らしい食材であると納得してもらえました。そして2021年に初めて、くまもとあか牛フェアを開催するに至ったということです。

「コロナ禍でアルコール提供の自粛などありましたが、来店したお客様から、褐毛和牛の概念が変わったといっていただきました。大変好評だったので、翌年も開催できればと企画して今回に至ります」

2022年7月12日に、熊本県南阿蘇村、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科、熊本県畜産農業協同組合連合会が「阿蘇の農畜産業と環境保全に関する相互連携協定 締結式」を行いました。くまもとあか牛の産業支援を通じて、人や環境、社会に配慮したエシカル消費に対応した産業の創出を目的としたものであり、これに賛同した馬原氏も立ち合っています。

この際にも一泊二日という短い日程で、くまもとあか牛の生産者のもとにも足を運びました。

お客様の期待に応えたい

転卓してデザートを楽しめる (C) 東龍
転卓してデザートを楽しめる (C) 東龍

馬原氏はくまもとあか牛の魅力について、次のように話します。

「さらりとしたのど越しなのに脂身がおいしいことだと思います。神戸ビーフや松阪牛よりも軽いですが、旨味は十分です。最近では、お客様もこちらを好まれる傾向にありますね」

黒毛和牛と、くまもとあか牛では、コース構成に違いはないといいます。素材の旨味や特徴を生かしつつ、その産地の調理法や調味料などを使用しているので、いつ来ても楽しめるとゲストに評判だということです。

「昨年のフェアが終わった後、お客様からくまもとあか牛はまたいつ食べられるのかとよく聞かれました。期待にお応えしたいので、熊本県畜産農業協同連合会のお力を借りて、入荷できる限りご提供したいですね」

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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