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新卒採用で乱立するインターンシップ。「就業体験」できていないとの不満も

酒井一樹就活SWOT代表
(写真:アフロ)

【インターンが乱立している?】

昨年に続いて、2020卒採用でもインターンシップ実施企業の増加が止まらない。

2020卒の採用広報解禁は来年3月だが、インターン情報サイトは今年6月からすでにオープンしている。

「インターン情報なら掲載できるから…」と仕方なくインターンへとシフトしている企業も多く、「新卒採用を行うならインターンの実施は前提」と考える人事担当者も増えているようだ。

今年6月1日時点で、インターンシップ実施企業数は延べ1万6000社だった(リクナビ・マイナビ・キャリタスなど主要サイト合計)。これは前年比1.2倍の数字となっている。

これらのインターンは基本的に就活前の2020卒(大学3年生・修士1年)を対象としたものであり、長期インターンではない。

ほんの数年前までは、グランドオープン時点の掲載企業数が1万社に行くか行かないかというような話をしていたのが、今やインターン実施企業の数だけでそれを上回っている事になる。

【秋季インターンは昨年より増加】

夏のインターンも前年比増加だったが、さらに急激に増えているのが秋のインターンだ。

9月25日時点で調査したところ、最大手のナビサイトにおける10月のインターン実施企業数は約2300社となっていた。

去年の同時期調査で同ナビでは1500〜1600社程度であったため、10月に限って見れば1.5倍に急増している。

ナビサイト側の営業努力によるものもあると思われるが、それを差し引いて考えても秋冬インターンのピークは前倒しされたと言えるだろう。

昨年他社よりも出遅れたという企業が、他社に遅れを取らないため10月からの実施を決めたという例も少なくない。

なお10月〜年明け2月までにインターンを予定している企業数を見ると7359社となっており、この数値も前年同時期比で2割程度増加している。

インターンイベントの開催件数も増加

これから10月に開催されるインターンイベントも多く、昨年までインターンイベントが開催されていなかったような地方都市でもインターンイベントの開催が決定されている。

「主要都市まで出てくる余裕がない学生にも少しでも多くアプローチしたい」という企業側の意向を反映している。

【インターンのノウハウ不足と対応人員が課題】

学生にとって、参加を検討できるインターンの選択肢が増えることは悪いことではない。

しかし問題はその中身だ。

インターン実施においてネックになりやすいのが、「受け入れる側の人員」だ。

特に中小企業では現場受け入れにそこまでの余裕がなく、大企業に比べてインターンを実施できる体力のある企業は少ない。

ノウハウがないため、外部から講師を呼んでいるケースも多い。

ある採用コンサルタントはこのように話す。

「インターンを実施したことがない企業で、プログラムの企画、学生募集、当日の運営から講師役までをまとめて依頼される事は多い。社員の方にはメンター役として入ってもらうようにお願いしているが、企業によってはなかなか現場社員の時間を確保してもらえない事もある。結果として人事とだけ交流して終わり…という事になりがちです。」

1日だけの短期インターンなどでは、人事以外の社員と接点が持てないようなプログラムもある。

人事担当者が魅力的であれば学生を惹き付ける事は十分に可能だが、それは本当にインターンと言えるのかと疑問符が付くのではないだろうか。

学生側からも不満の声は聞こえる。

「インターンで具体的な仕事を体験できればと思っていたが、実際には企業説明とグループワークだけのインターンも多かった」

「用意されたゲーム(ワークショップ)をやっただけなのに、インターンと言って良いのか疑問」

など、特に期間が短いインターンに対して実施意義に疑問を感じる学生も少なくない。

ナビサイトに掲載される企業の中で、1Dayインターンを開催する企業は7割程度となり過半数を超えている。

(数日〜数週間のインターンも併用している企業もあるが、1Dayしか開催しないという企業も多い。)

またインターンは「やりっぱなし」では意味がなく、参加した学生をフォローし続けて入社につなげてこそ企業側の実施メリットとなる。

そのためには参加学生へのアフターフォローが必要であり、この点もリソースが不足する中小企業にとっての悩みのタネとなっている。

東京商工会議所の加盟企業に対する調査では、インターンを「実施したことがない」割合が大企業では23.0%に対し、中小企業では73.1%と高くなっている。

一部業種のベンチャー企業においてはインターン経由の採用を積極的に行っているが、それはごく一部の業種・業態に限られる。

基本的に採用の手法がインターンにシフトしていくと、中小企業は相対的に採用市場で不利になっていくと言えるだろう。

【学生募集の競争も激化】

またインターンの開催数が増えても、就活をする学生の数が増えるわけではない。

知名度のない中小企業はもちろん、大企業も目標とする応募者数を達成することは困難になってきている。

インターン情報の掲載も無料ではなく、最低限のプランでも数十万。プランによっては100万単位の出費となる。

ある中小企業の経営者は、「学生からのエントリーを集められず、媒体費用ばかりかかるため新卒採用をストップした」と語る。

インターンの応募を増やそうと「学生ウケ」の良い企画を立案する企業もあるが、本業に関係ないプログラムを企画しても本採用の応募につながるとは限らない。

特に中小企業においては、「本採用にも応募したインターン参加者がいた」割合が53.8%…つまり半数程度に留まるという調査(東京商工会議所調べ)もある。同調査項目において大企業は81.0%となっており、インターンから採用成果を出せていない中小企業の姿も浮き彫りになっている。

昨年より更にインターンが定番となり、インターンが「会社説明会」および「選考」の代替になっている。

インターンで応募者を集められない企業はますます採用市場で不利になってしまうだろう。

就活SWOT代表

慶應義塾大学在学中、世界初の就活SNSの代表に就任。国内最大の就活SNSへと成長させた後に大学を卒業し、エグゼクティブサーチを行う人材ベンチャーに入社。役員・事業責任者などの幹部人材の採用支援に携わる。2009年にエイリストを設立し「自分の頭で考え、行動する人材を増やす事」を命題として就職情報サイト「就活SWOT」を開設。

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