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【インタビュー前編】クレイドル・オブ・フィルスの幻想と怪奇の世界/2018年5月来日

山崎智之音楽ライター
photo by Arturs Berzins

エクストリームなメタル・サウンドと漆黒の耽美主義によって、闇の住人たちから崇拝されてきたクレイドル・オブ・フィルスが2018年5月、ジャパン・ツアーを行う。『LOUD PARK 17』フェスで戦慄のステージを披露して、まだ鮮血が乾く間もなく再来日を果たす彼ら。アルバム『クリプトリアナ~腐蝕への誘惑』を引っ提げてのライヴに、ゴールデンウィークの日本は惨劇の現場となる。

全2回の来日直前インタビュー。カリスマ・ヴォーカリストのダニ・フィルスの案内で、“幻想と怪奇”に満ちた19世紀、ヴィクトリア時代の霧のロンドンへと旅立とう。

ヴィクトリア女王の時代にはロマンがある

●最新アルバムのタイトル『クリプトリアナ~腐蝕への誘惑』の“クリプトリアナ”とはどういう意味ですか?

Cryptoriana / The Seductiveness of Decay (現在発売中)
Cryptoriana / The Seductiveness of Decay (現在発売中)

イギリスのヴィクトリア女王の在位時代(1838- 1901)を“ヴィクトリアナ”と呼ぶんだ。それとcryptic(秘密・神秘)を合体させて“クリプトリアナ cryptoriana”とした。俺の造語だから辞書には載っていない。基本的にこのアルバムはヴィクトリア時代のゴシック・ホラーを題材にしているんだ。きわめて緩い意味でのコンセプト・アルバムといえるかな。ひとつのストーリーがあるわけではないけど、トータルな世界観があるんだ。アルバムを作る前、当時の小説をよく読んでいた。E.F.ベンスンやアーサー・コナン・ドイル卿、H.R.ハガード、ロバート・ルイス・スティーヴンソン... あと時代はやや後になるけど、M.R.ジェイムズの作品を読み返したりね。“幻想と怪奇”と呼ばれる英国文学だ。ヴィクトリア時代の人々はオカルトや神秘主義に魅了されていた。降霊術も頻繁に行われたんだ。当時の彼らにとって、“オカルト”と“科学”はボーダーレスだった。そんなダークで奇怪な世界観は、クレイドル・オブ・フィルスの作品の題材としてぴったりだと思ったんだ。

●ヴィクトリア時代には奇妙な魅力がありますね。切り裂きジャックやシャーロック・ホームズ、H.G.ウェルズ、オスカー・ワイルド、エレファント・マン...。

そう、ロマンがあったんだ。バネ足ジャック、スウィーニー・トッド...当時は猟奇小説を掲載したチープな週刊誌形式の“ペニー・ドレッドフル”も人気があった。盗賊や海賊、毒殺者、吸血鬼...アメリカの『ユニバーサル』映画のモンスター達だって、多くは19世紀のイギリスで生まれたものなんだ。ドラキュラやフランケンシュタインの怪物、ジキル博士とハイド氏だってそうだよ。H.G.ウェルズが『タイムマシン』や『宇宙戦争』などの小説を書いたのもこの時代だ。ジェフ・ウェインによる『宇宙戦争』ミュージカル版(1978)も大好きなんだ。君は知っている?

●はい、知っていますが、日本では大きなヒットはしなかったようですね。

そうなんだよ。イギリスやオーストラリア、オランダでは今でも人気があるんだけど、他の国だと「何それ?知らない」と言われたりする。壮大で大仰で、リチャード・バートンのナレーションも最高だ。すごく影響を受けたよ。ニュー・ヴァージョン(2012)の制作が決まったとき、俺もオーディションを受けたんだ。オリジナルでフィル・ライノットが演じたパーソン・ナサニエルの役だった。結局クレイドル・オブ・フィルスのツアーとバッティングしてしまって実現しなかったけど、ジェフ・ウェインの自宅に行って、いろいろ話すことが出来たよ。

●ヴィクトリア時代は、現代のイギリスの若者にとっても魅力的な題材なのでしょうか?

そう思うよ。アラン・ムーアのグラフィック・ノベル『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』やTVシリーズ『ペニー・ドレッドフル〜ナイトメア血塗られた秘密〜』で、19世紀の怪異は若い世代にも知られるようになった。どの時代でも、男の子というのは“幻想と怪奇”が好きだからね!

Cradle Of Filth / photo by Arturs Berzins
Cradle Of Filth / photo by Arturs Berzins

ヨーロッパ大陸的なニュアンスは初期からあった

●『クリプトリアナ~腐蝕への誘惑』の音楽性について教えて下さい。

おそらく最近の俺たちのアルバムでは最もメロディが明確な作品だな。ある意味NWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)的かも知れない。まあ具体的にいえばジューダス・プリーストとアイアン・メイデンに近いアプローチかな。メロディアスなツイン・リード・ギターが入っているよ。

●あなた自身はNWOBHMを通過しているのですか?

俺は44歳だし、NWOBHMはどちらかといえば後追いなんだ。最近になってようやく入り口に辿り着いたところだよ。元々メタルを聴くきっかけとなったのがマーシフル・フェイトだったし、オジー・オズボーンやアイアン・メイデンを聴いていた時期は比較的短くて、すぐにスレイヤーなどのスラッシュ・メタルを愛聴するようになった。NWOBHMまで遡って聴く余裕がなかったんだ。最近になって当時のシングルを集めたコンピレーションをよく聴いている。エンジェル・ウィッチやサクリファイス、ダークネス、スローター、ミノトアー、ザ・キル...どちらかといえばスラッシュ寄りのバンドが好きかな。掘り下げていくと、どこまでも奥行きがあるんだ。頂上の見えない高い山を登っているようだよ。

●メタル以外で聴いている音楽は?

映画音楽をよく聴いている。『ドラキュラ』(1992)のヴォイチェフ・キラールの映画スコアは、クレイドル・オブ・フィルスの音楽性を確立させるのに重要な位置を占めていた作品だった。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』 (1994/エリオット・ゴールデンサール作曲)や『スリーピー・ホロウ』(1999/ダニー・エルフマン作曲)も素晴らしいし、ジェリー・ゴールドスミスの『オーメン』(1976)はオールタイム・フェイヴァリットのひとつだ。もちろん昔のハマー・ホラー映画の音楽も好きだよ。最近のものでは『猿の惑星 聖戦記/グレイト・ウォー』(2017/マイケル・ジアッキーノ)のサウンドトラックが素晴らしかった。キアヌ・リーヴスが出ていた『エクスポーズ 暗闇の迷宮』(2016/カルロス・ホセ・アルヴァレス)の音楽も悲しみに満ちていて美しかったし、『スターゲイト』(1994/デヴィッド・アーノルド)、『パンズ・ラビリンス』(2007/ハヴィエル・ナヴァレテ)...いずれも音楽として優れていて、同時に映像を高める効果も果たしている。『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)や『オペラ座の怪人』(1925)のようなサイレント映画に新たに音楽をつけるという試みも行われていだろ?いつか俺もやりたいと考えているんだ。

●クレイドル・オブ・フィルスのアルバムで音楽とコンセプトは通常、どちらが先に来るのですか?

まず数曲ぶんの音楽からスタートする。4、5曲書いた時点でイメージが拡がって、それがコンセプトへと結びついていくんだ。もちろん俺は常にアンテナを張り巡らせて、幾つもコンセプトの可能性を考えている。先に歌詞とコンセプトだけがあって、それに合わせて曲を書くのは難しい。曲がコンセプトを育てて、コンセプトが曲を育てていくんだ。『クリプトリアナ~腐蝕への誘惑』のコンセプトを勧めてくれたのは、俺の嫁さんだった。ニュー・アルバムを作るにあたって、マレク “アショク” シュメルダ(ギター)とマーティン “マルテュス” スカロウプカ(ドラムス/キーボード/オーケストレーション)が済んでいる2人が住んでいるチェコのブルノに行って、曲作りのセッションを行ったんだ。1週間のセッションで、アルバムの大半が出来上がった。でも、その時点ではまだコンセプトが決まっていなかったんだ。さあ、どうする?...と頭を抱えていたら、嫁さんが「いろんな本を読んでいるじゃない。良い題材はなかったの?」と言ってきた。「ヴィクトリア時代のゴースト・ストーリーだったら読んでいるけどね...」と答えたとき、パッと光が差したんだ。あとは流れるようにコンセプトが出来上がっていったよ。

●チェコ人メンバーが2人いることで、クレイドル・オブ・フィルスの音楽性には“チェコらしさ”があるでしょうか?

彼らのことを俺は“チェック・メイト Czech mates”と呼んでいるんだ(笑)。ただ、俺たちの音楽性はチェコ・メタルではないと思うよ。元々クレイドル・オブ・フィルスの音楽性にはヨーロッパ大陸的なニュアンスがあった。最初期の、メンバー全員が近所に住むイギリス人だった頃からね。アショクとマルテュスはそんなスタイルを熟知しているから、『クリプトリアナ』でも受け継いでいる。ただ、彼らは決して自分を偽っているわけではなく、チェコ出身というルーツを活用しているよ。彼らだけではなく、クレイドル・オブ・フィルスは結成から20年以上を経て、インターナショナルなバンドになっている。キーボード奏者のリンゼイ・スクールクラフトはカナダのトロントに住んでいるし、ベーシストのダニエル・ファースはグラスゴー在住だ。全員がバラバラに住んでいるんだ。ツアーとレコーディングのときになると、毎日イヤになるほどお互いの顔を見ているけどね!

●最近ではネット経由で音源トラックをやり取りしてアルバムを作るアーティストもいるようですが、クレイドル・オブ・フィルスはどうでしょうか?

デモを送って曲作りに使ったりするけど、俺はオールドスクールなミュージシャンだし、出来るだけ集まって作業するようにしている。昔は滞在型スタジオを借りて、3ヶ月をかけてレコーディングをしていたよ。最近では滞在型スタジオというものが少なくなってしまったけどね。『ダムネイション・アンド・ア・デイ』(2003)のときはウェールズにあるワインディングスって滞在型スタジオを使ったし、やはりウェールズで、イングランドに近いロックフィールド・スタジオも数週間、ソングライティングで使ったことがある。今回、チェコのブルノで久々に合宿して曲作りをして、楽しかったね。美しい街並みから多大なインスピレーションを得ることが出来たし、正直なところ、イギリスのスタジオより費用が安いというメリットもあった。ブルノの風景はアルバムに大きな影響をもたらしたよ。城や大聖堂、セドレツにある人骨で出来た納骨堂にも行った。スロヴァキアのフェスティバルでもプレイしたし、そんなことすべてが『クリプトリアナ』に生かされているんだ。

インタビュー後編ではさらに深く、ヘヴィ・メタルの闇の迷宮へと足を踏み入れていく。

【CRYPTORIANA WORLD TOUR 2018 IN JAPAN】

-- 東京 2018/5/1(火) LIQUIDROOM

OPEN 18:00 / START 19:00

-- 大阪 2018/5/2(水) 梅田 CLUB QUATTRO

OPEN 18:00 / START 19:00

-- 愛知 2018/5/3(木・祝) 名古屋 CLUB QUATTRO

OPEN 18:00 / START 19:00

公演公式サイト https://www.creativeman.co.jp/event/cof2018/

クレイドル・オブ・フィルス『クリプトリアナ~腐蝕への誘惑』【CD】

ワードレコーズ GQCS-90427

現在発売中

日本レーベル公式サイト  https://wardrecords.com/products/list.php?name=CRADLE+OF+FILTH

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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