万年与党と万年野党の時代に戻ったのかと思わせる国会を見た
フーテン老人世直し録(561)
睦月某日
菅総理は28日未明、米国のバイデン大統領と就任後初の電話会談を行った。アジアの中で最初に電話会談を行ったことは、米国との同盟関係の強さをアピールしたことになるが、会談の時間帯が真夜中だったことは、菅総理の立場に弱さがあることを示している。
日本と米国の東部時間には14時間の時差がある。そのため日米首脳の電話会談はこれまで日本の午前と米国の夜の時間帯に行われることが多かった。しかし今回は米国の午前10時47分、日本は午前0時47分から30分の電話会談だった。菅総理は夜7時半にいったん赤坂の議員宿舎に帰った後、深夜に再び官邸に戻ったことになる。
それは菅総理がどんな時間帯でも良いからバイデン大統領と早く電話会談したかったことの表れだ。支持率の急落に歯止めがかからず、与党内からも「菅おろし」が出かねない状況だから、菅総理には米国の後ろ盾が普通以上に必要になる。
会談で互いを「ヨシ」と「ジョー」と呼び合うことにしたそうだが、先方は菅政権を米国頼みの外交しかやれない政権と見ていると思う。バイデン大統領が米国の「核の傘」の提供に言及したことや、尖閣諸島への日米安保条約5条適用を再確認したことは、保護国と被保護国の関係を印象づける。
一方、会談では東京五輪の話題に触れなかった。それは東京五輪の開催が微妙であることを示す。コロナ対策を敵視したトランプが再選されていれば、「コロナに勝った」と宣言できる東京五輪に前向きになっただろうが、コロナ対策に力を入れるバイデンは東京五輪よりコロナを優先するとフーテンは考えてきた。
ワクチン接種が世界で最も早く行き渡り、免疫が獲得できて日常に戻れると予測されている国は米国である。今年の夏までに日常が戻ると言われている。次はカナダで、それから英国、EU、オーストラリア、ラテンアメリカ、日本の順だという。日本が日常に戻るのは来年の春と予測されている。
米国が日常に戻っても、日常に戻れていない日本にバイデンが米国の選手団を送ってくるだろうか。電話会談でその話題に触れなかったのは、そうした事情が背景にあるからではないかと思った。
そう考えると、菅総理も東京五輪が開催できない場合を考え始めていると思う。その場合、内閣支持率はどうなるか。「菅おろし」はどうなるか。それらを考えて「気候変動問題」に力を入れるバイデン政権との関係強化は菅政権にとって何よりも重要になる。
「菅おろし」は年の初めに口火が切られた。細田派(事実上の安倍派)の下村博文政調会長が1月5日のテレビ番組で「4月に行われる2つの補選で両方負ければ政局になる」と発言した。「政局になる」とは「菅おろし」が始まるという意味である。
そして2つの補選とは、東京地検特捜部に収賄罪で起訴され議員辞職した吉川貴盛元衆議院議員の後を選ぶ北海道2区の選挙と、コロナに感染して死亡した立憲民主党羽田雄一郎元参議院議員の後を選ぶ長野選挙区の選挙である。
自民党議員がスキャンダルで辞任した後の選挙で自民党が勝つことは難しい。またコロナの犠牲になった立憲民主党議員の後を選ぶ選挙で自民党が勝つことも難しい。2つとも自民党候補が敗れることを見越した上での発言である。
国民生活に直結する予算が成立するまで、自民党議員が総理の足を引っ張るわけにはいかない。しかし予算が成立した後の4月に行われる補選で自民党が1つも勝てなければ、総理の足を引っ張る大義名分は出来る。それが下村発言の意味だ。
メディアは感染者数の拡大と支持率の急落を見ていち早く「菅おろし」に動いた。連日の報道はコロナ一色となり、それを菅政権の失政と断じている。菅総理はそれに対抗するように、通常国会初日に河野太郎規制改革担当大臣をワクチン担当大臣に指名し、それを小泉進次郎環境大臣が支える形を内外に示した。
「菅おろし」が始まれば自分には総理を辞める覚悟があり、その場合は一気に河野太郎や小泉進次郎に世代交代する考えを示したのだ。これで自民党内の「菅おろし」は一瞬やんだ。「誰が総理をやっても国民のイライラを収めることはできない。悪いのはコロナだ」との「菅擁護論」が自民党内から出てきた。
しかし一瞬やんだが、今度は河野太郎や小泉進次郎に対する足の引っ張りが始まるとフーテンは見ている。世代交代が進めば過去の人になってしまう実力者たちは絶対にそれを認めたくない。見えないところで世代間の暗闘が始まる。
普通の国なら内閣支持率が急落すれば、野党の党首に国民の目は向かうはずだが、この国ではそうならない。各種世論調査を見れば、立憲民主党の枝野幸男代表より、自民党の石破茂氏や安倍前総理の方が次の総理にふさわしいと国民は思っている。野党にはまるで期待していないのだ。
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