ポスト菅は河野太郎で決まりと思わせたワクチン担当大臣人事
フーテン老人世直し録(559)
睦月某日
菅総理大臣が初の施政方針演説を行った1月18日、日本政治は大きく動くような気がした。施政方針演説によってではない。その直後に発表された人事によってである。
菅総理大臣は、「河野太郎規制改革担当大臣を新型コロナウイルスのワクチン接種担当大臣に任命する」と発表した。ワクチン接種を担当するのは厚生労働大臣だろうと思っていたフーテンは、わざわざワクチン担当大臣を新設することに驚いた。
驚いたがそれを河野氏にやらせると聞いて納得した。支持率下落が止まらず、危機的状況にある菅総理の最終手段と思えたからだ。菅総理は背水の陣を敷き、その陣内に抜群の発信力を誇る河野氏を入れることで、この危機を脱しようとしている。
さらに、それでも危機から逃れることができなければ、後事を河野氏に託して一気に世代交代を図り、自分が政策課題の中心に据えた「グリーン」と「デジタル」を、河野太郎と小泉進次郎の両氏によって推進させようと考えていると思った。
つまり菅総理の心にある「ポスト菅」は河野太郎、その次は小泉進次郎という構想をこの人事は暗示する。自分もその一翼を担った安倍長期政権の負のイメージを払しょくするにはそれしかない。それが菅総理の思いだとフーテンは受け止めた。
菅総理の初の施政方針演説は「決意」の羅列だった。コロナウイルスとの闘いの決意、東日本大震災からの復興の決意、東京五輪開催への決意、グリーン社会とデジタル改革への決意などが並べられた。しかしいずれも淡々として具体的な道筋を示すものではなかった。
ただ最後に政治の師と仰ぐ梶山静六氏の言葉で締めくくったところだけは熱を感じた。「少子高齢化が進む日本社会は、国民に負担をお願いする政策が必要になる。それを国民に説明して理解してもらわなければならない。資源の乏しい日本の食い扶持を作るのがお前の仕事だと言われた。その言葉を胸に国民のために働く内閣として全力を尽くす」と声を高めて菅総理は演説を終えた。
そこには「安倍政治の継承」の「あ」の字もない。イデオロギー政治の「い」の字もない。安倍政治とは異なる政治を志向した政治家が、安倍政治の継承者としてしか権力の階段を登り詰めることができず、食い扶持を作るために力を入れた「観光立国」路線はコロナのために壊滅状態となった。
「観光立国」のためのカジノ誘致で担当副大臣の秋元司議員は逮捕され、二階幹事長と組んで推進した「GoToトラベル」は、コロナ感染増加の元凶とされ支持率急落の原因となった。そこからやることなすことすべてが裏目に出る。東京五輪が中止されるようなことになれば政権の求心力は一気に落ちて解散すら打てなくなる。
かすかな望みはワクチン接種だ。その担当大臣に河野太郎氏を起用したのは、菅総理の命運を託すに足ると考えたからだろう。実際、河野氏のツイッターのフォロワーは安倍前総理には及ばないものの200万人を超え発信力は政界でもピカイチだ。
同じ神奈川県選出のしかも同期の衆議院議員として、菅総理は河野太郎氏を高く評価してきた。河野氏が2015年に安倍政権で国家公安委員長、行革担当大臣として入閣し、2017年外務大臣、2019年防衛大臣に抜擢された背景には菅総理の後押しがあったと言われている。
河野氏は麻生派に所属しているが、反原発を堂々と主張するなど自民党内では異端児と見られ、また合理主義者で群れることを好まない。そのためか麻生派の中ではいまだ総理・総裁には早いと見られている。
しかし本人は昔から総理になることに強い意欲を持っていた。自民党が野党に転落した2009年には自民党総裁選に立候補して谷垣禎一氏に敗れた。昨年8月に安倍総理が突然退陣表明した際にも総裁選出馬を模索した。しかし麻生派が菅支持で一致したことから出馬を諦めた。
その河野氏を菅総理は「縦割り行政打破」の推進役として入閣させ、デジタル化が遅れている官庁の改革に取り組ませた。それに応えて河野氏は「ハンコ廃止」を打ち出し、また「行政改革目安箱(縦割り110番)」を自身の公式サイトに開設した。ところがあまりにも多くの相談が寄せられ、一時は停止する騒ぎになった。
防衛大臣時代には、安倍前総理がトランプ大統領から押し付けられた地上イージスアショアの配備断念を決定したことも大きなニュースになった。外務大臣時代就任時には、小泉純一郎元総理が「あの男は大化けするかもしれないぞ。脱原発派だからな」と評価したこともある。
そして河野氏はその息子の進次郎氏と相性が良い。河野氏が総理総裁を目指すとなれば進次郎氏は支援に回ると見られている。その進次郎氏を安倍政権下で環境大臣として入閣させたのは菅官房長官である。そこには「グリーン社会の実現」という安倍政権とは異なる政策を目指した菅総理の深慮遠謀がある。
その目的のため、一方では政治の師である梶山静六氏の息子の梶山弘志氏を経済産業大臣に押し込み、小泉進次郎、梶山弘志氏の2人が連携して「グリーン社会の実現」に当たる下地を作った。そして自分が総理に就任すると、2人をそのまま留任させて「2050年脱炭素社会の実現」という野心的な政策課題を打ち出した。
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