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なぜバルサはフェリックスを獲得したのか?衝撃のデビュー...課題としての育成とビジネスのバランス。

森田泰史スポーツライター
得点を喜ぶガビとフェリックス(写真:ロイター/アフロ)

スペイン王者に、大きな変化が訪れている。

リーガエスパニョーラ第5節、バルセロナはホームでベティスに快勝した。ジョアン・フェリックス、ロベルト・レヴァンドフスキ、フェラン・トーレス、ラフィーニャ、ジョアン・カンセロが得点を挙げ、ゴールラッシュを演じている。

特筆すべきはフェリックスだ。この試合で初スタメンを飾ったジョアン・フェリックスが先制点を記録。レヴァンドフスキの得点シーンでもボールをスルーする形でゴールに絡んでおり、まさに大車輪の活躍だった。

ゴールに絡んだレヴァンドフスキとフェリックス
ゴールに絡んだレヴァンドフスキとフェリックス写真:ロイター/アフロ

「フェリックスにとって完璧な試合だったとは言わない。だが、多くの部分で、エクセレントだった。私は満足している」とはシャビ・エルナンデス監督のコメントである。

「ファンを楽しませられるような選手が、現在のバルサには揃っている。フェリックスだけではない。テア・シュテーゲン、アラウホ、ガビ、レヴァンドフスキ …。希望を与えられるようなチームだ」

■シメオネとの確執

バルセロナは今夏、アトレティコ・マドリーからレンタルでフェリックスを獲得した。

2023年夏の移籍市場で最終日にその移籍は決まった。ジョルジュ・メンデス代理人の働きかけがあり、フェリックスとジョアン・カンセロ(マンチェスター・シティ)がバルセロナにレンタル加入。一方でアンス・ファティのブライトン移籍が決定した。

アトレティコからレンタル移籍したフェリックス
アトレティコからレンタル移籍したフェリックス写真:ロイター/アフロ

フェリックスは昨季後半戦、チェルシーにレンタル移籍していた。

所属先のアトレティコでは、ディエゴ・シメオネ監督との確執があった。確執というほどのものではないかも知れない。端的に「ウマが合わない」2人が、ぶつかっていたのだ。

シメオネ監督は守備を重視する指揮官だ。近年、【5−3−2】のシステムを用いて、チームの強化に努めてきた。

シメオネ監督は選手にある種の「犠牲心」を強いる。チームのために走り、勝つためのプレーを要求する。規律に則り、ハードワークを厭わない選手が、アトレティコでスタメンを勝ち取る。

対して、フェリックスは「良いサッカー」を求めていた。自由に、攻撃的にプレーして、自身の特徴を出したいと考えていた。

どちらが正しい、という話ではない。だが軍配はシメオネ監督に上がった。フェリックスがチェルシーに去った昨季後半戦、みるみるうちに、アトレティコは盛り返した。優勝こそ届かなかったが、2位レアル・マドリーに肉薄。結果・内容共に充実させ、良い形で2022−23シーズンを終えた。

そのような流れで、フェリックスは今夏、再び移籍の可能性を検討していたのだ。

■2022年夏の大型補強

少し、時を遡る。

バルセロナは昨夏、大型補強を敢行した。それが優勝の原動力になったのは間違いないだろう。

バルセロナは2022年夏の移籍市場で、1億5300万ユーロ(約243億円)を補強に投じている。レヴァンドフスキ、ジュール・クンデ、ラフィーニャ、アンドレアス・クリステンセン、マルコス・アロンソ、エクトル・ベジェリン、フランク・ケシエ、パブロ・トーレを獲得した。

バルセロナは「4つのレバー」を動かし資金を捻出した。シャビ監督が万全な状態でシーズンに臨めるようにしたのだ。

新加入のカンセロ
新加入のカンセロ写真:ロイター/アフロ

だが今年の夏は異なった。

バルセロナのこの夏の補強資金は340万ユーロ(約5億円)だった。オリオル・ロメウ(移籍金340万ユーロ/前所属ジローナ)、イルカイ・ギュンドアン(フリートランスファー/マンチェスター・シティ)、イニゴ・マルティネス(フリートランスファー/アトレティック・クルブ)、ジョアン・カンセロ(レンタル/マンチェスター・シティ)、ジョアン・フェリックス(レンタル/アトレティコ・マドリー)を獲得したが、ロメウを除けばレンタルあるいは移籍金ゼロでの補強となっている。

競り合うギュンドアンとクルス
競り合うギュンドアンとクルス写真:ロイター/アフロ

「我々は多くのお金を使えなかった。(フロント陣は)素晴らしい仕事をしてくれた。タイミングは難しかった。一時期、緊張状態が続いていた。我々にとって、良いマーケットだったと思う。しかし、それはピッチ上で証明されなければいけない」

「私は(補強について)常に10点満点を付ける。後は、君たち(報道陣)が採点すればいい」

シャビ監督はそのように語っている。

移籍を決断したファティ
移籍を決断したファティ写真:ロイター/アフロ

バルセロナは近年、チームに梃入れを行なってきた。シャビ監督が指揮官ポストに就いたのは2021年11月だ。以降、多くの選手が入れ替わった。

ペドリ・ゴンサレス、ロナウド・アラウホ、セルジ・ロベルト、フレンキー・デ・ヨング、マーク・アンドレ・テア・シュテーゲン、イニャキ・ペーニャ、ガビ…。あの時のスカッドから、残っているのは7選手のみだ。

■カンテラーノの放出

そのような状況で、懸念点として挙げられるのは、カンテラーノの去就である。

バルセロナは今夏、ファティ(ブライトン/レンタル)、エリック・ガルシア(ジローナ/レンタル)、エズ・アブデ(ベティス/保有権50%/移籍金750万ユーロ)、ニコ・ゴンサレス(ポルト/移籍金850万ユーロ)らを放出している。

「エリックは私のところに来て、『空気を変えたい』と言ってきた。『それが必要なんだ』とね。私は彼の説得を試みた。だがファイナンシャル・フェアプレーなども顧みて、最終的にレンタル移籍が決定した。エリック、ファティ、アブデは自ら移籍を志願してきた」とはシャビ監督の弁だ。

「誰かが負けた、という話ではない。彼らはいずれもバルサに戻ってくることができる。彼らの話を聞けば、プレータイムを必要としているのは分かるだろう。しかし、我々はバルサだ。ここでは、何もプレゼントされない。バルサでプレータイムを得るのは、非常に困難なんだ」

急成長中のヤマル
急成長中のヤマル写真:ムツ・カワモリ/アフロ

無論、ネガティブなニュースばかりではない。ラミン・ヤマル、フェルミン・ロペス、新たなタレントは出てきている。

フェリックスのような新戦力の活躍は喜ばしい。ただカンテラーノの扱いに迷いが生じているのは確かだろう。育成とビジネスーー。そのバランスを見つけることが、バルセロナの喫緊の課題かもしれない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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