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長崎への新幹線はN700S「かもめ」 九州新幹線「つばめ」との数多い類似点

小林拓矢フリーライター
水戸岡鋭治氏のデザインによる「かもめ」(JR九州プレスリリースより)

「かもめ」――長崎へ向かう列車名として、1961年から長年親しまれてきた。かつては京都から、現在では博多から長崎へ向かう列車として、地域だけではなく鉄道ファンにも根ざした名前となっている。

 そんな「かもめ」は、2022年秋に開業する、九州新幹線西九州ルートの武雄温泉~長崎間の列車名に起用される。伝統の列車名が、ふたたび新幹線でも使用されることになる。

新しい「かもめ」はどんな列車か?

 九州新幹線西九州ルートは、武雄温泉~長崎間を先行開業させることになった。新鳥栖~武雄温泉をどう整備するかは、まだ検討中の段階である。この区間は佐賀県の費用負担をどうするかで結論が出ず、先行区間開業後はフリーゲージトレインで結ぶという考えがあったものの、技術面やコスト面で困難となり、武雄温泉での在来線との乗り換えで運行することになった。

 使用する車両は、N700S。JR東海が営業運転に投入しているN700Sは、短い編成でも対応可能になっており、6両でもOKだ。

 6両編成の新幹線、というのは前例がある。九州新幹線鹿児島ルートでは、「つばめ」に使用される800系がそうである。

 デザインは、JR九州の多くの列車を手掛けてきた水戸岡鋭治氏が担当。外装は、白に赤、そして金色の列車名とロゴマーク。内装は2種類で、4列シート車と5列シート車がある。

 九州方面の新幹線の場合、普通車指定席を4列、自由席を5列とすることもあり、グリーン車がない可能性もある。まして、6両編成で30分少々という乗車時間を考えると、普通車でも指定席と自由席で差をつけるだけ、といった可能性も大きいだろう。

 4列(2列と2列)車は白地のシートに木目のひじ掛け、5列(2列と3列)車はブラウンの地のシートとなる。全座席にモバイル用コンセントを設けているのは、東海道・山陽新幹線の16両編成N700Sと同じだ。

 バッテリ自走システムなどの異常時対応設備に関しても、16両編成のN700Sと変わらない。

 武雄温泉~長崎という短い区間で、おそらくは全列車各駅停車で運行されることが予想される。

 この区間が先にできた理由としては、肥前山口~諫早間が単線でカーブが多く、ここを先に作ったほうが速達性という点では効果が高いから、というものもある。

九州新幹線鹿児島ルートとの類似点

 先に末端部分を作ったほうが速達性という面では効果が高い、というのはどこかで聞いた話ではないだろうか。そう、九州新幹線鹿児島ルートの新八代~鹿児島中央間である。2004年にこの区間を先行開業させた理由として、在来線が単線で速達化が困難なエリアに新幹線を通すことで、大きな効果を得ようとしたから、という理由がある。難工事区間も含まれている。

 そしてその区間には、「つばめ」という名前の列車が走り始めた。

「つばめ」という列車名は、もともとは博多方面~西鹿児島(現在の鹿児島中央)の列車に使用されていた。博多発基準でおよそ1時間に1本で運行され、よく利用される列車ではあったものの、熊本以南で時間がかかることが課題となっていた。

 この列車には最新の車両を導入し運行に力を入れていたものの、スピードアップがつねに課題となっていた。

 また在来線の列車名が新幹線の列車名になり、「つばめ」に接続する列車は「リレーつばめ」となり、いつか九州新幹線鹿児島ルートが全線開業した際には、消える列車名となることが当然の名前と見られていた。2011年に九州新幹線鹿児島ルート全線開業後は、速達型「みずほ」「さくら」と各駅停車型「つばめ」となった。

 このように、「つばめ」という列車名は、在来線の列車名から新幹線の列車名へと移行していったのである。

 もちろん、「つばめ」「かもめ」、あるいは「みずほ」「さくら」もさまざまな列車で長く使用されていた名前である。

 新幹線の列車名についても、ルートの建設経緯についても、鹿児島ルートと似た経緯をたどる長崎ルート。では、「かもめ」の今後は?

長崎へ向かう新幹線の未来は

 九州新幹線長崎ルートの佐賀県内区間は、費用負担をめぐって対立し、長期にわたって武雄温泉での乗り換えが必要となることが予想される。佐世保線の肥前山口~武雄温泉間には複線化の話も出ているものの、こちらも費用負担の面で結論が出ていない。

 この状態が長く続くと、「かもめ」に接続する「リレーかもめ」(仮称)を走らせることができず、博多~佐世保間の「みどり」に接続する形で新幹線「かもめ」を運行しなければならなくなる。その場合、「みどり」を全列車8両の長編成にしなくてはならないといえるだろう。ただし「みどり」に使用している783系は1990年ころに製造されたものであり、老朽化が気になる。「ハウステンボス」と併結できる形での新車が必要だ。

 武雄温泉での乗り換えは、鹿児島ルートで新八代乗り換えが続いていたときよりも長く続く可能性もあり、当面は「かもめ」のみとなる。

 しかし、いずれは新鳥栖まで開業する。その際には、新大阪からの直通列車と、博多~長崎間の「かもめ」という体制となるだろう。新大阪からの直通列車の列車名は、過去の寝台特急から「さくら」となってもおかしくはないものの、こちらは鹿児島ルートの新幹線で使用されている。新幹線にふさわしい列車名で使用されていないものは、「はと」くらいしか残されていない。この文中で出てきた列車名は、いずれも特急や寝台特急などで使用されてきた伝統のあるものであり、その伝統を受け継ぐものが、いつか運行される新大阪~長崎間の新しい列車の名前としてふさわしいものと考えられる。

「かもめ」、そしてその先に登場する新しい列車は、過去の伝統を引き継ぎ、利用者や鉄道ファンに愛されていくことになるだろう。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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