名古屋一カオスな「今池まつり」。クラファンでなく“返礼品なし”で応援金募り3年ぶり開催へ
“名古屋一カオスな町”今池、そしてその象徴「今池まつり」とは?
「今池まつり」(正式名称「いきいき今池お祭りウイーク」)は、名古屋市千種区の今池エリアの商店街による秋の恒例イベント。スタートは1998(平成元)年。100軒以上の屋台が立ち並ぶのをはじめ、パンクバンドのライブにプロレス、大道芸、路上結婚式、カラオケと何でもあり。“名古屋一ディープでカオスな町”と呼ばれる今池を象徴するお祭りです。
まずは祭りの舞台となる今池の町、そして今池まつりについて説明しておきましょう。
今池は名古屋駅から地下鉄で約10分。戦後の闇市に端を発し、昭和40年代頃までは歓楽街として栄えました。昭和の時代はキャバレーが7、8軒もあり、華やかだけど若者や女性はちょっと近寄りがたい、という雰囲気も漂わせていたといわれます。現在はディープな雰囲気が若い世代にもポジティブに評価されるように。キャラの濃い飲み屋がひしめき合い、新進気鋭の飲食店も次々オープン。ドラゴンズファン御用達の中華料理店「ピカイチ」や台湾ラーメン発祥の「味仙今池本店」などの名物店も、町の“顔”として人気を博しています。ミニシアターやライブハウス、クセの強い書店などもあり、マニアックなカルチャーの発信地という一面も。そんな雑多さが魅力で、東京でいうと中野や高円寺のようなイメージになるでしょうか。
今池まつりの始まりは今から30余年前。商店街の祭りとしては際立った歴史があるものではありません。発足時の中心メンバーも、当時は比較的新参だった居酒屋や書店の店主たちでした。町のイメージ調査で“ゴチャゴチャして雑多”と低評価だったことを逆手に取り、民謡同好会からバレエ同好会にまで声をかけて、多種多彩なイベントを寄せ集めたような祭りを実現させました。初回のトリは名古屋出身のパンクバンド、スタークラブのライブ。観客が暴れて開始わずか1分で中止になったという伝説も、“今池まつりは何が起こるか分からない”という期待感とともに語り継がれています。
3年ぶりの開催でクラファンではなく“返礼品なし”の応援金を募る
この名物イベントもコロナ禍によって2020、2021年と2年続けて中止に。しかし、今年は3年ぶりの開催が決定。「いきいき今池お祭りウイーク2022」が9月18(日)・19(祝)日に開催されることになりました。
合わせて始まったのが「今池まつり応援金」の募集です。今、流行りのクラウドファンディングかと思いきや、ひと味違うよう。サイトのしめくくりにこうつづられています。
「返礼品等はございません。今池まつりの成功と継続のみ!!」
関係者はこの方法をこう表現します。「クラウド、、、ではなく、今池らしいグラウンドファウンディング。地を這うごとく今池まつりへの応援をお願いします」。
今池や今池まつりを知る人からすると、これだけで“今池らしい”と納得できる一文。筆者も早速、ささやかながら応援金を振り込みました。
新型コロナウイルスのまん延がいまだ終息しない状況下での開催の決断、そしてクラファンとは一線を画す応援金募集の取り組み。名古屋一個性的な町は、どんな思いで祭りの開催へと動き出したのか? そのいきさつと意図を実行委員会の面々に尋ねることにしました。答えてくれたのは森田裕さん(ライブハウス「Tokuzo」オーナー)、田中兼二さん(居酒屋「きも善」店主)、武岡竜也さん(焼肉店「チェッカー」店主)です。
実行委員インタビュー。「周りの空気に後押しされた」
――3年ぶり32回目の今池まつり。開催を決断した経緯と理由から教えてください。
森田さん(以下「森田」) 「2020、2021年も開催するつもりで準備はしてたから、自分たちの中では34回目なんだよ(笑)。だから今年もやるつもりで年明けくらいから準備してたんです」
武岡さん(以下「武岡」) 「自分たち以上に周りの要望がすごかった。『今年はやるんだよね』という皆さんの空気に後押しされて、自然と開催に向かっていったようなところはありますね」
森田 「やれるかどうかは分からないけど準備はしておかないとできないので、とりあえず動き始めたら、全員が全力でやり出して(笑)」
田中さん(以下「田中」) 「原点に還って、少し規模を縮小して“村祭り”的にやろう、といってたんだけど、いざ取りかかり始めたらほとんど今まで通り(笑)」
――例年と規模や内容に違いはあるのでしょうか?
森田 「点在する特設会場を10ヶ所から3つくらい減らし、規模は全体で1割減くらい。あとは終了時間を従来の夜9時から8時に前倒しします」
武岡 「バザールは例年100店舗以上のところこちらもおよそ1割減。例年は遠方からの出店者も多かったんですが今年はほぼ地元。そういう点では村祭り的ですね」
――感染症対策はどのように?
武岡 「各会場に消毒液を置き、手指の消毒などは徹底します。現場で呼びかけをしたり、屋内会場は入場制限をもうけるなど、できる限りのことはやっていきます」
森田 「商店街の通りが主な会場だから感染症対策としてやれることは限られる。規制するよりも1人1人の自治感覚みたいなものがうまく作用するといいな、と思ってます。“今年何かあったら来年やれないぞ”という危機感を共有して、隣同士で“お前、ちょっとそれマズいんじゃないの”と注意し合うとかね」
クラファンではなく返礼品なし。「いさぎよく、今池らしく!」
――応援金の募集も始まりました。クラウドファンディングではなく“返礼品なし”という方法にしたのはなぜなのでしょう?
田中 「“返礼品にTシャツでも…”という意見もちらっと出たんだけど、やっぱりそうじゃないだろう、と。だったら現地へ来て買ってもらった方がいい。返礼を期待してお金を振り込んでもらうよりも、いさぎよく“応援してください!募金お願いします!!”といったほうが今池らしいだろう、ということになったんです」
森田 「この規模のイベントを大手代理店に頼むと3千万円くらいかかる、と聞いたことがある。今池まつりはイベンターも代理店もテキヤもなしで、企画から運営まで全部自分たちでやってるのでかなり節約できてるんだけど、それでも運営費は2千万円くらいかかる」
武岡 「それをおよそ300軒ある商店街加盟店から集めた会費や協賛金でまかなってるんです。でも、コロナで協賛企業が撤退したりして今年は懐が厳しい。苦肉の策ですよね。それでも、周りの人に話すと“そんなことならいってくれよ”という反応が多くて、ネットだけでなく、商店街のいろんなお店にも募金箱を置いてもらいます」
田中 「どこのフェスも入場料は取るじゃないですか。今池まつりはあれだけいろんなライブとかがあって無料なので、今回は応援する気持ちで募金をお願いします!」
商店街にとって今池まつりとは?「商店街全体の空気が祭りで凝縮」
――商店街にとって今池まつりはどんな存在なのでしょうか?
森田 「うちの商店街はみんな仲がいいんですよ。これは祭りがあったおかげ。もし今池まつりがなかったら、うちみたいなライブハウスが営業時間も全然違うクリーニング屋とかまんじゅう屋とかとつき合うこともなかっただろうね」
武岡 「祭りの半年くらい前から、仕事が終わってくたくたなのにみんなで集まって夜な夜な会議をするんです。その中で横のつながりができていく」
森田 「そういう関係性を30年かけてつくってきた。それが商店街全体の空気になり、祭りがあることで2日間にギュッと凝縮されて、遊びに来る人にも伝わる。だから、“今池まつりに参加したいから今池に店を出したんです”という新しい店の人も結構いるんだよね」
田中 「祭りを中心に商店街が動いとるんだよね。なければないで楽だよ(笑)。でも実際にないとさびしいよね。ぽっかり心に穴が空いちゃう」
森田 「毎年、1年が今池まつりから始まる感じだね」
武岡 「正月だね。終わると“おい、(次回まで)あと364日しかねえぞ”とかいって(笑)」
2022の今池まつり。「自分たちで考え、行動するイベントに」
――今年はどんな今池まつりにしたいと思っていますか?
田中 「この3年近く誰もがいろんなことを我慢してきたと思うので、みんなでそれを晴らしたいよね。“やっぱ今池だよね!”と思ってもらえる祭りにしたいね」
森田 「一昨年、the原爆オナニーズ(今池をホームグラウンドにしている名古屋のパンクロックバンド)の映画が上映されて、これで初めて今池まつりのことを知った人もたくさんいるはず。だから初めて来るお客さんも多いと思う。そういう新しい人たちも含めて、さっきいったような自分たちで考えて行動する、という動きが興るといいな、と思ってます」
武岡 「よく“今池まつりってどんな祭ですか?”と聞かれるんだけど、言葉では説明しようがないんです。とにかく来てください!」
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今池まつりは地域の祭りとしては“官”のにおいがない、独立独歩のイベントです。商店主らが一体感をもって開催を決断し、来場者の思いに期待をかけるやり方には、“今池らしさ”を感じます。イベントの開催に対してはまだまだ様々な意見があるご時世です。しかし、今回の今池まつりが、自主性を尊重しながら盛り上がり、その上で安全面でも運営面でも成功をおさめることができたなら、ポストコロナに向けたひとつの方向性を示すことができるのではないかとも期待します。
気になる人、足を運んでみたい人は、とりあえず「応援する」という選択肢から、参加への第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか? そして、次はもちろん9月18・19日のリアル参加です!
(写真撮影/「今池商店街提供」の写真以外は筆者)