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結成38年のロックバンド「the原爆オナニーズ」 密着映画が名古屋でヒット中!

大竹敏之名古屋ネタライター
『JUST ANOTHER』は名古屋シネマテークで公開中。11月27日まで

異例ずくめ! インディーズバンド映画のロングランヒット

日本屈指のキャリアを誇るパンクロックバンド、the原爆オナニーズ。彼らを追った初のドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』が名古屋から封切られてヒットしています。

エネルギッシュなthe原爆オナニーズのライブ。38年間ブレずにパンクロックをやり続けられてきたのはなぜなのか?その答えを見つけることがこの作品の鑑賞の最大の醍醐味だ。(C)2020 SPACE SHOWER FILMS
エネルギッシュなthe原爆オナニーズのライブ。38年間ブレずにパンクロックをやり続けられてきたのはなぜなのか?その答えを見つけることがこの作品の鑑賞の最大の醍醐味だ。(C)2020 SPACE SHOWER FILMS

バンドは1982年結成。実に38年のキャリアを誇り、メンバー4人中2人は還暦を超える超ベテラン(ついでに言うと素顔はフツーのオジさん)にして、独立独歩の活動を続けるインディーズバンドです。コアなロックファンの間では確固たる評価を得ながらも、その物議をかもす名前ゆえにテレビの地上波に出演することはほぼありません。そんな決してメジャーとはいえないバンドが、劇場公開作品として映画化されるのは極めて異例といえるでしょう

本作を全国に先駆けて上映したのが名古屋・今池のミニシアター「名古屋シネマテーク」。9月にプレミア上映し、10月31日からロングラン上映を行っています。

名古屋シネマテークでは週末を中心に大勢の観客を動員。「全国のミニシアターが厳しい時期にあって、このヒットにはとても勇気づけられています」と支配人の永吉直之さん
名古屋シネマテークでは週末を中心に大勢の観客を動員。「全国のミニシアターが厳しい時期にあって、このヒットにはとても勇気づけられています」と支配人の永吉直之さん

4週間のロングランはかなり異例です。おかげ様で動員もよく、週末には満席近くになっています」と支配人の永吉直之さん。

名古屋・今池で先行的に公開され、多くの観客を集めているのは、バンドが拠点とし、映画の主な舞台となっているのがこの地だからです。

「お客さんの中心は、メンバーの同世代やもともとライブを観ているファンの人たち。しかし、SNSで評判が広がっているおかげもあって若い世代の姿も目立ちます」(永吉さん)

きっかけはカオスな町・今池の象徴「今池まつり」のステージ

熱気に満ちた今池まつりでのステージ。この熱狂が映画化のきっかけとなった。(C)2020 SPACE SHOWER FILMS
熱気に満ちた今池まつりでのステージ。この熱狂が映画化のきっかけとなった。(C)2020 SPACE SHOWER FILMS
「地元が誇る世界のパンク!」と『JUST ANOTHER』を応援する今池商店街のポスター。「商店街を上げてオ〇ニーを応援してるんだよ(笑)」とは映画にも登場する商店街連合会・森田裕さんの弁
「地元が誇る世界のパンク!」と『JUST ANOTHER』を応援する今池商店街のポスター。「商店街を上げてオ〇ニーを応援してるんだよ(笑)」とは映画にも登場する商店街連合会・森田裕さんの弁

名古屋の中でも今池は独特のムードを放っていて、ひと言でいえば“雑多なカルチャーが集まるカオスな町”。もともと歓楽街として発展し、ライブハウスや飲み屋も多く、近年は新しい個性的な飲食店も増えています。そんな今池を象徴するのが毎年秋に開催されている「今池まつり」。プロレスあり大道芸ありフリマありのにぎやかなイベントで、the原爆オナニーズはその常連として毎年のようにライブ出演してまつりを盛り上げています。つまり、彼らはカオスな町・今池のシンボルなのです

そして今回の映画化も、まさに今池まつりがきっかけでした。

2018年に今池まつりのライブを観て、“これしかない!”と思ったんです」というのは大石規湖監督。

「海外では老若男女が音楽やライブをフラットに楽しんでいて、音楽が町や生活にとけ込んでいると感じることが多いんですが、日本だとそれがあまりない。でも、今池まつりでは小さな子どもからおじいちゃんおばあちゃんまでがthe原爆オナニーズのライブで盛り上がっていて、このバンドを通して自分が探していたことへのヒントが見つかるんじゃないかと思ったんです」

映像作家としてミュージックビデオなどを手がけてきた大石監督ですが、日本のミュージックシーンに対するある違和感を抱いていたといいます。それはメジャーデビューして成功しなければ音楽を続けられないという固定観念が、ミュージシャンにも世間一般にも根強くあること。だからこそインディーズのまま60歳を超えてもパンクロックバンドを続けているthe原爆オナニーズに、その違和感を解く鍵があるのではないかと感じたのです。

ボーカルのTAYLOWさん。「バンド名は人が嫌悪感を抱く言葉をわざとくっつけた。でも映画を観てそんなに怖くないんだと感じてもらえたら」(C)2020 SPACE SHOWER FILMS
ボーカルのTAYLOWさん。「バンド名は人が嫌悪感を抱く言葉をわざとくっつけた。でも映画を観てそんなに怖くないんだと感じてもらえたら」(C)2020 SPACE SHOWER FILMS
ベースのEDDIEさん。勤続40年の現役会社員でもある。「仕事は仕事でちゃんとやることがバンドと両立させるコツ」(C)2020 SPACE SHOWER FILMS
ベースのEDDIEさん。勤続40年の現役会社員でもある。「仕事は仕事でちゃんとやることがバンドと両立させるコツ」(C)2020 SPACE SHOWER FILMS

名古屋、今池の町の空気をバンドのバックボーンとして映し出す

なぜやり続けられるか?という問いへの答えとともに、大石監督が映し出したいと考えたのは名古屋、そして今池という町の空気だったといいます。

作品の最後を飾る2019年の今池まつりのステージ。コロナの影響で今年は中止。しかしこの映像で「今池まつりを体感できた!」と快哉を叫ぶファンも。(C)2020 SPACE SHOWER FILMS
作品の最後を飾る2019年の今池まつりのステージ。コロナの影響で今年は中止。しかしこの映像で「今池まつりを体感できた!」と快哉を叫ぶファンも。(C)2020 SPACE SHOWER FILMS

「どの町にも独自の空気感があって、それが暮らす人の人間性にも反映されている。だから彼らが拠点とする名古屋、今池の風土も合わせて映像に残したいと考えました」。

その言葉通り、作品ではバンドのホームタウンである今池の雑多な人間臭さも描写されています。監督が映像化を決心した日から1年後、クライマックスの舞台としてたどり着いたのはやはり今池まつりでのライブ。およそ10分のシーンですが、会場全体が熱気を帯びていく臨場感あふれる映像は圧巻。the原爆オナニーズというバンドはもちろん、町とまつりにまで興味が湧いてくるはずです。

全国へ広がる上映館。監督、そしてメンバーが観てもらいたいこととは?

作品は今後、全国各地に上映館が広がっていく予定となっています。

「最初はもともとのバンドのファンの人たちが足を運んでくれるのだろうけど、若い人にも観てもらって世代間の交流が起きてほしい」とはボーカルのTAYLOW(タイロウ)さん。ベーシストのEDDIE(エディ)さんは「普段のツアーは東名阪がほとんどなので、それ以外の地方では僕らを観たことがない人の方が多いはず。映画を観て“一回ライブを観てみるか”“今池まつりに行ってみたい”という人が増えてくれれば」といいます。

「こんなに愚直にストレートなパンクロックを究めているバンドは他にない。比較の対象がないカッコよさがあり、存在感は群を抜いています」と大石規湖監督。(C)2020 SPACE SHOWER FILMS
「こんなに愚直にストレートなパンクロックを究めているバンドは他にない。比較の対象がないカッコよさがあり、存在感は群を抜いています」と大石規湖監督。(C)2020 SPACE SHOWER FILMS

そして「若い世代に是非観てほしい」というのは大石監督。「バンドと仕事の両立に限らず、出産と仕事など、人生は常に様々な選択に迫られます。そんな時、この映画を観て“どっちかひとつではない選択だってある”と思ってもらえたら」と語ります。

筆者自身、この映画を観て「やりたいことをやって生きて行けばいいんだ!」と勇気づけられました。名古屋が誇る唯一無二のパンクロックバンドのドキュメンタリーは、ライブ映画、ロック映画の枠を超えて、何かしら生きるヒントを見つけられる作品として、多くの人の心に響くんじゃないでしょうか。

『JUST ANOTHER』公式サイト

 (名古屋シネマテーク、新宿K’s cinema他で絶賛上映中。以降、全国順次公開)

(作品に関する写真はSPACE SHOWER FILMS提供、他は筆者撮影)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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