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新型コロナ「レプリコン・ワクチン」接種開始への懸念とは #専門家のまとめ

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 2024年10月から高齢者などを対象にした新しい新型コロナ・ワクチンの定期接種が始まります。使用が予定されているワクチンには「レプリコン(自己増幅型)」と呼ばれる「コスタイベ筋注用」ワクチンもあります。ただ、医療関係者の一部などから懸念が表明されるなど、このワクチンの接種に関しては心配する声もあり、過去記事などから問題点をまとめてみました。

ココがポイント

私たちは、ワクチンを接種することの意義や意味をもっと勉強し、たとえ副反応が生じても後悔しないように、賢明な態度で臨むべきだと思っています。
出典:佐賀新聞 2024/07/27(土)

厚労省によると、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンが約2527万回分、mRNAが細胞内で複製される「レプリコン」という新しいタイプが約427万回分、組み換えタンパクワクチンが約270万回分。
出典:産経新聞 2024/09/02(月)

この次世代型mRNAは2023年11月、他国に先駆けて日本で初めて承認されました。2024年8月末現在でも、世界で唯一の承認国です。
出典:JBpress 2024/09/02(月)

エキスパートの補足・見解

ワクチンの効果はあったのか

 新型コロナは一時のパンデミック状態から抜け出してはいますが、依然として多くの感染者が出続けています。世界が新型コロナ・パンデミックを乗り越えられた理由にはいくつかの要因があり、ワクチン接種もその一つでしょう。

 特にmRNAワクチンの開発により、短時間で多くの人がワクチンを接種しました。特に日本はワクチン接種率が高く、生活水準や寿命の長さなども相まって、新型コロナによる超過死亡率が他国より低くなっているようです(※1)。

 日本での新型コロナ・ワクチン接種は、2021年6月から公費負担で実施されましたが、全額公費負担は2024年3月末で終了し、2024年10月からの新型コロナ・ワクチンは、65歳以上の高齢者と60歳から64歳までの重症化リスクの高い人で一部費用負担(開始期間や負担金などは自治体によって異なる)をする定期接種となり、それ以外の人は全額自己負担となります。

 接種されるワクチンは従来のmRNAワクチン、そしていわゆるレプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)などになりますが、厚生労働省の新型コロナワクチンコールセンターに問い合わせたところ、接種希望者がどのワクチンを選べるのかはまだ未定(2024/09/11時点)だそうです。現在、5社のワクチンが候補にあがっており、うち3社はまだ薬事申請中とのことで、レプリコン・ワクチンも接種が開始されるかどうかも未定ということになります。

 一般的なワクチンは、病原体を弱毒化させたり免疫機能への作用を模倣したりした物質を健康な人へ接種し、感染症などの予防や重症化を防ぐために開発されます。

 新型コロナで使われたmRNAワクチンは、新型コロナ・ウイルスの遺伝情報(mRNA)の一部を脂質のカプセルに入れたものです。mRNAワクチンを接種すると、私たちの身体はウイルスが侵入してきたと勘違いし、新型コロナに対する抗原を作り出し、免疫反応を起こして発症や重症化を防いだりします。

 従来型の不活性ワクチンに比べ、mRNAワクチンが圧倒的だったのは、その開発スピードの速さ、生産コストの安さ、ワクチンの有効性の高さでした。ただ、mRNAワクチンのmRNAは代謝されやすく、体内ですぐに消えてしまい、免疫反応が長続きしません。

レプリコン・ワクチンとは

 また、mRNAワクチンは特許などで囲い込まれ、新たに参入するのにはハードルが高い技術です。そのため、ワクチンのmRNAが体内で自己増殖するように改良したデルタ株とオミクロン株に有効なレプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)が開発されました。レプリコン・ワクチンではRNAが少量でもmRNAワクチンと同等の免疫反応が得られ、生産効率の点でもメリットがあります(※2)。

 レプリコン・ワクチンは、抗原を作り出すタンパク質の合成に必要なRNAを含み、より継続的に免疫反応を持続させるように作られています。抗原は新型コロナ・ウイルスが細胞へ侵入するときに発現するスパイク・タンパク質で、合成機能はベネズエラウマ脳炎ウイルスというウイルスから得たものになります。

 もちろん、これらのタンパク質や合成機能は、ヒトの遺伝情報に関与する部分を外してあり、安全性を高めています。レプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)の第三相試験では、オミクロンAB.4/5に対する抗体価の発現が従来のmRNAワクチンの58%に比べ、レプリコン・ワクチンでは70%だったそうです。

 レプリコン・ワクチンでは、mRNAワクチンより相対的にRNA配列が長くなるため、どうコンパクトに脂質カプセルに入れるのか、そして分子量も多くなるため、細胞膜を通せるかどうかなどの製造上の課題があります。これらの課題はすでに解決されているようですが、安全性に関する疑念も完全に払拭されているわけではありません。

 例えば、接種部の痛み、発熱、悪寒といった従来のmRNAワクチンと同程度の副反応があります。また、ベトナムでの第三相試験では、新型コロナに感染したプラセボ群を含む死者も複数出ています。この死者がレプリコン・ワクチンによるものかどうかは不明だそうです(※3)。

 RNAの複製過程で何か別の物質が生成され、予期しない免疫反応が引き起こされる危険性も拭いきれません(※4)。当然ですが、これらの試験結果を発表した論文には製造メーカーの研究者が加わっています。

後れを取ったmRNAワクチン

 新型コロナのワクチン開発では、ファイザーやモデルナなどが先行し、国産ワクチンの開発は後れを取りました。また、ワクチン供給でも国際的な競合が起き、医薬品の安定的な供給体制の整備が急務です。

 mRNA技術を使った医薬品開発では、感染症のみならず、がん予防や治療、他の疾患への応用などが期待でき、新たな技術が常に求められています。日本政府は、医療安保体制を強化するため新型コロナでの後れを鑑み、国内のCDMO(医薬品開発製造受託機関)関連企業へ支援しつつ、レプリコン(自己複製型)のRNA技術に梃子入れしてきました。

 医薬品の製造工程の開発から治験薬や商業生産までを受託する機関や団体がCDMOですが、全てを自社で開発や製造などができるわけではありません。海外の研究機関や企業などと連携する水平分業が重要であり、日本のレプリコンRNA技術開発は米国のArcturus Therapeutics(アクチュラス・セラペウティクス、以下、アクチュラス)社と一緒に組む国内のCDMO、Arcalis(アルカリス)社が進め、福島県の工場で原薬から製剤まで一気通貫の製造を準備してきました。

 また、アクチュラス社のレプリコン・ワクチン(ARCT-154)の全世界での権利を保有するのはオーストラリアのCSL社であり、国内CDMOである明治製菓ファルマは2023年4月、CSL社より日本国内でのレプリコン・ワクチンの供給販売提携の契約を締結し、アルカリス社は2023年4月、明治製菓ファルマと社外連携を締結して国内でのレプリコン・ワクチンの供給体制を構築しています。

 その後、2023年11月、明治製菓ファルマは厚生労働省からレプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用)の国内における製造販売の承認を受けます。このタイプのワクチンの承認は、日本が世界で初めてということになりました。また、アクチュラス社とCSL社は、欧州の規制当局にレプリコン・ワクチンを申請中とのことです。

 日本政府のレプリコン・ワクチンに対する迅速な対応については、mRNAワクチンで海外の後塵を拝した苦い経験がありそうです。次のパンデミックについて常に監視と警戒の目を注いでいく必要がありますが、感染対策のために広汎で素早いワクチン接種、そして医薬安保体制の強靱化のためにも他国へのワクチンの供給体制の整備などが重要という認識が強くなっているのだと思います。

レプリコン・ワクチンに広がる懸念

 一方、2024年7月には宮城県でmRNAワクチンの危険性を訴える団体がレプリコン・ワクチン接種中止を求める集会を開き、2024年8月には日本看護倫理学会という団体が「新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念」という緊急声明を発表しました。

 こうした懸念の内容には、なぜ海外で承認されていないワクチンが日本だけで承認されるのかという疑義、自己複製型RNAがワクチン接種者から体外へ出て他者へ何らかの悪影響をおよぼすのではないかという危惧、臨床試験での重篤な副反応の情報開示の不足、そして長くRNAの効果が持続することでヒトの遺伝情報が改編されるのではないかという恐れなどがあります。

 こうした危惧や懸念について、多くの人が不安を抱いているのは事実でしょう。筆者の知り合いにもレプリコン・ワクチンは当面、打たないと述べている開業医がいます。

 mRNAワクチンでも副反応による死亡を含む重篤な症状があり、予防接種法の救済対象になる人は年々増え続けています。ワクチンは基本的に健康な人に接種するものであり、健康被害が出てはいけないものです。どうしても副反応が出てしまうこともあり、ワクチンは強制ではなく任意での接種ということになっています。

 この10月から始まる新型コロナ・ワクチン接種に関しては、まだどんな種類のワクチンを接種するのか未定という状況です。ワクチンの安定供給と安心して接種できる体制の構築ができるかどうか、そして丁寧な説明と情報開示などがしっかりされるか、注視していきたいものです。

※1:Mitsuyoshi Urashima, et al., "Association Between Life Expectancy at Age 60 Years Before the COVID-19 Pandemic and Excess Mortality During the Pandemic in Aging Countries" JAMA Network Open, Vol.5(10), e2237528, 19, October, 2022
※2:Sander Herfst, Rory D. de Vries, "Self-amplifying RNA vaccines against antigenically distinct SARS-CoV-2 variants" THE LANCET Infectious Diseases, Vol.24, Issue4, P330-331, April, 2024
※3:Nhan Thi Ho, et al., "Safety, immunogenicity and efficacy of the self-amplifying mRNA ARCT-154 COVID-19 vaccine: pooled phase 1, 2, 3a and 3b randomized, controlled trials" nature communications, 15, Article number: 4081, 14, May, 2024
※4:Gavor Tamaz Szabo, et al., "COVID-19 mRNA vaccines: Platforms and current developments" Molecular Therapy, Vol.30, Issue5, 1850-1868, 4, May, 2022

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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