今注目のSakana AI、OIST、『ホワイトカラー消滅』の共通点は?
Sakana AI、OIST、書籍『ホワイトカラー消滅』。この3つは最近注目されているものであるが、これらには実は共通点がある。みなさんはわかりますか?
まず、その3つの対象項目について、説明しておこう。
「Sakana AI」は、2023年に東京を拠点に設立されたAIスタートアップである。独自の考え方に基づく独特の技術アプローチで世界中から注目され、2024年9月にはNVIDIAからも出資を受け、評価額が11億ドル(約1,700億円)となり急速に成長し、日本最速のユニコーン企業としての地位を確立してきており、日本の国内外でも同社のチャレンジや活動に注目が高まってきている。
OISTは、沖縄科学技術大学院大学(The Okinawa Institute of Science and Technology)の英語名の略称で、英語を共通語とし、理工学分野の5年一貫制博士課程のみを有する、沖縄の恩納村にある学際的な大学院大学である。OISTは、科学の新たなフロンティアを開拓し、分野の垣根を越えた研究を行っており、設立8年目の2019年にして、正規化指標を使用で算出した質の高い研究機関ランキングで、世界9位にランクインされたり、その兼任教授は2022年にノーベル生理学・医学賞を受賞するなど目覚ましい発展を遂げ、世界的にも注目されている大学である。
「OIST - University of the Future 新時代の教育研究を切り拓く」動画:OIST提供
最近では、日本でもTVや雑誌およびWEBメディア等にも取り上げられ、ホリエモンこと堀江貴文さん(注1)などのインフルエンサーなども注目してきている。筆者も、2022年にOISTで滞在研究を行い、その成果を、OISTをはじめて包括的に紹介する書籍として拙著『沖縄科学技術大学院大学(OIST)は東大を超えたのか―日本を「明治維新の呪縛」から解放し、新しい可能性を探求する―』を出版した。
このように、OISTは、日本国内外から高い関心を集めており、多くの研究者や学生等から学び・研究したいという要望が同大に殺到し、ますます狭き門となってきている。
書籍『ホワイトカラー消滅』は、企業再生支援の第一人者である冨山和彦さんによる最新書。同書では、日本社会は少子高齢化による深刻な人手不足と、デジタル化の進展による急激な人余りが同時に起きつつあり、そこではホワイトカラーは生き残る選択肢がほとんどなくなってゆくという今後の社会を提示しつつ、「失われた30年」(注2)ともいうべき状況にある日本の国、組織、個人のそれぞれの抜本的再生を促すための緊急提言をしている。
では、この3つの項目の共通点は何か? それは、「従来の日本社会の考え方や枠組みの中では、今の失速気味の日本の経済や企業の状況を克服して、グローバル社会での大きな成果や成功を生み出すことはできない」ということであり、「従来の日本社会のやり方や対応とは大きく異なる手法を大胆に取り入れることで、成果を上げられるあるいはあげられる可能性がある」ということを意味しているということである。
その点について、各々みていこう。
Sakana AIは、昨今の生成AIブームのなかで行われてきた「Bigger is better」という大規模な単一のAIモデルを構築し、多くのデータと電力を消費する対応はサスティナブルでないとして、多くの小さなAIモデルを開発し、連携させ、複雑な問題を解決するアプローチを採用し、世界中から注目と賞賛を得ているのである。
OISTは、国際先端で、多様性、学際性に基づいて構築・運営されており、日本の明治維新以降の画一的で中央集権的対応や東大中心の硬直的な官学の枠組みを超えた、しかもジョブ型の組織で、日本でも従来と異なる仕組みで運営すれば、大きな成果が得られることを例示している。
書籍『ホワイトカラー消滅』は、著者のこれまでの企業再生の経験を踏まえながらの提言書であるが、次のように指摘している。
・「日本社会の『失われた30年』は、この負のスパイラル、もっと言えば現状維持的な低成長を容認することで、昭和の(正社員の)終身雇用と年功制を前提とした経営・社会モデルによる安定を引っ張ってきたのである。」
・「それ(人々の心がすさみ、スラムが出現し、うかつに街を歩くと刺されるという荒廃した状況にならなかったこと)は、日本社会が『停滞なる安定』を選択し、30年にわたる経済の大停滞の代償として手にしたものだった」
・「明治以来、我が国の社会のありようにおいて、キャッチアップ型の工業化モデルで富国を目指すということを基本軸に教育も社会もデザインされていることは、太平洋戦争を挟んで変わっていないが、そこに本格的なメスを入れなければならないからだ。」
・「高等教育の役割は、産業界へ優秀なサラリーマン候補を送り出すべく、日本型のカイシャ(終身雇用、年功制、ジェネラリスト、メンバーシップ雇用)の仕組みにフィットするする白紙状態で試験勉強(あらかじめ存在する正解にたどり着く能力)のできる若者、できれば協調性や空気を読む能力が高い若者(体育会のキャプテンタイプが理想)を育むことになった。その頂点に東大法学部が君臨して、そこを目指していろいろな仕組みが形成されてきた」
・「明治の富国強兵で萌芽し昭和の高度成長期に完成した日本型サラリーマン組織モデル、カイシャと終身年功ホワイトカラーサラリーマン(マン≒男性正社員)が経済をけん引し、社会の安定化装置になるモデルの終焉は近い。」
このように、著者は、これまで、特に明治維新以降の日本の組織や人材育成の仕組みややり方を変えることで、日本の新たな可能性が生まれてくることを示唆している。そのことは、筆者が拙著のなかで力説した「日本を「明治維新の呪縛」から解放し、新しい可能性を探求する」という視点とオーバーラップするものであるといえる。
また、この3つの対象ともに「国際性」や「多様性」を重視している。
Sakana AIは、当初から「Go Global」の視点で活動し、まず海外から資金を調達している。また、同社の、共同創業者は、香港生まれの中国系カナダ人、イギリス人、日本人で構成され、人材を世界中から集めている。
OISTは、その設立自体が「国際性」や「多様性」を非常に重視して設立・運営されている。なお、2024年時点で、教職員(1,110名)は、71ケ国・地域からきており、外国人47%、女性50%で構成され、博士課程学生は、外国人54ケ国・地域からきており79%、女性40%で構成されている。
書籍『ホワイトカラー消滅』では、他の2つに比べると、日本国内がメインテーマなので多くは論じられてはいないが、それでも、グローバル産業(Gの世界)やグローバルリーダーの養成を展望するタイプの大学(G型大学)などについて論じると共に、「(外国人材の移入は)チープレーバー移入型ではない国際的な多様化を」と指摘している。
最後は、これらの3つの対象は、「日本」を重要な対象および要素として考えていることである。
Sakana AIは、日本の文化や歴史的な背景から、AIの開発においても、独自のイノベーションがありうるという確信や仮説があることから生まれたものであると共に、日本はアメリカと中国の間に位置し、AI技術が少数の企業や政府によって支配されるリスクを回避するための理想的な場所であると考えているようだ。また同社は、日本は、データアクセスの容易さや文化の魅力および労働力が安いが期待できる人材が存在しており、世界中の多くのエンジニアはアニメやゲーム好きで、それらを得意とする日本への関心も高く、人材の獲得が容易であるとも考えている。
OISTは、元来日本の科学技術研究水準の向上をけん引する場として、日本国内に構想・設置されたものだ。現在の日本社会における「出島」的な存在であるが、現地沖縄そして日本におきても、存在感が向上し、国内外での注目・関心も急速に高まってきており、今後同大の研究成果等が産学連携などを通じてビジネスに影響するようになれば、日本社会へのインパクトはさらにビジブルになり、社会変革の1つの核になることが期待できるだろう。
書籍『ホワイトカラー消滅』は、著者の日本社会への懸念と期待そして愛着から生まれた提言書であり、正に日本および日本社会がメインテーマとなっているものである。
筆者は、本記事で、Sakana AI、OIST、書籍『ホワイトカラー消滅』の3つを取り上げて、「既存の枠組みを超える」「国際性、多様性」「日本」という共通点について論じた。
だが、この3つほどではないが、さまざまな書籍や記事、報道、イベントなどにおいても、その軽重の違いやそれらの共通点の一部のみなどの相違はあるが、同様のテーマや指摘をするものが、特にこの数年非常に増えてきていると感じる。
それは、なかなか変わらない日本および日本社会も、いまだ多くの可能性があり、遂に画一的で同質的な方向を志向する従来の枠組みややり方を超えて、新たなる方向性や可能性に踏み出しつつあることを示しているといえるのではないだろうか?
読者の方々も、ぜひここで取り上げた3つの対象などの今後のさらなる成果や動きに注目しながら、日本の今後の可能性を構想し、行動・活躍され、新しい日本の可能性を構築する作業に加わっていただきたい。そうすれば、そのプロセス自体が、皆さんの今後をより充実してくれるはずだ。
(注1)例えば、次の番組など参照のこと。
・【東大超え】世界をリードする「OIST」研究現場の最前線 堀江さんが出演する2大番組、HORIE ONE×メイクマネーサバイブのコラボが実現。
(注2)「失われた30年」に関しては、上述の書籍『ホワイトカラー消滅』および拙著『沖縄科学技術大学院大学(OIST)は東大を超えたのか―日本を「明治維新の呪縛」から解放し、新しい可能性を探求する―』と共に、次の資料等を参考にしていただきたい。
・『失った30年を越えて、挑戦の時-生活者(SEIKATSUSHA)共創社会 』 櫻田謙悟、中央公論新社、2023年3月8日
・「<大図解>データでみる 失われた(失った?)30年(No.1613)」東京新聞、2023年5月26日