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今の政治不信の淵源は、「2009年の政権交代」にある

鈴木崇弘政策研究者、一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
2009年、民主党による政権交代がおこなわれた(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 今、日本社会には、根深い政治不信がある。与野党問わず既成政党に対する不信感が、特に強く深刻だ。そのことは、先の東京都知事選にも如実に表れた。現在の政治不信は、昨年来の自民党でおきた政治資金の裏金事件が直接のきっかけだ。だが、その政治不信は、与党自民党だけに向けられているのではなく、政治全体に向けられているということができる。

 それはなぜか?

 日本でも、1990年代から2000年代までは、政治や行政をはじめとするガバナンス改革等がさまざまな形で議論され、いくつかの制度改革や新しい可能性のためのトライアルも行われ(しかしながら、それらは、日本のガバナンスの本質的変更や改善には結びつかず、表層的な改革で終わり、その結果が現在のような政治状況に結びついているということができる)、日本社会全体でも改革の気運が高まった。その結果が、2009年の民主党(当時)による政権交代に結びついたといえるだろう。だが、同党の稚拙な政権運営により、社会が混乱し、2012年末には中途半端な形で、政権の再交代が起き、自民党が与党に返り咲いたのである。

 政権交代は、広義の「革命」ともいうべきもので、その理想どおりに進展するとは限らず、社会的な試みなので、事前に実験をして、その成功確率を上げるのも難しい。特に民主党は、一部の議員など以外は政権運営の経験が乏しく、しかも(同党内での)政権が短期で何度も変わったり、東日本大震災や海外からの脅威などが起きたりしたために、政治の体制や環境を大きく変えるまでには至らず、政権交代によるある程度の成果を上げることもできず、全体として日本にとり変革が必要な時期に混乱を生むと共に、時間と資源を消耗してしまったのである。 

 他方で、政治や行政の動きや活動は、特に民主主義社会では、理念や理想があっても、うまくいかないことも多いことは、歴史が証明している。最も重要なのは、それらの動きや活動が単に成功したか失敗したかではなく、その総括がキチンとなされ、次の動きや経験に活かしていくことなのである。

 この点から考えると、当時政権を得た民主党(その流れを組む野党)や政権を奪われ取り返した自民党も、適切かつ的確に自分たちの動き・活動や政権運営を総括し、その後の活動に十分に活かしているとはいえない。

 そのために、現在の日本の政治状況として、多くの国民は現与党自民党の政権を代えたいと考えているようだが、野党に政権を担って今の政治状況を変えてもらいたいとも強く考えているのでもないようだ。つまり国民は、与野党を問わず、政治全体に不信感や不満を持っているということができるだろう。

自民党による政権再交代で第二次安倍政権発足
自民党による政権再交代で第二次安倍政権発足写真:ロイター/アフロ

 より正確にいえば、与党自民党は2012年に政権再交代したが、国民は、底流において、自民党が2009年に政権を失った際のそれ以前の政治や政権運営の総括やその問題・課題の解決を十分にしてきていないと考えており、民主党政権よりはベターな政権として自民党を与党に選択したが、今回の政治資金の裏金問題等へのあいまいな対応に業を煮やしているということができるのである。

 他方、国民は、先の政権交代の失敗を適切に総括し、自党の政権運営能力などを向上させているとはいえない(少なくともそう見えない、民主党の後継)野党への信頼感や期待感も持っていないのである。

 これらのことが、今の日本の政治状況や国民への政治への不信感に鮮明に表われているということができるだろう。政治は、理想論だけではなく、飽くまであるもののなかからの選択しかできないことから(民主主義的は、政治に不満があるなら、実は最後は自分が議員などになるしかない仕組みなのだが)、国民の政治への不信や不満はさらに深まることになる。

 今これらの指摘をしても、時間的制約的には厳しく、難しいところであるが、先の英国での選挙をみてもわかるように、政権交代には、先の政権の時の経験や成否などをキチンと総括し、それらを踏まえて、次に政権を担った際にはこのように対応するということを国民に示し、10年ぐらい真剣かつ地道な努力と活動を行うことが必要なのだ。そのプロセスや努力があればこそ、国民は、一度は失った信頼をリカバーし、今一度政権を任せてみようという意識や期待をもてるのだ。

 日本の政党は、与野党を問わず、表面的な対応だけで国民の信頼を回復あるいは勝ち得ると考えているようにみえる。もっと地道で、長いスパンでの対応の覚悟を示してもらいたいものだ。

政策研究者、一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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