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実践型教育が日本を救う 皇學館大学現代日本社会学部が東京サテライトを始動

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
ロゴはハリウッド大学院大学の山中理事長がデザイン

 6月19日、東京の六本木にて、かつて筆者が准教授を務め、現在も非常勤講師として籍を置く皇學館大学の現代日本社会学部が、東京・六本木サテライトを開設した。

 三重県伊勢市の皇學館大学現代日本社会学部は「ニッポンを動かそう」をスローガンとし、大学での学びを実践の場で活かすことで、広く社会に貢献することを目指している。これまでは三重県内を主要なフィールドとしていたが、スローガンは「ミエを動かそう」ではなく、やはり対象は日本なのである。悶々とした日々を送るなか、このたびハリウッド大学院大学の協力により、同学内にサテライトとして活動拠点を設置することができた。

 実は筆者が大学の准教授を辞めたのは、この東京サテライトを立ち上げたいという思いがあったからだ。日本はヤバイと言われるが、いまなお東京は世界有数の経済都市である。そこでビジネスの高い知見に触れるべく、筆者のゼミ生には、卒業後はどうにか東京などの大都市で仕事をするよう勧めてきた。経験による学びにより実践力を育んだ後は、東京でも地方でも好きな場所で、社会貢献のために腕を振るえばよいであろう。そうすれば、日本全体が活性化され、人びとは豊かさを取り戻すことができる。

 とはいえ日本企業では、いまだ会社から任意に仕事をあてがわれ、個々の目指すところに従って仕事を選択できないことが少なくない。また、副業が解禁されたといっても条件的であることが多く、あるいは実態としては、ほとんど認められない企業もある。その場合、本業を通して自己実現に至ることは難しく、別の学習と活動の場が必要になる。それも、大学院のように長時間ではなく、また座学のみではない、実践によって経験を積むことのできる学びの場だ。少なくとも学部の卒業生には、そのような場があることは有益であろう。

 来たる社会は、一人ひとりが創造的に働く社会である。かくして東京サテライトでは、事業創造や事業開発に関して、卒業生みずからが構想を抱き、実践によって学ぶ仕組みを構築する。ひとまず筆者が統括し、彼らをサポートするのであるが、小さくてもよいから実際に事業を起こすことから始めてもらう。その活動の中で、ものの考え方や方法などを模索し、活用することで、新たな価値を創出し続ける人材へと成長するのである。

実践型教育で日本を救おう

 正直にいうが、この活動には大学から一切の資金を頂戴していない。完全に筆者が社会貢献活動として行っていることだ。筆者もまた、生活の資を得る必要があるから、関わることのできる時間はわずかである。

 よって、まずは少数の卒業生らを支援する。すでに彼らは大学の頃からマインドを育成してきたから、サポートは活動に必要となる新たな知識の伝授や、手法の微修正で事足りるはずである。より重要なのは、彼らへの細かな助言や配慮であり、それによって心理的障壁を取り払うことである。心理学者のアルバート・バンデューラは、誤った信念を取り払うために、識者とともに経験を通して学習させるプロセスを、指導づきの熟練 Guided Mastery と呼んでいる。

 人は新しい活動に乗り出すとき、不安を覚えるものである。過度な不安は問題だが、適度な不安感は、人を創造的にもしてくれる。不安の原因を突き止め、実態を明らかにし、解決の糸口を探ることができるからである。よって活動は、問題解決型アプローチによって行われるべきである。それは、学ぶ者たちの人生を長期的に有意義なものとする。

 ただし、最初に行うべきは、いわゆるPBL教育のように「問題に出会うこと」ではない。より重要なのは、自らの生き方とか生き様、使命感 mission である。『夜と霧』で有名なヴィクトール・フランクルは、人間が本当に必要としているのは不安のない状態ではなく、価値のある目標のために努力することだと述べた。何としてでも不安を取り除くことではなく、意義の達成に使命を感じることが重要なのである。昨今の心理的安全性の議論に足りないのは、そのような高い目標とか、自分自身の生き方や使命感の観点である。

 実際に、問題とはあるべき姿と現状との差において生じる。このあるべき姿とか、理想や使命感などを見出すためにこそ、卒業生らは活動を重ねる。まず少数から始めるのは、よいマインドや姿勢、方法などは、経験ばかりでなく、観察によっても習得できるからだ。バンデューラは、他人の行動を観察し、模倣することで、人は学習できるという社会的学習理論を唱えた。よい先輩やリーダーを育てれば、よい後輩やフォロワーは生まれるのである。

 知識を教え込んだとしても、実行させるのは難しい。スポーツの指南書を丸暗記しても、オリンピックに出られないのと同様である。自己の使命へと到達するには、自発的に動き、試行錯誤するなかで学ぶしかない。まずはその先陣となる者を育成するのが、東京サテライトでの当面の活動である。

 通信制の教育を活かす

 そうはいっても、東京での活動によって、地方にまで影響を及ぼせるのかと疑問であろう。かねて筆者は主張してきたが、だからこそ通信制の教育で補う必要がある。

 できる限りハイブリッド型の教育で行われることが望ましい。筆者の考えに賛同してくれたのは、群馬県桐生市の久保田 裕一市議である。夏より桐生イノベーションアカデミーを開講し、各講座を対面とオンラインで実施する。それによって、起業の基礎から事業立ち上げまでを包括的にサポートするのだが、事業案を作成し、次に実行に移すところまで、久保田市議らは伴走する。

 ようするに、現地に動くことのできる人、動き方を知っている人がいればよいのだ。大多数の学生を支援することは難しいのだとしても、学生を指導する少数の人に、マインドや方法を教えることはできる。すなわち、知の継承の連鎖、あるいは「知の創造と活用をすすめる環境の構築」こそが、いまの日本には求められるのである。

 同様の仕組みを、日本全国にもたらしたい。もし誰かがやってくれるのであれば、筆者がメインでなくとも構わないと思っている。皇學館大学現代日本社会学部を中心に、人びとを幸せにする方法を一緒に考えようではないか。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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