Yahoo!ニュース

米海軍第7艦隊司令官、中国を「部屋の中のゴリラ」と呼ぶ どういうことなのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 波紋を投げかけたペロシ米下院議長の台湾訪問に続き、民主党上院議員のエドワード・マーキー氏他4名の議員からなる米議員団が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談したが、中国軍は対抗措置として軍事演習を行った。台湾周辺では15日に30機、16日に17機の中国の戦闘機が探知され、また両日とも、少なくとも5隻の中国の艦船が周辺地域で活動していたという。

抗議しなければ南シナ海の島のように

 度重なる中国軍の挑発行為が常態化することに深い懸念を示している人物がいる。日本の横須賀米軍基地に司令部を置いている米海軍第7艦隊司令官を務めるカール・トーマス海軍中将だ。同司令官は、8月16日、訪問先のシンガポールで記者団に対してこう語った。

 「このタイプの行為に抗議するのは非常に重要だ。部屋の中のゴリラが、台湾上空にミサイルを打ち上げていることがわかっている」

 部屋の中にいるゴリラは、部屋から追い出したくても、大きいため追い出すことは難しく、人々は見て見ぬフリをしてしまう。つまり、部屋の中のゴリラとは、明白な問題であるにもかかわらず、対応が難しいため、見て見ぬフリをされている問題のこと示す英語表現だ。この場合、文脈から、中国を指していることは言うまでもない。中国は明白な問題行動をしているが、中国問題はまた複雑で難しくもあるため、どうにかしたいと思ってもどうにもできず、見て見ぬフリをされて、威嚇が常態化することを同司令官は警戒しているのだ。

 トーマス司令官はさらにこう続けた。

「この行為を許してしまえば、抗議しなければ、それは常態になる。台湾上空を通過して、シーレーンが機能している公海にミサイルを放つのは無責任だ。

 抗議しなければ、問題は常態化する。人々はそれをただ受け入れ、そして、突然、全ての南シナ海が自分たちの領海であると主張する。

 抗議しなければ、突然、今では前哨基地になっている南シナ海の島のようになる。島は今、ミサイルが配備され、大きな滑走路や格納庫、レーダー、聴音哨がある、完全に機能している前哨基地だ。

 シーレーンは経済の源泉だ。開かれたシーレーンを持ち、輸送を機能させることは経済を動かし続けるのに非常に重要だ」

 トーマス司令官は見て見ぬふりをされている中国の挑発行為が常態化し、南シナ海の島のように前哨基地化する地域が生じることを危惧、抗議する重要性を訴えたわけである。

 ちなみに、7月26日には、米国務省東アジア・太平洋担当のパク副次官補も、中国が南シナ海のほぼ全域の領有権を主張していることは国際法に反するとの考えを表明している。

危険な迎撃行為が増加

 トーマス司令官はまた、軍用機の近くで照明弾を発射したり、軍用機間の距離を縮めたりする中国側の迎撃行為は危険と指摘、「安全ではなく、プロフェッショナルではなく、標準的でもない迎撃行為が増加している。それは米国の軍用機に対してだけではなく、同盟国やパートナーの国々の軍用機に対しても行われている」と述べた。実際、オーストラリアとカナダは今年、東シナ海と南シナ海上空を飛行していた中国軍のパトロール機が危険な迎撃行為を行ったとして、中国を非難している。

 トーマス司令官はさらに、「自国の領空に入る際、アテンションを得るために軍用機から照明弾を発射することと、公空でそれを行うのは別のことだ。公空で行うと、受け入れられない線を越え始めることになる」と警告した。

「中国は対応する」と2度繰り返す

 一方、ワシントンの秦剛駐米中国大使は、8月16日に行われた記者会見で、米海軍の台湾海峡通過の可能性に対し、「対応する」と2度繰り返し明言した。

「米国側はこの地域で行き過ぎたことをしてきた。米国には緊張をエスカレートさせないよう呼びかけている。中国の領土的一体性と主権にダメージを与えるいかなる動きにも、中国は対応する。中国は対応する」

 また、米議員団が台湾を訪問した件について、米国側が議員は独立した行動ができると主張しているのに対して、以下のように反論し、非難した。

「議会は米国政府の一部だ。議会は、独立している、コントロール不可能な機関ではない。議会は米国の外交政策に従う義務がある。だから、我々は、マーキー議員の台湾訪問に非常にイライラしており、不満を感じているのだ。(議員団の台湾訪問は)挑発的だ、助けにはならない」

 ペロシ米下院議長と米議員団の台湾訪問に刺激され、今後も、米国の同盟国の議員の台湾訪問が増加することが予想されている。日本の超党派議員連盟「日華議員懇談会」の古屋圭司会長らも、来週、台湾を訪問し、蔡英文総統らと会談する予定だ。

 米国はもちろん、米国の同盟国と中国の間でも、緊張が高まることが懸念される。

(参考記事)

US Admiral Decries ‘Unsafe’ China Military Actions in Pacific

China Warns the U.S. Against Sailing Warships Through the Taiwan Strait

Japan lawmaker advancing ties with Taiwan to visit island next week

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事