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「革命のサヨナキドリ」ことバセットも参加していたイッザ軍の戦闘員2人がシリア北西部での戦闘で戦死

青山弘之東京外国語大学 教授
Enabbaladi、2019年6月21日

イッザ軍の発表

シリアの反体制武装集団の一つイッザ軍は11月5日、ツイッターを通じて次のように発表した。

#イッザ軍

アッラーのお許しのもと、殉教者ガーズィー・リフアト・ハッザーアとマジド・ムハンマド・マムシューの悲報をお知らせします。

2人はイドリブ県南部農村の前線で殉教者の名誉を得ました。

2020年11月5日

#イッザ軍広報局

イドリブ県で続く戦闘

ロシア軍戦闘機がイドリブ県北西部のドゥワイラ山にあるシャーム軍団の基地を爆撃し、戦闘員78人を殺害した10月26日以降、シリア北西部の反体制派支配地、いわゆる「解放区」では激しい戦闘が続いている。

英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、シリア軍は11月5日、「決戦」作戦司令室の支配下にあるザーウィヤ山地方のバーラ村を砲撃、これによってイッザ軍の戦闘員2人が死亡、6人が負傷した。

シリア軍はまた、ザーウィヤ山地方のフライフィル村一帯で「決戦」作戦司令室と交戦したほか、カンスフラ村、ファッティーラ村、スフーフン村に対しても砲撃を行い、カンスフラ村では住民1人が死亡、3人が負傷したという。

イッザ軍は「革命家」か「テロリスト」か?

戦闘員2人を失ったイッザ軍は、シリア軍を離反したジャミール・サーリフ少将が2012年初めに結成したラターミナ殉教者旅団を母体とする。ハマー県ラターミナ町を本拠地としたこの組織は、2013年に同県やイドリブ県で活動していた武装グループや活動家を糾合してイッザ連合へと発展解消、2015年に現在の組織名に改称した。

自由シリア軍を自称する他の武装集団に比べ、離反将兵が多く、組織化されていたとされるイッザ軍は、ドナルド・トランプ米政権から「穏健な反体制派」とみなされ、9K111ファゴット、BGM-71 TOWなどの対戦車ミサイルを供与されるなど、多大な支援を受けた。約8,000人の戦闘員を擁するとされたイッザ軍は、最前線でシリア軍と対峙し続けた。

「穏健な反体制派」は、アル=カーイダ系組織を含むイスラーム過激派と一線を画し、自由と尊厳の実現をめざす「シリア革命」の担い手であるはずだった。だが、彼らは、アル=カーイダ系組織やイスラーム過激派との共闘を躊躇しなかった。

なかでも、イッザ軍は各戦線でシャーム解放機構と一貫して共闘してきた。2019年に入って、シリア・ロシア軍がハマー県北部やイドリブ県の南部で攻勢を強めると、シャーム解放機構と国民解放戦線は5月9日に「決戦」作戦司令室を結成、イッザ軍は躊躇なくこれに参加した。

「シリア革命」を支持する反体制系サイトの一つイナブ・バラディー(enabbaladi.net)は11月5日、この「決戦」作戦司令室に関して、「シャーム解放機構、国民解放戦線、イッザ軍が主要な組織」だとしたうえで、イドリブ県でのシリア軍との戦闘で善戦を続けていると伝えた。

シリアのアル=カーイダと共闘し、自由と尊厳をめざす――この矛盾がイッザ軍の本質だ。

「革命のサヨナキドリ」ことバセットが参加していた組織

ちなみに、イッザ軍は、「革命のサヨナキドリ」ことアブドゥルバースィト・サールート(バセット)が所属していた組織である。

バセットは、日本では、ドキュメンタリー映画『それでも僕は帰る:シリア、若者たちが求め続けたふるさと』(タラール・ディルキー監督、2013年)に出演したことで、広く知られるようになった人物だ。

バセットの詳細について以下の記事を参照のこと。

バセットは、2018年1月にイッザ軍に加入し、傘下のヒムス・アディーヤ旅団の司令官として戦闘に参加した。だが、2019年6月7日のハマー県タッル・ミルフ村一帯でのシリア軍との戦闘で重傷を負い、8日に帰らぬ人となっている。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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