シリアのイドリブ県に対するロシア軍の爆撃でトルコが支援しアル=カーイダと共闘する反体制派78人死亡
シリア北西部のイドリブ県で10月26日、ロシア軍が大規模爆撃を実施し、反体制派78人が死亡、90人以上が負傷した。
爆撃現場とアスタナ会議
爆撃が行われたのは、トルコ国境に近いカフルタハーリーム町近郊のドゥワイラ山。
ロシア、トルコ、イランが2017年5月のアスタナ4会議で「緊張緩和地帯」(de-escalation zone)の第1ゾーンに指定し、同年9月のアスタナ6会議でさらに第1ゾーン第3地区に指定した地域だ。
アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路以北に設定された第1ゾーン第3地区は、トルコのイニシアチブのもとに、反体制派を「テロリスト」と「合法的な反体制派」に峻別し、前者を撲滅、後者とシリア政府を停戦させることとなっていた。
この規定に従うのなら、今回のロシア軍の爆撃は、アスタナ6会議への違反とみなすこともできる。
なお、緊張緩和地帯第1ゾーンのそれ以外の地区は、ロシアのイニシアチブのもと「テロとの戦い」と停戦が推し進められる第1地区、ロシアとトルコが合同で「テロとの戦い」と停戦を推し進めるとした第2地区からなっている。
第1地区は2018年初めにシリア政府によって制圧されている。
第2地区をめぐっては、2020年2月から3月にかけてシリア・ロシア軍とトルコ軍・反体制派による大規模戦闘の末に、南側をシリア政府が奪還した。それ以外の地域については3月5日のロシアとトルコの合意に基づいて停戦が発効した。この停戦合意では、M4高速道路の安全を確保することが定められ、トルコ軍が展開、ロシア軍とともに合同パトロールを実施している。それ以外の地域、とりわけザーウィヤ山地方では、シリア軍と反体制派が散発的な戦闘を続けている。
標的となった反体制派とは?
反体制系サイトのEldorarやZamanalwslなどによると、シリア駐留ロシア軍の司令部が設置されているラタキア県フマイミーム航空基地に配備されているロシア軍戦闘機21機が10月26日、ドゥワイラ山にあるシャーム軍団の基地を爆撃し、少なくとも78人が死亡、90人以上が負傷した。
シャーム軍団はシリア・ムスリム同胞団に近い組織で、2014年3月頃にアレッポ県で活動する複数の武装集団が糾合して結成された。トルコから装甲車の供与を受けるなど、もっとも手厚い支援を受けている組織である。
2018年5月、トルコの後押しを受けて、緊張緩和地帯で活動するアル=カーイダ系のシャーム自由人イスラーム運動などとともに国民解放戦線を結成し、同戦線を主導している。国民解放戦線は2019年10月にトルコの占領地域で活動するシリア国民軍(Turkish-backed Free Syrian Army、TFSA)の参加に入っている。
国民解放戦線はまた、2019年5月には、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)とともに「決戦」作戦司令室を結成し、イドリブ県でシリア・ロシア軍に対峙した。2020年2月から3月にかけて、トルコ軍とともにシリア・ロシア軍と交戦した反体制派が、この「決戦」作戦司令室である。
英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、爆撃が行われた際、シャーム軍団の基地では、戦闘員の教練の修了式が行われていた。
シリアでは、ロシア軍(そしてシリア軍)の爆撃というと、とかく「無差別爆撃」、「病院や学校を狙った残虐な爆撃」と非難されることが多い。だが、今回の爆撃で犠牲となったのは、戦闘員や軍事教練を担当する教官だった。
反体制派の反応
EldorarやZamanalwslといった反体制系サイトは、犠牲者のうちイドリブ市出身者20人の遺体が、市内に搬送され、葬儀が行われ、数千人が参列したと伝え、爆撃を非難した。
また、国民解放戦線のナージー・ムスタファー報道官(大尉)は「トルコとの国境地帯が標的とされたことは、挑発を続けるというロシアからの明白なメッセージだ」と批判した。
「挑発を続ける」と非難したのは、10月23日にロシア軍がトルコ占領下のアレッポ県ジャラーブルス市郊外に対して行ったとされるミサイル攻撃を踏まえてのことだ。
シリア人権監視団によると、ロシア軍はこの日、フマイミーム航空基地から地対地ミサイル複数発をジャラーブルス市近郊のビイル・クーサー村に向けて発射し、市場や燃料販売店などが被弾し、3人が死亡、18人が負傷した。
なお、トルコと対立するクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、この攻撃は所属不明の無人航空機(ドローン)によるものだったという。
ロシア・メディアの報道
アスタナ6会議、そして3月5日の停戦合意への違反ととられかねない爆撃に関して、ロシアのANNAニュースは、ロシア軍がシャーム解放機構と敵対する新興のアル=カーイダ系組織の一つフッラース・ディーン機構のメンバーらから情報をもとに索敵を行ったと伝えるとともに、爆撃の様子を撮影した航空写真を公開した。
同ニュースによると、フッラース・ディーン機構メンバーは、シャーム軍団ではなくシャーム解放機構の基地だとする情報を提供していたという。
フッラース・ディーン機構は、3月5日のロシア・トルコの停戦合意に反対していたため、両国の決定に従ったシャーム解放機構と対立を深め、6月の戦闘で大打撃を被っていた。
なお、ANNAニュースによると、爆撃では、ロシア軍戦闘機2機から500キログラムの爆弾が投下されたという。
シャーム解放機構が声明を発表
一方、シャーム解放機構は声明を出し、ロシア軍戦闘機の爆撃によるシャーム軍団の犠牲者に弔意を示すとともに、次のように宣言した。
「シリア革命」の旗手を自任するアル=カーイダ、そしてその背後にいるトルコがどのような対応をとるかが注目されている。