「3月11日を迎える前に」貯め続けた汚染水の課題と展望について
「3月11日を迎える前に」 汚染水問題について(構造の問題編)にて、汚染水が増えてしまうメカニズムをお伝えし、「3月11日を迎える前に」 汚染水問題について(構造の対策編)にて、約5年の歩みの中で打たれてきた対策についてお届けしました。
要約すれば、本来の原子力発電所の仕組みでは「汚染水が増加する」と言う事はなく、震災と原発事故(水素爆発)の影響により、汚染水を増やしながら「原子炉冷却」を行う特殊環境が出来上がってしまいました。
さて、汚染水を貯め続けてきた事で解決しなくてはならない課題がはっきりと見えてきました。それは「管理と処理」をどう確立するか。「それは東京電力の問題でしょう!私達には関係のないことだ!」という声が聞こえてきそうですが、そうとも言えない状態になっています。
汚染水の保有状況と今後の計画
注:現時点を分かり易くするため、2016年1月1日に緑の縦線を筆者が追記。
1月1日のおよその汚染水全体量は75万トン、タンク容量はおよそ90万トンとなっています。タンク容量のグラフが段階的に下向しているのは、フランジ型タンクを解体し、溶接型タンクへと切り替えているためです。現在の所15万トンほどの余裕があります。タンク設置状況図から読み取れるのは、汚染水保管余裕度については約10万トンほどを目指していること。そして汚染水増加量は約1年で数万トン以内の増え幅を予定しています。
このグラフの意図するところは、海側遮水壁による堰き止められた地下水は冬の降雨量減少に伴い400トン→50トン程度と評価し直し、雨量が増える前に陸側遮水壁(凍土壁)を完成させ、汚染水の増加を激減させる計画を描いています。
確定ベースで考えれば、建屋内への地下水流入量200トン+雨量によって左右される建屋引き戻し量50トン以上=250トン以上が毎日増えていくことになります。陸側遮水壁(凍土壁)が完成するまではです。
対策が打たれることで、増加量にある程度の歯止めが効くことは見えてきました。現在計画通りに行けば、廃炉が30年~40年続いても保管出来ない問題はクリアできると言えます。
しかしながら、汚染水問題を「増え続ける放射能廃棄物」という視点で見た時には、処理もしくはさらに安定した状態での管理を確立していかなくてはなりません。それを考えた時、汚染水そのものだけでなく、浄化に使った吸着塔、タンクにも視点を向けることが必要です。
汚染水を浄化するのに使った高レベル放射性廃棄物
汚染水を全β線各種の割合で見ても、数億ベクレル/リットルのものが最終的に数百ベクレル/リットルになります。それだけ濾され濃縮されたともいえます。浄化に使った吸着塔は、汚染水処理設備の中でも群を抜いて高レベルの放射性廃棄物になります。それらはコンクリートで遮蔽された一時保管箇所に、高性能容器(通称HIC)と呼ばれる落下試験を重ねた耐久性を持たせた容器に入れられ保管されています。これで管理は行えていると考えることは出来ますが、ではその先はとなると、決まっていません。これ以上の処理方法が確立されず、保管される状況となっています。こちらを浄化してもさらに濃縮することになり、より扱いが危険になります。処理ではなく放射線量が高い状態で、いかに安全に安定した状態で保管するか、とても難しい課題を待った状態で蓄えられています。
汚染水タンクは金属製放射性廃棄物
汚染水そのものが放射性廃棄物、やっかいで処分に困る物ということは皆さんも抱いている感覚だと思います。でもタンクまでには中々考えが及ばないのではないでしょうか。汚染水は別名「放射性廃液」と呼ばれるものです。それを内包しているタンクはもれなく放射性廃棄物となります。ボルト締めタンクは使用しないため解体を進めています。それを解体後どう処分するかは決まっていません。安定して保管出来る溶接型タンクもいつかは処理しなくてはならないものです。金属性放射性廃棄物としてどう処分するか。発電所構内で永久的に管理するのか、発電所構外で安定保管するのか、除染をしてリサイクルに回すのか。汚染水を貯め続ける=タンクという巨大な廃棄物を作り続ける、その先の処理も考えていかなくてはなりません。
汚染水は自然界放出の処理が検討されている
原子炉内の超高濃度汚染水は処理を繰り返すことで、最終的にトリチウムのみを含む汚染水に浄化されていきます。先に掲載した「タンク建設状況」の今年の計画を見ると、2016年6月ごろにはほぼトリチウムのみを含む汚染水として保管される計画になっています。保管されるトリチウム濃度は1リットル当たり数百万ベクレルです。
ここで自然界放出を語るうえで踏まえなければならないのは、原子力発電所が稼働してから現在の歴史において、トリチウムを含む排水は年間総量も含めて放出基準を守ることで許されていたことです。福島第一原発場合、周辺監視区域外の水中の濃度限度:60,000Bq/リットル、年間総量22兆Bq/年となっていました。この限度内であればという条件付きで実績ベースで放出という「展望」はあります。
トリチウムの考え方については、東京電力HP公開資料福島第一原子力発電所でのトリチウムについて(平成25年2月28日)にまとめが掲載されています。
しかしこれを進める上で大きな課題が2つあります。一つは社会が許容できないということです。2つ目、社会合意を得ても、現在のトリチウム濃度では年間総量一杯で放出したとしても、数百年単位かかってしまいます。過去の総量限度では、海に放出するということは合理的ではありません。海への放出は、総量限度の見直しをしないと実質行えないものです。トリチウムの人体影響が他の放射性物質よりは低いことから、丁寧な議論(年間総量の根本的考えが運転で発生するトリチウム量から逆算して決定されたもので、これ以上は危険とする限度ではないと説明し、かつ納得されること)を行ったうえで、総量限度を合理的に安全を担保出来る範囲で増やすということを検討していくことが必要です。
他に蒸発させてトリチウムを大気へ放出ということも技術的には可能ですが、こちらについても同様に新しく環境影響を考慮した総量放出基準を策定し、それを国民が理解した上で実施されなければならず、高いハードルがあります。福島第一原発での前例がないだけでも、大きな社会問題となると思われます。
本当の課題とは
汚染水問題を放射性廃棄物の処理・管理の問題としてみた時、技術的課題はつきものです。ですが技術は必ず進歩し解決に向かっていきます。本当の課題とは何か。汚染水、吸着塔、タンク、いずれも処理・管理を進めるためには、社会が放射性廃棄物を負担するといった考えを持てるか否かです。
知らず知らずのうちに、大量に貯め続けた汚染水は、どう処理するかの局面に来ています。それは保管の場所が有限である以上、いつかは決断しなければならないものです。ですが、その決断をすれば社会が放射性廃棄物を負担することになります。原発事故の当事者である東京電力にそれを決断できるだけの力はありませんし、一事業者考えで決めるものでもありません。仮に社会の合意形成がなされず、実行されれば、社会中が批判し、そして安易な福島県への風評被害へと繋がります。
トリチウムが自然界に元々あるもの、量を守れば問題ない。と言う考えと、除染したから安全な物に変わったとしタンクを金属として流通させる。高レベルの廃棄物だがしっかり管理するので構外管理施設に持っていく。この3つが放射性物質に対して、理解力があるとは言えない状態で許されることなのか。そう簡単にはいかないことは、除染廃棄物の仮置き場でも、放射性廃棄物が存在する事だけで忌避されることからもうかがえます。
増え続ける汚染水問題は、増え続ける放射性廃棄物の処理方法を確立することでありそれは社会負担なきには解決できない問題だということです。汚染水の増加予測とタンク設置状況から、問題を先延ばしにし見て見ぬふりを続ける余裕は確かにあります、ですが、今私達が先延ばしにする課題は、次の世代に降りかかる課題です。
課題を克服していく為に必要な展望
今年で原発事故から6年目を迎えようとしています。この6年で形成されたのは形骸化した原発情報発信と、原発を震災前より忌避して遠ざける文化です。このまま進めば、およそ課題を解決出来るとは言えません。
課題を越えていくには社会の協力が必要です。協力するためには理解することが前提にあります。忌避して終わらず、次の世代のために合理的、現実的に今すべき選択をしていかなくてはなりません。そしてその理解と選択のためには、福島第一原発の廃炉を担う東京電力が、社会協力と理解を得るために民間目線で分かる形での状況と課題を丁寧に伝えることが必要です。
社会の合意形成を持って、放射性廃棄物の処理・管理について丁寧に確立されていくことが、今後の廃炉の取り組みで一番必要なことではないかと思います。臭い物に蓋をしない考え方がこれから求められていきます。