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福島第一原発を解決できぬ紛争題材にしないために、私たちが出来ること

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
(写真:つのだよしお/アフロ)

東京電力福島第一原子力発電所に蓄え続けられる『水』が、海洋放出という手段によって処分されることが決まりました。

全国各紙、政府・東京電力VS漁業者もしくは地元に暮らす人たちという論調で報じています。

海洋放出を科学的根拠を基に賛成する人たち、科学的根拠を出す側への不信感及び原発事故後、根強い風評被害に遭いながらも地域と自己再建を目指した人たちの歩みが水泡に帰すことを危惧して反対する人たち

この決定に対してのスタンスの違いで、そこでもVSが起きています。

筆者は、長年福島第一原発のお膝もとの地域で、福島第一原発を題材として取組を行ってきました。

自社で作成した福島第一原発のジオラマを使い、中高生と福島第一原発の廃炉の未来を共に考え合う場を行っています。(写真:一般社団法人AFW所有)
自社で作成した福島第一原発のジオラマを使い、中高生と福島第一原発の廃炉の未来を共に考え合う場を行っています。(写真:一般社団法人AFW所有)

その取組に際して、共通の未来のために何ができ得るのか。後世の人たちの判断をもって現代における最適解を模索しなくてはいけないのではないか、それを自分の感情にも言い聞かせ、解決不能な状態を回避するため、共に未来を一緒に考えましょうと取組を続けてまいりました。

その他取組ついてはリンク先記事をご覧いただけたらと思います。

その様な立場から、現状起こっていることは『紛争』一歩手前の状態にあると思っています。

個人個人に信じるモノがあり、譲れぬものがある。原発事故という歴史的出来事があったからこそ、単純にはいかない。それは誰もが自身の心情に乗った正義をもつことが出来ることに繋がっています。

その正義と正義がぶつかり合うことだけで、終わってしまうことを筆者は紛争化する一番の要因だと思っています。

今回の事例では、東京電力・政府は福島第一原発の廃炉=福島の復興という正義の基に廃炉を遂行する正義をもって、意思決定をしています。

一方で、反対をされている方々は福島の現在値(暮らし・生業)が正常になっていること、傷つけられないことを復興のあるべき姿の一つとして大切にされています。

お互いが、目指すべき姿は福島の復興という点では一致しているものの、ぶつかり合っています。

海洋放出の是非でぶつかり合っているのですが、これは海洋放出という題材をもって戦い合う姿であり、本来は双方が大切にしている「福島の復興」のためにお互いが何が出来るかという話が明後日に行ってしまっている状態です。

この状態が続き、お互いが疲弊した際に待ち受けているのは解決できぬ紛争状態です。

これは、原発事故が起きた際、誰しもが思ったことに通じるはずです。なぜあのようなモノが作られたのだと。原子力発電には課題があることは作られた時からすでに命題としてあったはずで、原子力発電が事故を起こした際の社会影響もそうですし、発電する以上生まれる高レベル放射性廃棄物の最終処分をどうするかのといった話も。。。

何十年と議論されてきたにも関わらず、解決できる問題だとされ、あの日(3.11)を迎えてしまったことと。

・解決できぬ紛争状態を防ぐために

そして紛争の解決方法ついては、個々の感情論を超えて合理的かつ現実的な決め事を紛争状態にある双方が、共通の目的(大義)のために話し合い、一つ一つ積み重ねていった際に、紛争の解決の道筋が見えてきます。

そのために必要なことは対話環境を構築することです。

そしてその環境に必要なことは以下の通りです。

1.安全な対話への前提

双方がお互いの主張を通すために対話をするのではなく、お互いが大切なことに傾聴できる状態を作ることです。

福島第一原発で言えば、原発事故という痛みがあります。それは被害に遭った方々だけではありません。起こそうと思ってもいなかった側、福島第一原発を預かっていた人たちにもあります。

そして対立関係にあったとしても双方が双方の痛みを理解し、お互いが安心して胸襟をひらける環境が必要です。

その環境が無ければ、対話などは出来ません。

2.共通の目的の設定

ここでの共通の目的とは、お互いが目指せる世界観です。先述した『福島の復興』それも共通の目的になり得ます。ですが、それを曖昧化してはなりません。

お互いが描ける世界、ありたい未来の姿を具体的に話し合い、それを目的化することが必要です。ビジョンともいうものです。

3.双方の事情をフェアに扱う

今回で言えば、科学的根拠を信頼と信用がないが故に扱うことは出来ない。それは一方的な考えです。そして科学的根拠を基に感情論で左右されてはならないというのも一方的です。

双方が核に持つ情報について、フェアに開示されそれを扱わなくてはなりません。また都合の悪い事実についても明らかにすることです。

ここで、問題になるのが原子力特有の課題である専門性です。あまりにも社会性を持たない学問です。それをごく普通に暮らす方にとって共通言語になりえる丁寧さを追求すること、透明性が不可欠になります。

この点で言えば、これならば分るであろう、十分な開示であろうとするのではなく、分からないとする立場の方と専門的な情報を読み解くツールの開発をすることが必要でしょう。

4.中立的立場の必要性

コーディネーター、ファシリテーターと呼ばれる存在です。この存在は、どちらに与してもいけません。個の感情を捨て、その場にいる双方が建設的議論が出来るようにしなくてはなりません。

ここが、最も難しいことかもしれません。

紛争学といったジャンルを専門に扱い、コミュケーション能力が高く、利害関係がない存在がよいでしょう。

またそうしたことが難しいのであれば、第3者組織としてその存在が適切かどうか判断する機能を持つことが良いでしょう。

5.プロセスの開示と周知

この点が、今回では最も問題になった点でもあります。どの様なプロセスで意思決定がされたのか。密室で知らぬ間に民意も汲み取られずに勝手決まったのではないか。そうしたことが生まれています。事実、受け取り手にとってはその様にとられている時点で、失敗だったと言わざるをえないでしょう。

このような事が続かぬようにも、プロセスの開示と周知は必須です。そしてこれにはメディアの力を必要とすることも明白になりました。そしてメディアは世論操作になるようなこともしてはならないはずです。ジャーナリズムは事実の周知です。イデオロギーの周知ではないはずです。世論操作に繋がってしまう言葉の表現などは丁寧にあってしかりです。また、プロセスの開示と周知が始まった際、それを受け取る相手とある人たちも、事実主義に基づき、それを冷静に吟味していくことが必要になります。

原発事故という歴史的な出来事と地続きでいる現在

皆さんはどの様な一歩を踏み出しますか

解決できぬ紛争の一つとしての一歩でしょうか

それとも後世が、苦しくとも当時の人たちがより良い未来のための一歩を踏んでくれたと評価する一歩でしょうか

福島第一原発で蓄えられ続ける『水』の海洋放出が決定した今、踏み出す一歩を共に考えていきませんか

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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