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MAX192キロの打球速度を計測するエンゼルス・大谷の自打球は軽症でホッ。

一村順子フリーランス・スポーツライター
アクシデントもなんの、第5打席で右前打を放つ大谷(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 エンゼルスの大谷翔平投手は17日(日本時間18日)、敵地でのレンジャーズ戦で第5打席に右前打を放って、5試合連続安打となると、代走を出されてベンチに下がった。3日(同4日)のレッドソックス戦以来14試合連続でフル出場を続けていたが、途中交代となった大谷について、試合後のマドン監督は「明日投げる」。翌18日(同19日)に予定通り先発すると明言。大差のついた試合での温存目的の交代で、怪我ではないと示唆したが、報道陣から更に、彼は大丈夫なんですね、と念を押されて「イェス」と苦笑い。その反応に、周囲の記者たちがドッと笑う一幕があった。

 ご存知の通り、第4打席で大谷は自打球が股間に命中。身を翻しながら打席周辺を跳び回り、前屈みの姿勢で苦しんだ。実際、グローバル・ライフ・フィールド最上階の5階にある記者席からは、どこに当たったか見えなかったし、テレビ中継の映像でもはっきり分からなかった。が、通信社の決定的写真が配信されるまでもなく、大谷の反応から、男性記者陣はピンと来ていたようだ。痛々しくベンチに戻った大谷に、チームメイトも気の毒がりながらクスクス笑い。当たった場所が場所だけに、どこか滑稽な空気が漂っていた。

 試合後のマドン監督の会見で起きた笑いは、そんな微妙な空気の中で生まれたもの。大谷は不憫だけど、可笑しい。男性陣同士だけが「うん。分かるよ、辛いよな」と思いを共有している中、私はポツンと取り残されていた。「相当、痛いんだろうな。でも、良く分からない」というのが正直なところ。周囲の男性記者陣にどういう種類の痛みか聞いてみた。

 「いや、もう、凄く痛い」

 「言葉では表現できない」

 「吐く」

 「軟式球でも死にそうに痛い」等々。

 注射の痛みでもなく、刺し傷でもなく、腹痛とも違う。語彙の限界というよりは、体験しなければ分からない種類のもの。余談だが、日常で頻繁に使う「産みの苦しみ」という言葉も微妙。男性陣は分かりっこない痛みなのだから。

 ともあれ、今回は幸いなケース。過去には2018年にカージナルズのモリーナ捕手がファウルチップを股間に受けて、病院に直行。骨盤付近の外傷性血腫で緊急手術を受けているし、マリナーズのハ二ガー外野手は2019年に自打球で睾丸破裂。シーズン全休の末、2度の手術を受ける悲惨な目に遭った。負傷交代もよくある話だ。

 大谷は次の打席で安打を放ち、翌日の登板に青信号を灯した格好だった。選手や審判は通常、ユニフォームの下に通称カップと言われるプロテクターを着けて安全を図るが、一度地面に当たって下から跳ね返った場合、完全には保護されないようだ。草野球でも当たれば悶絶、と聞いたが、大谷の打球速度は、メジャー1年目から年々加速し、今年は最速119・1マイル(192キロ)を計測。男性記者陣からレクチャーを受けながら、改めて、フィールドで起こりうる様々な危険に想像を巡らす夜だった。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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