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『ドラゴン桜』で見せる“平手友梨奈”の逆転の姿 彼女はなぜ異様な存在感を発するのか

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:Anmitsu_hime01/イメージマート)

2005年『ドラゴン桜』の生徒役だった豪華メンバー

2021年の『ドラゴン桜』はTBS日曜劇場で放送されている。

非常に偏差値の低い「バカ学校」の生徒を指導して、東京大学に合格させてみせる、という物語である。

先生(指導者)にとっては学校経営と自分たちの立場を賭けたミッションであり、生徒たちにとっては自分の人生を切り開く挑戦となる。そういうドラマだ。

逆境からの逆転を見せる日曜劇場ならではの展開が期待できる。

前作、2005年第一シリーズでおバカな高校の「東大特進クラス」にいたのは6人だった。

彼らはそろって東大を受験した。

演じていたのは、山下智久、小池徹平、紗栄子(当時サエコ)、中尾明慶と、長澤まさみ、新垣結衣である。

長澤まさみ演じる水野は、ぶじに東大に進学して弁護士となり、主人公(阿部寛が演じる桜木)を助ける役として、2021年シリーズもメインキャストに入っている。

紗栄子も2021年版第一話にゲストとして登場していた。東大を出てタレントとして活躍しているという設定である。

残りメンバーはいまでもドラマで見かける役者たちである。

このドラマの生徒役を演じる役者は、かなり期待のかかった若手だと言えるだろう。

初登場シーンから突き刺すような存在感の平手友梨奈

今回、第二シリーズで「東大専科」に進む生徒は7人のようだ。

(第一話終了時点ではメンバーは確定していない)。

以下の7人である。

高橋海人、南沙良、平手友梨奈、加藤清史郎、鈴鹿央士、志田彩良、細田佳央太。

すでに有名な役者と、これからの役者が混じっている。そのあたりが楽しみである。

メインは前作と同じくジャニーズから、King&Princeの高橋海人。去年の『姉ちゃんの恋人』のときの根っからの善人役とはうってかわって、かなり裏のありそうな若者役である。

女性生徒で、第一話最初にでてきたのは平手友梨奈だった。

女性キャストでは、おそらく彼女と、南沙良が中心になってドラマ展開していくのではないだろうか。

平手友梨奈はあいかわらず突き刺してくるような存在だった。

初回から目が離せない。

ご存知だろうが、彼女はもと欅坂46でセンターを務めていたパフォーマーである。

欅坂は彼女が抜けたことによって櫻坂と名前を変えた。

チョコレートを万引きするシーンでの登場

平手友梨奈の役は、バドミントン部の選手で、高校3年ながらオリンピック候補選手になるのではないかと噂される全日本級の実力の持ち主である。1話の時点では、スポーツ推薦で大学に行くだろうから東大専科には入らないはずだ、と言われていた。

でも、彼女にも裏の顔がある。ようだ。まあ、だいたいこういうドラマの生徒役は二面性があるものだけれど、彼女の登場は「コンビニでチョコレートを万引きするところ」からだった。

それも商品を手にとってそのまま上着のポケットに入れてしまうストレートな万引きで、あまりこそこそ隠れてやっていない。店員も、気づいていながら見逃しているような雰囲気があった。同級生の高橋海人に注意され、たまたまそばにいた阿部寛にも聞かれるというのが最初のシーンである。

素行不良の生徒なのかとおもってみていると、あとで高校トップクラスの選手だとわかり、彼女の二面性に驚かされる、という登場のしかただった。

平手友梨奈の「開かれた額と眉」のインパクト

平手友梨奈がふつうの時間帯のドラマに出演するのは珍しく(初めてのはずである)、どういう登場するのか少しハラハラしつつ待っていたのだが(なぜか、平手友梨奈は見てる人をハラハラさせる存在である)、コンビニ店内での顔のアップで登場した。

最初、顔の上半分が映し出され、険しい表情で目立ったのは「太い眉」だった。

眉が太いな、といまさらながら、そこに目がいってしまった。

欅坂46の絶対的なセンターとして孤高の存在だったころ、彼女はとても尖った存在だったが、見た目はかなり丸っこかった。丸みを帯びているのに尖った存在、というのが強く印象に残った。顔はふっくらしていたし、髪ももう少し長かった。

欅坂を抜けてからは、髪は短くなったのだが、でも前髪は額にかかっていた。

たとえば『ダンスの理由』のPVではそうである。

今回『ドラゴン桜』では、スポーツ選手の役だからだろう、額を出している。

額も広いな、ともおもったが、眉の太さが印象深い。

楽曲パフォーマンスのときの平手友梨奈とは印象が違う。

「開かれた平手友梨奈の顔」だとおもった。

これはこれで、あらたなインパクトがある。

これまでは十代半ばの少女らしく、前髪を眉まで垂らして少し顔を隠し、その下からのぞき込むように、でもとても鋭く、みんなを見つめていた。

鋭く尖って見つめているが、でもどこまで届いているのか見定められていない不安もその表情には宿っていて、そういう揺らぐ平手友梨奈の姿が心に残っている。

ドラマ『ドラゴン桜』での「開かれた平手友梨奈」の鋭い表情は、広い場所へ出向く大人の決意を表した額に見えてくる。

映画『響 -HIBIKI-』で見せた平手友梨奈の「刺さる身体性」

これまで平手友梨奈が演じていたのは、どれも「閉じた役どころ」が多かった。

いくつかの新人賞を獲得した2018年公開の映画『響 -HIBIKI-』では、高校生ながら天才的な小説家、を演じていた。

あまり人とのコミュニケーションが得意ではなく、行動がかなり乱暴な少女役である。

暴れるときの立ち回りが、ダンスと同じキレキレな動きで、それが衝撃的であった。

内に秘めたるパワーが強く、それをどう表現すればいいかわからずもがいている少女を演じ、見てる者の心に刺さってきた。

常にディスコミュニケーションを怒りを含めて見せていた

それ以前に平手が出ていたドラマは、欅坂46のプロモーションのドラマだった『徳山大五郎を誰が殺したか?』(2016年)と『残酷な観客達』(2017年)である。

平手友梨奈は、2017年の楽曲「不協和音」あたりからグループ内でも「絶対的孤高のセンター」という役割を一人で背負い込み、めちゃめちゃかっこいいパフォーマンスを見せながら、同時にいろんな限界を越えていそうな気配を強く漂わせ、見ている者をハラハラさせる危うさでいっぱいだった。

その変化の過程はこの2つのドラマでも明らかである。

2016年のドラマではまだメンバーの中の一人という立場だが、2017年には他と懸絶した主役となっていた。

10代半ばの彼女は、その楽曲もふくめ、常に「ディスコミュニケーション」をテーマとしたパフォーマンスを見せることが多かった。

それは鋭い叫びとなり、若者の怒りを強く抱合していた。

いつも人に突き刺さる存在感があった。

「刺さらなければいけない」という平手友梨奈の悲愴な使命

欅坂46の結成時からグループ最年少でセンターをつとめ、「観ている人に刺さらなければいけない」という使命を強く持ち続けているようだった。

常に尖っていようとしていた。

本来は、見た目の丸っこさから想像されるような柔らかさをたっぷり抱えていたはずだったのだけれど、いつからか「鋭さ」だけが突出し、折れてもいいから刺さりたいと念じて、パフォーマンスを続けていたとおもう。

折れてもいいから、というメッセージはいつも彼女の身体から聞こえてきていた。

それが平手友梨奈だ。

見ているほうは、折れないで、とただ祈るしかなかった。

『ドラゴン桜』の生徒たちが見せる「開かれた逆転劇」の可能性

ドラマ『ドラゴン桜』では、彼女の役はこれまでにくらべて、かなり開かれた役である。

表むきの「天才的バドミントンのプレイヤー」としては明るくストレートな役どころで、部活に教師が現れたとき、率先して挨拶していた。

このあといちど、裏側の部分を見せたうえで、ふたたび別の「明るくストレートなところ」を前に出してくるのだとおもう。でないと東大を目指せない。

日曜劇場は「屈辱的状況からの逆転」ということをテーマに毎回見せてくれる。

今回は学園ものでもあるから、生徒たちは「閉じている状態から開いていく状態へ」というパフォーマンスを見せてくれるはずだ。

平手友梨奈自身もまた、「キレキレの鋭いパフォーマー」だった姿から、「開かれているが、それでも突き刺さる役者」へと逆転を見せてくれるのではないだろうか。

生徒役のすべての役者が、それぞれの「変化」をリアルに見せてくれるはずで、そこが一番の見どころになるだろう。

とても楽しみなドラマである。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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