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「喫煙」は「運動パフォーマンス」にどう影響するのか。エリートアスリートの喫煙問題から考える

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 五輪代表選手の喫煙が問題視され、代表を辞退したことが話題になっている。喫煙は運動パフォーマンスにどう影響するのだろうか。持久力があまり求められない競技種目で、喫煙の影響は少ないというのは本当なのだろうか。

エリートアスリートと喫煙の評価の難しさ

 喫煙が運動パフォーマンスに何らかの悪影響をおよぼすということは、世界的にスポーツ選手や指導者らの共通のコンセンサスになっている。そのため、ほとんどのスポーツ団体では選手の喫煙に対し、喫煙禁止など何らかの制限を取り決めている。

 一方、スポーツで頭角を現すようなエリートアスリートに喫煙者の割合は少ない。また、スポーツと関係のない集団と比べ、同じクラブやチームに所属する仲間から喫煙を誘われることも少ない環境にあることが予想され、これもエリートアスリートに喫煙者が少ない理由になっているようだ。

 ただ、喫煙と運動パフォーマンスの関係については、一般人とエリートアスリートで区別が必要だ。なぜなら、そもそも心肺機能などが優れた人が、スポーツを続けたりエリートアスリートになったりするため、喫煙による身体機能への悪影響を正しく評価することは容易ではない。

 そのため、研究によっては、しばしば矛盾した結果が出ることも少なくない(※1)。またそれが、喫煙しても運動パフォーマンスには影響がない、という誤解につながることもある。

 だが、こうした背景があってさえ、なお運動パフォーマンスに対する喫煙の悪影響を示す研究は多い。それらは必ずしもエリートアスリートを対象にした研究ではないが、喫煙による身体機能への悪影響を推し量る目安にはなる。

 13歳から19歳までの男女学生6811人を対象にしたノルウェーの研究によれば、格闘技やボディビルディングなどの持久力をあまり必要としないスポーツ選手に高頻度で喫煙する傾向(毎日喫煙など)があり、喫煙者は非喫煙者よりもスポーツを早くやめてしまう傾向があることもわかった。また、非喫煙者では運動すると肺機能が上がったが、喫煙者ではそうした変化はみられなかったという(※2)。

アイコスなど加熱式タバコでも同じ

 喫煙者と非喫煙者の男性80人(平均年齢26歳±3歳、喫煙者40人、非喫煙者40人)に対し、心臓機能(エコー検査による心筋の拡張機能)を比較したトルコの研究によれば、喫煙者で右室・左室ともに心臓の壁が硬くなり、心臓の拡張機能へ悪影響をおよぼしていることがわかった(※3)。若い年代でも、喫煙で心臓機能へ影響が出ることがあるということになる。

 エコー検査による喫煙の心臓機能への悪影響を調べた研究は、加熱式タバコでも行われている。アイコスの喫煙者27人を対象にした研究によれば、アイコスの喫煙も従来の紙巻きタバコと同様、心臓の収縮・拡張機能を低下させたという(※4)。

 米国の消防士の検診データを用いた研究によれば、腕立て伏せの回数で比較した場合、喫煙率が高いグループほど腕立て伏せの回数が少なくなることがわかった(※5)。つまり、日常的に激しいトレーニングをしている消防士でも、タバコを吸うと身体機能が落ちることになる。

 男性軍人3669人(平均年齢29.4歳、喫煙者1376人)を対象にした台湾の研究によれば、喫煙者は3000メートル走のタイムが遅く、腹筋運動や腕立て伏せの回数が少なくなる傾向のあることがわかった(※6)。つまり、喫煙は瞬発力も持久力も悪影響をおよぼすことになる。

 こうした研究は多く、喫煙が運動パフォーマンスに悪影響をおよぼすことは明らかだ。そして、その悪影響は、持久力が必要な競技のみならず、瞬発力が問われる競技でも同じであり、体操などの瞬発系の競技でも喫煙により運動パフォーマンスに何らかの影響があるということになる。

※1:Andrew Kaczynski, et al., "Smoking and Physical Activity: A Systematic Review" American Journal of Health Behavior, Vol.32, No.1, 1, January, 2008
※2:T L. Holmen, et al., "Physical exercise, sports, and lung function in smoking versus nonsmoking adolescents" European Respiratory Journal, Vol.19, 8-15, 1, March, 2002
※3:Elif Eroglu, et al., "Chronic Cigarette Smoking Affects Left and Right Ventricular Long-Axis Function in Healthy Young Subjects: A Doppler Myocardial Imaging Study" Echocardiography, Vol.26, Issue9, 1019-1025, October, 2009
※4:Belma Yaman, et al., "Comparison of IQOS (heated tobacco) and cigarette smoking on cardiac functions by two-dimensional speckle tracking echocardiography" Toxicology and Applied Pharmacology, Vol.423, 15, July, 2021
※5:Justin Yang, et al., "Association Between Push-up Exercise Capacity and Future Cardiovascular Events Among Active Adult Men." JAMA Network Open, Vol.2(2), e188341, doi:10.1001/jamanetworkopen.2018.8341, 2019
※6:Fang-Ying Su, et al., "Association of Tobacco Smoking with Physical Fitness of Military Males in Taiwan: The CHIEF Study" Canadian Respiratory Journal, doi.org/10.1155/2020/5968189, 7, January, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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