古くて新しい「内燃機関」、エンジンの革新的な未来とは、東北大学の研究
電動化が進む中、依然として産業の基盤を支えている内燃機関だが、まだまだ改善・改良の余地がある。東北大学の研究グループは、独自の理論をもとに自動車エンジンなどの問題解決につながる新たな知見を専門誌に発表した。その技術的革新とは、いったいどのようなものなのだろうか。
内燃機関とは何か
EVなどの電気を直接の動力源として動くシステムばかりが注目されているが、充電インフラはまだ十分に整備されておらず、航続距離も内燃エンジンほどではない。自動車の場合、途上国を中心にこの先、数十年は内燃機関のエンジンが主流であり続け、高効率化と排出ガス削減などの問題解決が期待されている。
化石燃料を燃焼して動力にするエンジン(熱機関)には、大きくシリンダー内などで燃焼させる内燃機関と外部の燃焼を動力エネルギーに換える外燃機関に分けられる。内燃機関には自動車用や船舶用などのエンジン(ガソリン、ディーゼル)やガスタービンなど、外燃機関には蒸気機関車やボイラーなどの蒸気機関や蒸気タービン、スターリングエンジンなどがある。
内燃機関(自動車、航空機、船舶など)の市場規模は2030年までに倍増すると予測され、電化に対する過度な期待について戒める見解も出ている(※1)。
こうした燃焼機関、特にガソリン機関については、カルノーサイクル(最高効率)への接近、乱流など火炎や燃焼の伝播や挙動、燃焼室内での超音速流や爆轟、燃料噴射や自着火(HCCI燃焼)にいたる過程、排気ガスの排出、摩擦効率など、未知の技術的研究分野がある。
ガソリン機関では、未燃焼の予混合気(混合気)がシリンダー内へ供給され、ピストンによって圧縮されるとともに着火され、予混合気の火炎が伝播燃焼する発熱によって爆轟を起こし、ピストンを押し下げて再び圧縮するというサイクルを繰り返す。ノッキングは、着火点から遠い位置にある予混合気に対し、火炎が伝播する前に自着火(自己発火)してしまう火炎(Deflagration、燃焼、爆燃)→爆轟(Detonation、超音速の爆発)現象だ。
克服すべき課題とは
ガソリンエンジン車では異常燃焼(HCC燃焼)によるノッキングの問題などが生じるが、電子制御によって軽度なノッキングを前提で運転されることも多い。こうした内燃機関の問題を解決するため、数値流体力学(Computational Fluid Dynamics、CFD)モデルによる解析、着火・燃焼の過程の解析、スーパーコンピュータによるシミュレーションなどが行われてきた(※2)。
エンジン内での燃焼は、化学反応が予混合気の中を伝播する現象であり、その化学反応によって生じた波は、音速未満の亜音速領域で火炎、超音速領域で爆轟として自己伝播することがわかっている。しかし、伝播速度が音速に近くなると、どのような条件で火炎から爆轟にいたるのかはまだ解明されていない。
これまでの研究開発では、着火と火炎は別の現象として扱われていたため、極限条件における現象理解は難しく、依然として理解が進んでいない研究領域だ。
東北大学流体科学研究所の森井雄飛・助教らの研究グループは、着火と火炎の等価性(無限に解が存在すること)に関する理論(※3)をもとに、新たに化学反応による波を自着火反応波(autoignitive reaction wave)とすることで火炎から爆轟へいたる条件をつなぐことに成功し、専門誌に発表した(※4)。
同研究グループは、着火を特徴付ける未燃焼の予混合気が着火にいたる時間で定義される着火遅れ時間と火炎を特徴付ける予混合気の中を伝播する速度である層流燃焼速度に注目し、着火と火炎が同じ構造を持つこと、爆轟速度よりも流入速度が速い条件に安定した解が存在することを解明した。
革新的な内燃機関の開発も
また、この超音速条件における自着火反応波(autoignitive reaction wave)を数値計算を用いて調べたところ、衝撃波構造を持たず、安定した燃焼形態として存在することがわかったという。同研究グループは、これまで未知だった自着火反応波(autoignitive reaction wave)という着火の概念を新たに発見したということになる。
着火遅れ時間と層流燃焼速度には関係がないとされてきたが、今回の研究によって様々な燃焼形態を整理し、同じように議論できるようになった。同研究グループは今後、自動車エンジンの高効率化を阻害しているノッキングの発生条件、安全工学として重要な爆轟遷移条件を明確にできるようになるだろうと述べている。
さらに、次世代航空宇宙エンジンとして期待されているスクラムジェットエンジンのような超音速燃焼器で、これまでは爆轟速度が最大の燃焼速度と考えられてきたが、同研究グループによる自着火反応波(autoignitive reaction wave)の着火を応用することでさらに高速に燃焼させる可能性があることがわかった。
この自着火反応波(autoignitive reaction wave)の考えからは、実際のエンジンでの爆轟で問題になってきた非定常性(異常)の克服も視野に入ってきたという。こうした着火を活用することで、ディーゼルエンジンで使われる有害物質の排出を削減する新たな燃料の可能性など、革新的な内燃機関の開発もみえてくるかもしれない。
※1:R D. Reitz, et al., "IJER editorial: The future of the internal combustion engine" International Journal of Engine Research, Vol.21, Issue1, 24, September, 2019
※2:大島伸行、寺島洋史、「『富岳』燃焼シミュレーションに向けての数値モデルと計算法」、日本燃焼学会誌、第64巻、第208号、136-143、2022
※3:Youhi Morii, et al., "Analysis of knock onset based on two-dimensional direct numerical simulation and theory of explosive transition of deflagration" Physics of Fluids, Vol.35, Issue8, August, 2023
※4:Youhi Morii, Kaoru Maruta, "General concept for autoignitive reaction wave covering from subsonic to supersonic regimes" Physics of Fluids, Vol.36, Issue1, January, 2024