市民の自転車に選挙PR広告を無断でつけてもOK!? フィンランド若者のEU選挙離れ対策
5月26日に行われたフィンランドでのEU議会選。投票率は42.7%だった。
フィンランド法務省「European Elections 2019」
この国では4月に総選挙が行われたばかり。
選挙が連続して、市民の間では「もうお腹いっぱい」という雰囲気が出ていた。
また、EU議会選の開票日には国民的スポーツであるアイスホッケー決勝も重なってしまい、市民の関心がアイスホッケーに向いていた、当日は雨だったことを考えると、この数字はそれほど悪くはないとされている。
年齢別の投票率がわかるのは7月中旬となる。
前回2014年のEU議会選では、若者の投票率が10%という非常に低い数字を叩きだしていた。
国内政治とは反対に、EU政治に関心が低い若者。
今回は、若者のEU選挙離れのために、国は何をしているのかを取材した。
最後のレポートは、開票日当日の夜、首都ヘルシンキから。
夕方から開票が始まり、外務省が主催する記者室には国際メディアが集まっていた。
ヘルシンキ大学のラウラ・ノールストゥルム博士は、7か国の若い研究家たちとの共同プロジェクトで若者の投票率を高めるための実験を行った。
「EUなしでの食卓」という動画をSNSで拡散
EUがないと、スーパーマーケットでどれほどの食材がなくなるかを大げさに動画で表現した。
実は、スーパーというのは非常にわかりやすい例だ。
私が住んでいるノルウェーは、EU非加盟国。出張でEU加盟国へ行くと、スーパーの品ぞろえの違いに仰天する。
ノルウェーのスーパーよりもたくさんの食材があり物価も安いので、嬉しくて長居してしまうのだ。
北欧旅行の予定がある方は、加盟国と非加盟国のスーパーを意識して観察してみると面白いかもしれない。
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SNSが鍵となる
若者のEU議会の関心の低さについて、ノールストゥルム博士は「EUも、各国の政治家もメディアも、もっとわかりやすいコミュニケーション方法で、EU政治を理解できるように努力しなければだめだ」と取材で語る。
「若者はSNSで情報収集をする。今後の選挙ではSNSがもっと重要な役割を果たすでしょう」。
「私たち大人だけでは、SNSを使いこなすことができないので、若いスタッフも必要。人気ブロガーは報酬なしでは宣伝をしてくれないので、助成金も必要になります」。
交換留学などの移動の自由、気候変動は、まさにEU議会の政策。「本来であれば、EU議会選こそが若者の関心が集まるはずの場所なんです」と語る。
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ヘルシンキにあるEU議会オフィスのスタッフたちは、今年はフィンランドでの若者の投票率を上げる活動に専念したという。
「今回は私は投票する」というキャンペーンで、市民レベルにアクセスするためにNGOや青年団体などと協力。EU議会についての情報拡散と教育を目標とした。
FacebookやTwitterも使ったが、Instagram上でサッカー選手や芸能人が「投票しよう」と呼び掛けたことも勢いにつながった。
「EUの精神である差別反対は、スポーツの精神でもありますからね」とスタッフは語る。
フィンランド人は国内選挙では投票する傾向が高いため、「EU議会選も、同じくらい大切なんですよ」ということも強調するようにしたそうだ。
SNSだけではなく、フェスやイベント会場などで専用スタンドを立ち上げ、市民と直接話したり、チラシを配った。
今回、EU議会オフィスが無料配布していたものを見せてもらった。
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市民の自転車のイスに選挙PRを無断で貼っちゃう
今までいろいろな選挙グッズを見てきたが、自転車のシートに取り付けるカバーは初めて見たかもしれない。
「選挙に興味のない人が、勝手に貼るな!って怒ったりしないんですか?」と聞いたら、
「あら!そんなこと考えたこともなかったわ。日本ではだめなの?」と驚かれた。
人気の漫画をPRキャラクターに
これは喜ばれそうと思ったのが、人気漫画キャラクターを起用したポストカード。
イラストはSNSでも幅広くシェアされており、私もノルウェーにいる頃からFacebookで見かけていた。
選挙PRグッズを学校で配り、教材に
私が訪問したEUコースがあった高校でも、EU議会オフィスから配られた道具の一部が教材として使用されていた。先生たちも助かっていたのだろう。
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今年のフィンランドの若者の投票率がわかるのは7月となるが、5年後のEU議会選に向けて、大人たちはどう作戦会議を立てていくのだろうか。
次回はSNSがどう活用されるのか、リサーチしてみると面白そうだ。
Photo&Text: Asaki Abumi