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コロナ感染拡大と食糧、水、気候変動の関係

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
WaterAid/ Basile Ouedraogo

サプライチェーンの崩壊と気候変動による蝗害

 国連アフリカ経済委員会(UNECA)は、4月17日、アフリカで新型コロナウイルス(以下新型コロナ)感染により少なくとも30万人が死亡し、2900万人が極度の貧困に陥る恐れがあるとして、1000億ドルの支援を呼び掛けた。それは以下の記事にまとめられている。

 Yahoo!ニュース「アフリカ、コロナで30万人死亡の恐れ=国連委」

 しかしながら先進国も新型コロナ災害を受けている最中にあり、同記事のコメント欄には、「いまは無理」「支援や援助はむずかしい」という声もあるが、この問題について食糧、水と衛生、気候変動という点から考えると、その深刻さを実感できるとともに、私たちの生活と無縁でないことがわかる。

 まず、食糧の問題。

 新型コロナのパンデミックが世界のサプライチェーン(製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売までの一連の流れ)に影響を与え、食糧価格が上昇している。

 2000年代後半、2010年代前半にもたびたび食糧危機があったが、主な原因は生産国での干ばつだった。供給不足から価格が高騰し、いくつかの国で社会不安、暴動が発生したことは記憶に新しい。

 今回は、感染拡大防止のため、都市封鎖などが起き、農場での仕事や食糧輸送がストップしている。たとえばコメ輸出量世界第一位のインドでは、人手不足と物流上の問題により、コメの輸出を停止した。

 食糧の供給が止まると、経済的な弱者ほど脆弱な立場に置かれる。

 とくにアフリカ諸国のように、多くの人が所得の半分以上を食料に費やしている国々にとっては、新型コロナそのものも恐怖だが、それにともなって起きる食糧難も大きな問題として続く。

 さらにアフリカ東部には「蝗害(こうがい)」という困難も重なっていた。バッタが大量に発生して農作物や牧草を食い荒らし、ケニアでは過去70年間、エチオピアやソマリアでは過去25年間で最悪の状況だ。この原因は、インド洋西部の海面温度が上昇する気候変動と考えられている。

 東アフリカでは2019年10月から12月までの降雨量が過去40年間で最多となった。サバクトビバッタにとって高温、大雨は繁殖に適した環境。そのために大量に発生したとみられている。

水と衛生の不備が感染を拡大させる

 次に水の問題。新型コロナの感染を食い止めるには、水と衛生が重要だ。先進国が新型コロナに苦しみながらも死亡率や感染者の増加が抑えられているのは、医療体制はもちろんだが、上下水道インフラが整備されているからである。

世界の人の水アクセス状況(いらすとやイラストを著者が構成)
世界の人の水アクセス状況(いらすとやイラストを著者が構成)

 反対に言えば、上下水道インフラの未整備な国や地域ほど、感染症の影響を大きく受け、長引く。上の図からわかるように、世界の3割の人は水道をもっていない。水源まで水をくみに行っている。

 こまめに手を洗うことが、新型コロナの感染を防ぐ最も重要な方法の1つだが、後発開発途上国(開発途上国のなかでも特に開発が遅れている国)では人口の約4分の3が、水と石けんを使うことのできる手洗い設備を使うことができない。

 水と衛生の専門NGOウォーターエイドによると、リベリアで99%、エチオピアで92%、マラウイで91%、ザンビアで86%の人が、水と石けんを使うことのできる手洗い設備施設をもたず感染拡大が懸念される。さらに後発開発途上国の保健医療施設では、その55%で基本的な水を利用できるような設備がない。

 こうした地域で家族にコロナ感染者が出ると家庭での水使用量が増え、人々(多くは女性)が水をくみに行く回数が増える。給水設備や水の販売所がクラスターになる危険もある。そして多くの人にとっては、高額な水を購入することで、すでに苦しい家計がさらに苦しくなる。

 ウォーターエイドは、人々がこまめに手洗いできるよう、市場、バス停など多くの人々が集まる場所に手洗い設備を設置している。

 また、手洗いの重要性、正しい手洗いの方法をポスター、動画などを使って普及啓発している。

動画【ウォーターエイド】感染症から身を守る正しい手洗い

気候変動が追い討ち

 だが、支援はまったく不足している。

 さらに食糧同様、気候変動の影響も受けるだろう。これまで使用していた水源が枯渇し、水くみの時間がより長くなる危険性があり、事態はより悪化する。

 国連のグテレス事務総長は、アフリカ諸国は新型ウイルス感染拡大に対応するために2000億ドルを超える資金が必要になると指摘している。

 食糧、水と衛生には気候変動が密接関係していることは上記の通りだ。

 グテレス事務総長が呼びかける資金に加え、世界各国が拠出している気候資金を、後発開発途上国が危機を脱するために使用するべきだろう。気候資金とは、1)温室効果ガスの排出を抑制する緩和策、2)気候変動による影響に備えるための適応策を実施するための資金である。こうした資金で後期開発途上国に水と衛生の施設を普及させるこで、コロナ感染を抑えるべきだ。

 理不尽なことに気候変動の原因(温室効果ガスの排出など)をつくっていない人たちが、気候変動の影響を大きく受け続ける。先進国に住む私たちは「加害者」という見方もでき、決して無縁ではないことを理解するべきだろう。

 そして、水と食糧という生きていくうえで基本的なものが、コロナ感染拡大と大きく関わっていることを理解すべきだし、サプライチェーンの崩壊、気候変動によって、私たちの水と食糧がどう変化するのか、どうしたら安定的に得ることができるのかを、中長期的に考えていくべきだろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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