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大型スーツケース置き場は要予約? 新幹線の新サービスをQ&Aで徹底解説(図追加あり)

梅原淳鉄道ジャーナリスト
N700系のグリーン車最後列の座席。座席の後ろが「特大荷物スペース」だ。筆者撮影

 東海道・山陽・九州の各新幹線を運行するJR東海・JR西日本・JR九州の3社(以下JR3社)は、2020年5月20日から新たに「特大荷物スペースつき座席」の提供を開始した。JR東海は特大荷物を「baggage 160」と称し、漫才師の中川家が登場するテレビCMで周知に努めている。とはいえ、提供開始が新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴う緊急事態宣言が出されていた時期と重なっていたため、気づかなかった人も多いだろう。宣言が解除され久方ぶりに新幹線を利用して初めて気づいたという向きが多数派ではないだろうか。

 そこで、この新サービス「特大荷物スペースつき座席」を理解しやすいよう、Q&A形式で紹介したい。なお、回答や解説にはJR3社の公表資料や筆者の取材結果に加え、筆者独自の考えも含まれている。

Q1  「特大荷物スペースつき座席」とは何ですか?

A1  「特大荷物」を携えた人が利用できる座席で、通常のきっぷを購入する際に併せて予約することで荷物置き場を確保できます。ほぼすべての列車の普通車指定席やグリーン車に設定されていて、追加料金は不要です。駅の窓口やインターネットで予約できます。

解説1

「特大荷物スペースつき座席」の設定は事前に予約できる普通車指定席やグリーン車に限られ、自由席には存在しないので注意しよう。予約せずに特大荷物を携えて乗車した場合、1000円の持込手数料を車内で支払う必要が生じる。さらに乗務員に指定された位置に荷物を置き、「特大荷物スペースつき座席」へと移動しなければならない。

 JR3社によると「特大荷物スペースつき座席」の数は限られているので、もしも事前に予約できなかったら、極力他の列車を利用してほしいとのことだ。特に、繁忙期には荷物を置くスペースが確保できるかどうかわからないから、「特大荷物スペースつき座席」の予約なしでの利用は避けたほうがよいだろう。

Q2  特大荷物とは何ですか?

A2  車内への持ち込みが認められている縦×横×高さの3辺の合計が250cm以内で1辺の長さが200cm以内、重さ30kg以内の身の回りの荷物のうち、3辺の合計が160cmを超えるものです。1人2個まで持ち込めます。

解説2

 JR3社が「特大荷物」として想定しているのは大型のスーツケースである。旅客機の国際線で預かりが有料になる手荷物と概ね同じサイズとのことだが、航空会社によって有料となるサイズが異なるので注意が必要だ。

 全日空の国際線は3辺の合計が158cmを超えれば有料としていて、160cm超の特大荷物とほぼ同水準だが、日本航空の国際線で有料になるのは3辺の合計が203cmを超える場合だ。このため、日本航空の国際線では有料にならないサイズであっても、新幹線では特大荷物スペースを確保しなければならないケースもあるので注意しよう。

 例えば3辺の合計173cm(縦36cm×横56cm×高さ81cm、容量134L)の大型スーツケースの場合、東海道・山陽・九州の各新幹線では「特大荷物」、日本航空では国際線、国内線とも無料で預けられ、全日空の国際線では有料、国内線では無料でそれぞれ預けられる。

Q3  「特大荷物スペースつき座席」「特大荷物スペース」はどこにありますか?

A3  「特大荷物スペースつき座席」は客室内最後列の座席です。その背後にある壁との間の空間が「特大荷物スペース」として用意されます。

解説3

 この座席の設定は普通車指定席、グリーン車に限られるため、何号車かは列車によってまちまちである。具体的には次のとおりだ。

・東海道新幹線単独または東海道・山陽の両新幹線を直通する列車

「のぞみ」 普通車4~7・12・13号車、グリーン車8~10号車(計9両)

「ひかり」 普通車6・7・12・13号車、グリーン車8~10号車(計7両)

「こだま」 普通車7・12号車、グリーン車8~10号車(計5両) ※一部列車に例外あり

・山陽新幹線単独または山陽・九州の両新幹線を直通する列車

「みずほ」「さくら」「ひかり」 普通車6・8号車、グリーン車6号車(計3両) ※「ひかり」の一部はグリーン車なし

「こだま」 普通車6号車、グリーン車6号車(計2両) ※「こだま」の一部はグリーン車なし

・九州新幹線単独の列車

「さくら」「つばめ」(8両編成) 普通車6・8号車、グリーン車6号車(計3両)

「さくら」「つばめ」(6両編成) 普通車6号車(グリーン車なし)

 上記で普通車、グリーン車とも「6号車」とあるのは、車両が壁で仕切られ半分が普通車、もう半分がグリーン車という車両が用いられているからだ。

 なお、東海道・山陽の両新幹線の「こだま」や九州新幹線の「つばめ」のそれぞれ一部には全車両自由席という列車が運転されている。この場合、特大荷物の持ち込みルールはまちまちだ。

 東海道新幹線の「こだま」ではグリーン車を利用するようJR東海は勧めている。グリーン車に「特大荷物スペースつき座席」が設定されていない列車の場合、特大荷物の持ち込みも可能だが、通勤通学客で混雑しているケースが多いので遠慮したほうがよいだろう。

 いっぽう、山陽新幹線の「こだま」、それから「つばめ」には、グリーン車を含めて「特大荷物スペースつき座席」は設定されていない。JR西日本、JR九州の両社によると、いずれも特大荷物の持ち込みは可能で、持込手数料を支払う必要もないという。

Q4  スポーツ用の自転車を分解して専用の袋に入れて乗車したいと思います。3辺の合計が160cmを超えていますが、特大荷物となるのでしょうか?

A4  3辺の合計が160cmを超えていても、自転車やサーフボードなどのスポーツ用品、楽器や娯楽用品、車いすやベビーカーは特大荷物とはなりません。ただし、これらの荷物を置くために「特大荷物スペースつき座席」を予約して利用することはできます。

解説4

 自転車の大きさを考えると、現実的には「特大荷物スペース」以外に置ける場所は存在しないと言えるであろう。ほかのスポーツ用品や楽器、娯楽用品でも特大荷物に相当するサイズの荷物を携えている場合、「特大荷物スペースつき座席」を利用したほうがよいと考える。

 JR3社によると、荷物棚は奥行が約42cmあり、3辺の合計が160cm程度の荷物ならば収納できるという。比較的コンパクトにまとめられるベビーカーは荷物棚に問題なく載せられそうなので、特大荷物スペースを利用しなくてもよいだろう。車いすの場合、車いす対応座席が用意されていて車いすも収納できるので問題ない。ちなみに、車いすを利用する人が車いすのほかに特大荷物を持ち込むことも当然可能で、予約の際にその旨を言えばよいのだという。

Q5  特大荷物スペースはどのくらいの広さですか?

A5  東海道・山陽・九州新幹線で最も多い車両N700系の場合、普通車は2人がけ席の後ろは幅約55cm×奥行約100cm×高さ約180cm(荷物棚の下は約150cm)、3人がけ席の後ろでは奥行が約150cmに増え、幅・高さは2人がけと同じです。グリーン車は幅約35cm×奥行約125cm×高さ約180cm(同約150cm)。普通車、グリーン車とも荷物棚は壁から42cmほど突き出しているので、窓側にはあまり背の高い荷物を置くことはできません。 ※寸法はすべて筆者の実測値と図面とを参考に求めています

原案:梅原淳 画像制作:Yahoo! JAPAN
原案:梅原淳 画像制作:Yahoo! JAPAN

解説5

 N700系以外の車両の特大荷物スペースは、基本的にはN700系と変わらないかやや小さくなる程度だ。

 先ほど例に出した大型スーツケース(縦36×横56×高さ81cm、容量134L)がどのように置けるか検証してみよう。

 普通車では2人がけ席の後ろには1個、3人がけ席の後ろには2個置ける。グリーン車は腰掛後方に後列の旅客用に足置きが設けられている関係で、幅が普通車と比べてやや短い。数値上は1cm不足しているのでこのスーツケースを置けないが、図面上の誤差と見なして収納できたと考えると、2個置くことができる。

 仮にすべての特大荷物が先ほど挙げた大型スーツケースだとすると、普通車の特大荷物スペースには2人がけ席の後ろ、3人がけ席の後ろとも、座席数と同じだけの個数を置くことはできない。特大荷物は旅客1人当たり2個まで持ち込めるというので、列車によっては「特大荷物スペース」不足が生じる可能性がある。長距離移動を控えるべき状況下ではそこまで大きな荷物を車内に持ち込む人は少ないと見られるが、いずれは増えるのであろうから、いまのうちに対策を立てておいてほしいものだ。

Q6  東北・上越・北陸・北海道・山形・秋田の各新幹線には「特大荷物スペースつき座席」はありますか?

A6  現時点ではありません。東海道・山陽・九州の各新幹線と同様、3辺の合計が250cm以内で1辺の長さが200cmを超えず、重さ30kg以内の身の回りの荷物は旅客1人につき2個まで無料で持ち込めます。

解説6

 新幹線は東京駅を境に2つの勢力に分かれている。東海道・山陽・九州の系列と、東北・上越・北陸・北海道・山形・秋田の系列だ。「特大荷物スペースつき座席」は前者だけで始められ、後者では行われていない。わかりづらいが、そういうものだと理解するほかない。

 なお、東北・上越・北陸・北海道・山形・秋田の各新幹線の列車の大多数にも、特大荷物に相当する大きな荷物を置くスペースがデッキ付近または客室内に用意された。東北・北海道の各新幹線の「はやぶさ」や秋田新幹線の「こまち」、北陸新幹線の各列車では一部の車両に客室の仕切壁寄りにパイプ式の二段の棚を備えた荷物置き場がある。「はやぶさ」の車両であるE5系やH5系の荷物置き場を筆者が測ってみたところ、幅は約120cm、奥行は約100cm、上段・下段それぞれの高さはともに約60cmといったところだ。

 E5系やH5系の荷物置き場に例によって大型スーツケース(縦36cm×横56cm×高さ81cm、容量134L)を置いてみよう。横倒しにすると上段・下段とも3個ずつ、合わせて6個置ける。

Q7  座席後ろの特大荷物スペースに荷物を置くと、背もたれを倒せないなど何かと不便です。本格的な場所に荷物を置きたいのですが……。

A7  東海道新幹線、それから山陽新幹線で東海道新幹線に直通する列車には2023(令和5)年4月以降に本格的な荷物置き場として「特大荷物コーナー」が一部の車両に新設される予定です。場所はデッキ付近で、現在2カ所設けられている洗面所のうち1カ所分のスペースが転用されます。

画像

特大荷物コーナーのイメージ。写真は営業には用いられないN700Sの確認試験車のもので、設置場所や寸法が変わるものの、基本的なつくりは同じとなる。筆者撮影

解説7

 特大荷物コーナーの詳細はまだ発表されていないが、寸法はある程度察しが付く。奇数号車に設けられている洗面所は普通車では1カ所当たり幅約71cm×奥行約120cm×高さ約200cmである。客室から離れているのでセキュリティーが心配という声にこたえ、交通系ICカードを活用したロックシステムが導入されるという。

 仮に特大荷物スペースが上下二段式となると考え、例によって大型スーツケース(縦36cm×横56cm×高さ81cm、容量134L)を置こうとすると、上段、下段とも2個ずつ、合わせて4個を横倒しにせずに収納できそうだ。高さには余裕があるので、上中下の三段とすれば6個置けるようになるのだが、上段に荷物を出し入れするのは背の高い人でも難儀するであろう。結局は使いやすい二段式となると思われる。

 特大荷物コーナーの開始が2023年度と少々先となった理由は、これから車両の改造工事に取りかかるからだ。そのいっぽうで2020年7月から東海道・山陽の両新幹線で営業を開始するN700Sには当初から特大荷物コーナーが設置されるという。当面の間、旅客は予約できないが、事前予約せず車内で持込手数料を支払った旅客の特大荷物を置く場所として使用されるかもしれない。

 先ほど例に挙げた「はやぶさ」や「こまち」、北陸新幹線の各列車も、車両が製造された当初は荷物置き場を設けていなかった。インバウンド旅客の増加に伴って2017(平成29)年7月から座席を撤去して荷物置き場を設ける改造工事を行い、2018(平成30)年2月までにすべての列車に出そろったという経緯をもつ。

 東海道・山陽の両新幹線用の車両も、座席を取り外せばより早く、より簡便に特大荷物スペースを生み出せるのだが、洗面所の撤去というあえて手間のかかる方法を採用したのには理由がある。利用者が多いため、座席を取り外せば混雑がますます激しくなってしまうからだ。

まとめ

「特大荷物スペースつき座席」はインバウンドの旅客を対象にしたサービスだと言える。しかし、新型コロナウイルス感染症の蔓延という予期せぬ出来事が発生し、波乱のスタートとなった。今後の動向は不明で、インバウンド旅客の数もかつてほどの盛況となる日が訪れるのかどうかもわからない。ともあれ、「特大荷物スペースつき座席」の利用状況は、新型コロナウイルス感染症の及ぼした影響から世界がどの程度立ち直っているかを知る指標の一つとなりそうだ。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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