オールナイトニッポンに空港貸切に。コロナ禍を超えて拡がるオンライン演劇の今。
音楽もスポーツも、落語や舞台まで、コロナ禍の影響で、もはや様々なエンタメコンテンツをオンラインで楽しむのは普通の時代になりました。
一方で、長引くコロナ禍の過程で徐々にイベントの開催制限も緩和されており、リアルのスタジアムや劇場でエンタメを再び楽しむようになっている人も増えているようです。
そんな中、オンライン演劇が興味深い進化を見せているのをご存じでしょうか。
ラジオの社屋を演劇の舞台に
なんといっても、今週話題になったオンライン演劇が、「あの夜を覚えてる」です。
この公演はオールナイトニッポン55周年記念公演として実施されたもので、なんとニッポン放送の社屋を演者とカメラが縦横無尽に動き回り、生放送で演技が展開されるオンライン演劇でした。
総合演出を元テレビ東京のプロデューサー佐久間宣行さんが担当。
ダブル主演に千葉雄大さん、髙橋ひかるさんという豪華メンバーで、オールナイトニッポンの放送の裏側を模したストーリーが展開されるというラジオ局ならではの企画。
チケット販売枚数は累計で1万6000枚を超え、千秋楽の夜にはツイート数がツイッターのトレンドの4位に入るほどの話題になっていました。
オンライン演劇の定義を拡げ続けるノーミーツ
特に業界の方から注目されるポイントは、その製作をノーミーツが実施している点でしょう。
ノーミーツといえば、2年前の最初の緊急事態宣言下において生まれたオンライン劇団。
当時は結成したばかりで無名だったにもかかわらず、初の長編公演「門外不出モラトリアム」に5000名を動員するなど、次々にオンライン演劇ならではの作品を生み出して、業界で大きな話題になりました。
参考:劇団ノーミーツの「むこうのくに」に学ぶ、リモートエンタメがNetflixに勝つ方法
その後、ノーミーツは法人化され「まだ出会ったことのない、新しい物語を生み出すストーリーレーベル」というキャッチコピーで新しい取り組みに挑戦しているのです。
当初のノーミーツが展開していたオンライン演劇は、いわゆる「Zoom演劇」と呼ばれるビデオ会議を前提としたオンライン演劇でしたが、昨年2月には閉園後のサンリオピューロランドを借り切ってリアルな場所を活用した新しいオンライン演劇を展開。
その際に「ビバラバ」がツイッタートレンドのトップ6入りしていたのも印象的でした。
参考:トレンド入りした「ビバラバ」に学ぶ、三密を回避した新しいテーマパークの可能性
ラジオならではのオンライン演劇「あの夜を覚えてる」
今回の「あの夜を覚えてる」も、実際のニッポン放送の社屋という場所をジャックしてのオンライン演劇という意味では、「ビバラバ」がさらに進化した形になります。
役者の方々の演技の素晴らしさはもちろんなのですが、生放送というのを知らないと、収録にしか思えないレベルのカメラワークや場面転換の連続に、多くの人が見ながら衝撃を受けているのが非常に印象的でした。
特に今回の「あの夜を覚えてる」は、演劇中のオールナイトニッポンでリスナーのメールを受け付けて、実際に演劇中に読み上げたり、劇中の流れで実際にツイッターにツイートがされたりと、「生放送」のラジオを日々実践しているニッポン放送ならではのこだわりが満載だったのも印象的。
リスナーと一緒に番組を作るラジオと同じく、視聴者と一緒に劇を作るオンライン演劇の構成になっており、「あの夜を覚えてる」の公演が終了した後も、しばらく配信のチャット欄に感謝のコメントが流れ続けているのが非常に印象的でした。
次の舞台は空港貸切へ
さらにノーミーツの舞台は、ニッポン放送社屋に留まらない模様。
来月には、空港を貸し切りにしてもらってオンライン演劇も予定されているのです。
「夢路空港」と名付けられたこちらのオンライン演劇は、ジャルジャルの後藤淳平さんと福徳秀介さんを主役に、ヒロイン役が前田敦子さんなど、こちらも豪華な出演陣。
公演制作の過程を密着ドキュメントとして、YouTubeチャンネル「ジャルジャルアイランド」で公開していく形になっているようです。
参考:乃木坂46清宮レイ、前田敦子と共演 生配信コメディ演劇「夢路空港」出演者決定
この「夢路空港」がなんといっても衝撃的なのは、JAL特別協力のもと、石川県の「小松空港」を貸し切りにしてもらって、生配信で実施されるという点でしょう。
当然、空港は昼間は通常業務がありますから、深夜24時から開始というオンライン演劇ならではの時間帯になっています。
ニッポン放送の社屋を使った演劇にしても、空港を活用した演劇にしても、当然ながら劇場を活用したリアルの演劇では実現できない演劇になります。
そこで、生で実施する演劇だからこそできる一体感というのが、オンライン演劇ならではの価値なのかもしれません。
オンライン演劇は、生でしか見ることができませんので、見逃してしまうと二度と見られないのも演劇ならではの特徴と言えます。
今後コロナ禍がどのようになっていくのかは全く分かりませんが、コロナ禍に芽吹いたオンライン演劇が、一つのエンタメコンテンツの形としてこれからも新しい歴史を紡いでいくのは間違いなさそうです。