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日ハム球場の新駅は安く2年で作れる 専門家が目からウロコの新提言

鉄道乗蔵鉄道ライター

 JR北海道が公表したエスコンフィールド北海道新駅(通称ボールパーク新駅)の開業は着手から7年後。開幕戦と同時に、新球場への交通アクセス問題が表面化しているが、交通コンサルタントの阿部等氏は、工費が想定の6分の1、たったの2年で完成できる新駅構想を持ち、関係者への提案活動を重ねている。

開幕戦と同時に交通アクセス問題が表面化

開幕戦直後、シャトルバスに長蛇の列をなす観客(写真:阿部等)
開幕戦直後、シャトルバスに長蛇の列をなす観客(写真:阿部等)

 2023年3月、プロ野球・北海道日本ハムファイターズの新本拠地として、北広島市にドーム球場「エスコンフィールド北海道」が開業した。30日の開幕戦には3万1千人の観客が来場したが、北広島駅へ向かうシャトルバスには長蛇の列で大混雑。バスを待つより駅までの約2kmを歩いたほうが早い状態となり、駅では入場制限もかけられた。さらに、駐車場も激しく混雑し、駐車場から出るだけで1時間もかかるなど周辺では交通渋滞も発生した。新庄剛志監督も、観客は「今のままなら7、8回で席と立つ」ことになると発言し、多くの人が試合途中で帰宅せざるを得なくなるなど球場への交通アクセス問題が表面化している。

JR北海道では新駅を計画も工費と工期がネックに

 新球場、エスコンフィールド北海道には、JR千歳線の線路が隣接していることから、新球場に直結する北海道ボールパーク新駅の設置も当初より計画されてきた。JR北海道は2019年12月に具体的な新駅計画を発表。曲線区間を含む長さ500m以上の用地に、島式ホームと特急列車や貨物列車の通過線、列車の折返しを行うための引上げ線を作り、ホームと駅舎を跨線橋で結ぶ大掛かりな設備とするものだ。

 JR北海道の計画によると、新駅の総工費は80~90億円。工期は7年必要で開業は2028年とされた。この新駅は北広島市からJR北海道に対して要望された請願駅ということで、新駅の設置費用はその全額が自治体負担となる。

 JR北海道は2023年2月になり、北広島市に対して、人件費や資材価格の高騰などを理由に、新駅の総工費が当初想定から約4割増しの「最大で125億円になる」と伝えた。これに対して北広島市は「その工費での合意は難しい」とし、上野正三市長は2月市議会で「JRへ工費削減、工期短縮を求める」と答弁する事態となった。

 こうした北広島市の要請を受けてか、3月になりJR北海道の綿貫泰之社長は、記者会見の場で新駅について「今の場所で設計見直しをしても大きなコスト削減にはならない」「工費圧縮に向け場所をずらすことを含め再設計」と表明することになる。

コンサルタントは工費6分の1、工期2年のプランを提案

新駅計画の概要(資料:財界さっぽろ)
新駅計画の概要(資料:財界さっぽろ)

 常識的に考えれば、新球場の開幕に合わせて新駅も開業という流れになりそうだが、そうはならずに、JR北海道が新駅を計画する予定地には広大な空き地が広がっており、試合を観戦する観客からは「もっと早く新駅の開業が出来ないのか」という声も漏れ聞こえる。

 こうした声に対して、工夫次第では「工費を6分の1の20億円に、工期を2年に圧縮することができる」と話すのは、交通コンサルタントの阿部等氏だ。阿部氏は、東京大学大学院を修了後の1988年、国鉄分割民営化直後のJR東日本に第1期生として入社。保線部門を中心に鉄道の実務と研究開発の経験を重ねた後、2005年に交通コンサルタント会社の株式会社ライトレールを創業した。

 阿部氏は「北広島駅の隣にある島松駅で列車を折返せば大がかりな設備が不要になり、ボールパーク新駅の設備は、上下線のホーム2面のみに簡素化できる」と力説する。ボールパーク新駅行の列車は、新駅到着後に島松駅まで2駅間を回送することにはなるが、島松駅には貨物列車が退避できる400mの長さの待避線があり、信号システムを改修すれば6両編成の電車を3編成留置できという。さらに島松駅ではかつての貨物駅スペースが遊休地になっており、この空きスペースを活用すれば新たな用地買収を必要とせず、電車の留置線や乗務員詰所を新設することができ、低コストで列車本数の増発を行うことが可能になるという。

JR北海道の新駅計画とは何が違うのか

JRが計画する新駅用地は広大な更地となっている(筆者撮影)
JRが計画する新駅用地は広大な更地となっている(筆者撮影)

 JR北海道の計画(図1)は、線路の間にホームを設置する計画であることから乗降客の分離が難しく、1つのホーム上に札幌方面と北広島・新千歳空港方面に向かう双方の乗車客、下車客のそれぞれが混在することになる。さらにホームと改札口のある駅舎との間は跨線橋で結ばれるが、跨線橋は1つしかない。こうしたことから動線の分離を行うことは難しくホーム上、跨線橋上での大混雑は必至だ。

阿部氏が提案する新駅用地では既存設備の活用で迅速な駅建設が可能(筆者撮影)
阿部氏が提案する新駅用地では既存設備の活用で迅速な駅建設が可能(筆者撮影)

 これに対して阿部氏の計画(図2)は、JR北海道案より北広島駅寄りの直線区間の上下線にそれぞれホームを建設して動線を分離。帰りの客が殺到するであろう札幌方面のホームは球場側から直接入場が出来る構造として、ホームの幅も広く取り混雑緩和に貢献。すでにある線路の下をくぐる歩行者用の横断道路を活用することで跨線橋の建設も不要とし、工費と工期を大幅に短縮しようとするものだ。

すでに関係者に提案活動を実施

 阿部氏は「この提案は決してJR北海道への批判ではなく、実務者の皆様と知恵を絞ってボールパークのアクセスを早急に改善し、JR北海道にも増収をもたらしたいのだ」と強調。2021年から定期的に北海道を訪れ、関係者にボールパーク新駅の改善提案を積み重ねてきた。4月15日発売の地元経済紙『財界さっぽろ』では特集記事も組まれることとなり、24日には19時より札幌市内で講演会も実施する。

 エスコンフィールド北海道の来場者が、安心して野球観戦を楽しめるよう一刻も早い新駅建設による交通アクセス改善が実現されることを望みたい。

▼より詳細な提案内容は『財界さっぽろ』2023年5月号に掲載されている。
・交通コンサルタント・阿部等が考察、北広島・ボールパーク新駅、工費20億円、2025年に完成!現駅アクセスも改善できる!!(外部リンク)
https://zaisatsu.jp/news/article-30113/
・月刊財界さっぽろ2023年5月号(外部リンク)
https://www.zaikaisapporo.co.jp/publication/detail.php?id=15688

▼阿部氏が札幌市で講演。
日時:2023年4月24日  開会:19時00分~20時45分 (開場:18時30分)
会場:札幌エルプラザ 北海道札幌市北区北8条西3丁目28 TEL 011-728-1222
URL:https://www.seikei-club.jp/infomation/?id=411(外部リンク)

講演:政経倶楽部【札幌支部】第6回例会
演題:北海道の鉄道を活かそう!
講師:阿部 等 氏 株式会社ライトレール 代表取締役社長

会費:会員:2,000円 ビジター:3,000円 学生:無料 ※Zoomご視聴:3,000円(事前チケット購入制 ※会員様専用クーポン有)

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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