貨物列車脱線事故のJR北海道、5年で「自己都合退職者」約1000人 背景には社員の低待遇が影響か
2024年11月16日にJR北海道の森―石倉間で発生した貨物列車の脱線事故。JR北海道が11月18日に開いた記者会見では、脱線事故の原因についてレールの腹部に著しい腐食があったことが脱線の一因の可能性であるという見解を示した。事故現場となった鷲ノ木道路踏切では9月12日に超音波検査を実施したところ異常が検知されていたものの、目視により線路頭部の確認しか行われず、踏切の敷板を外してレール腹部の確認までは行っていなかったことから、レールの腐食を発見することができなかった。JR北海道の内規でも確認は求めていなかった。こうした状況に対して、「検査体制の不備がある」ことや「内規があいまいで作業員が未熟だった可能性がある」という有識者からの厳しい指摘も報道されていた。
有識者が指摘する「作業員が未熟だった可能性」の背景のひとつの要素としてあるのは、止まらない大量の離職者だ。JR北海道が11月13日に発表した2024年第2四半期の報告書では4月から9月の自己都合退職者が89名になると公表されていた。この数字は昨年度の同時期と比較して2名減少しているものの、昨年2023年度の自己都合退職者は236名で初めて200名を超える退職者を出している。ここ数年、JR北海道では例年200名近い自己都合退職者を出し続けており、その人数はこの5年間で約1000名にのぼる。JR北海道では、2024年10月入社の社会人採用と2025年4月の新卒・社会人採用で250名を確保するというが、採用した人数とほぼ同数の人数が自己都合退職していくという現実だ。
JR北海道の離職者が止まらない理由の一つには、給料の低さがあるようだ。転職サイトに書き込まれたJR北海道の退職理由を見ると「独身だと結婚する気が起きないほど給料が低く、仕事に対するモチベーションが湧かない」といったものや、「30代から40代の働き盛りのベテランが少ないので技術継承が難しく、仕事を覚えるには根気がいる」、さらに「国鉄時代の悪しき風土が抜けきれておらず、社内の雰囲気がよくない」といった趣旨の書き込みも見受けられた。
JR北海道は、2011年5月に石勝線列車脱線火災事故が発生し、9月には中島尚俊社長が自殺。2013年9月に発生した函館本線大沼駅構内の貨物列車脱線事故では、脱線現場の線路の検査データが改ざんされていたことが発覚し、翌2014年1月に坂本眞一元社長が自殺した。その後、国土交通省からJR北海道に対して事業改善命令が出されることなどがきっかけとなり、経営改革の一環として社員の給料カットにも手が付けられることとなった。こうしたJR北海道の相次ぐ不祥事の一因は組織の問題によるところもあるが、根本的な要因は圧倒的な資金不足にあり、その原因を作った本質は国の運輸政策の失敗にあることは、筆者の記事(JR北海道が経営不振に陥った根本原因は何か 発足当初の適正赤字額は年間500億円とされていた)で詳しく解説している。
こうしたことから、JR北海道は国の運輸政策の失敗によって、本来は経営安定基金の運用益として得られるべき金額の補填を国に対して求めていくことが、経営幹部の役割だったはずであるが、そうではなく社員の給料カットを押し進め大量の離職者を招いている現状は、完全なる経営の失敗でもある。今からでも遅くない。北海道の鉄道の維持については、上下分離を前提として、鉄路の維持管理については国の施策として北海道開発予算や道路財源の活用も視野に入れ、安定的な鉄道輸送を実現するための新たなスキームを構築するべきではないのか。
(了)