「立ち飲み不毛」なんていわせない! 名古屋・栄の地下街初の角打ちが大人気
飲み屋がほとんどなかった栄の地下街にオープンし話題に
かつては“立ち飲み不毛の地”とも呼ばれた名古屋。近年は魅力的な新鋭店が台頭し、立ち飲み店が少しずつ市民権を得るようになってきました(関連記事:「『立ち飲み不毛』を返上。名古屋で個性派立ち飲み屋や横丁が登場してブームに」(2019年11月30日))。
そんな中、このシーンをますます熱くする新店舗が登場。2022年10月7日にオープンしたばかりの「酒ゃおおたけ」(名古屋市中区)です。
この店の新しさは、名古屋では数少ない角打ち(酒販店が店内の一角で酒を提供するスタイル)で、さらに何といっても立地。名古屋の中心部・栄(さかえ)エリアの地下街、セントラルパークの一角にあるのです。
酒飲みが少ない名古屋。喫茶店文化も立ち飲み普及を阻む(?)
地下街が発達しているといわれる名古屋ですが、2大地下エリアの名古屋駅と栄には、いわゆる“飲み屋”がほとんどありません。飲食店はカフェ・喫茶店が最も多く、名古屋めしをはじめとする和食店がこれに続きます。
名古屋人はそもそもお酒をあまり飲まない、というデータも。「酒飲みが多い都道府県ランキング」で愛知県(県庁所在地=名古屋市)は何と男性が最下位の47位! 女性も39位と下位クラス(一般社団法人ストレスオフ・アライアンス調べ。2019年。週4日以上飲酒習慣のある人=酒飲みの割合で算出)。酒飲みが少なければ当然飲み屋も少なく、ましてツウ向けの立ち飲みは極めてニッチな市場であるといえます。
地下街は歩行者の往来が多いため、名古屋ではマイノリティーにあたる左党は肩身が狭くなりがちで、立ち飲みする場になりにくかったのではないかと考えられます(2016年頃から飲み屋ストリートに変貌して成功した伏見地下街は民営の地下街で、それまで人通りが少なかったため、酒飲みスポットにリニューアルしやすかったのでしょう)。
また筆者は名古屋の喫茶店文化が、立ち飲みの浸透を阻んできたと推察しています。名古屋は全飲食店中喫茶店が3割以上を占める喫茶店王国。待ち合わせやちょっとした時間つぶしには喫茶店に入るという習慣が浸透しています。コーヒー代400円程度でゆったり座って新聞や雑誌も読める。この過ごし方に慣れ親しんでいる名古屋人は、一杯分の料金が同じくらいで座ることもできない立ち飲みにはなかなか足が向かなかったのではないでしょうか。
コロナで売上5割減。逆境をばねにチャレンジ!
そんな土地柄による大きなハンディがありながら、地下街で立ち飲みを始めた「酒ゃおおたけ」。なぜこのスタイルにあえてチャレンジしたのでしょうか?
「コロナ禍で売上が従来の半分程度にまで落ち込んだんです。元に戻ることはないだろうから、これまでになかったやり方で勝負しよう! と思ったんです」
こう語るのは店主の大竹寛さん。本店にあたる「リカーショップオオタケ」(名古屋市千種区)は1938(昭和13)年創業の酒販店。居酒屋などが卸先の業務用販売が主だったため、コロナショックで甚大な打撃を受けました。
「厳しい時期が続いた反面いろんな方が心配してくれて、ここでやらないかと声をかけていただきました。でも、一等地である栄の地下で商売をするのは勇気がいる。地元の東海3県の地酒だけにしぼって、顔が見える接客でおいしさを伝えれば売れるんじゃないかと思い、角打ちのスペースを設けることにしました」(大竹さん)
立ち飲みでは販売スペースで扱う銘柄を毎日20種以上開封して一杯330円~で提供。東海3県の食材を活かしたおつまみも10種以上用意しています。
地下街の安心感で女性も立ち寄りやすく
本店では角打ちはやっておらず、飲食をともなう営業は初めて。ましてや場所は、立ち飲みはおろか居酒屋業態もなかったセントラルパーク。不安を抱きながらのスタートでしたが、ふたを開けてみると立ち飲みカウンターは連日大盛況。入り切れないお客の順番待ちができるほどのスタートダッシュとなっています。
「特に通りすがりの女性のお客さんがたくさん立ち寄ってくれることに驚いています。カウンターが全員女性で埋まることも珍しくありません」と大竹さん。
お客からも、地下街という立地に魅力を感じるという意見が多く聞かれました。
「地下街でお酒を飲むところがなかったのでうれしい。地下鉄の改札がすぐ近くなので一本買って帰るのにも便利ですね」(20代女性)。「これまでは“立ち飲み行こうよ”と女友だちを誘っても断られてばかり。でもセントラルパークなら安心感があって誘いやすくなりそうです」(20代女性)。「今日で3回目。いつもは仕事帰りに1人で来るんですが、休日なので主人と一緒に来ました。軽く1杯だけ、と気軽に立ち寄れるのがいいですね」(40代女性)。
地酒に特化したセレクトがポストコロナの時代にマッチ
もちろん立地の物珍しさだけでなく、地酒に特化した商品構成も奏功しています。コロナ禍以降、SDGsやマイクロツーリズムに対する関心が高まり、小規模でも身近なよいものを大切にしようという気運が台頭。東海地方にはまさに小さいながらも個性的で丁寧に酒づくりに取り組む酒蔵が多く、今どきの消費者に対する訴求力が高いのです。
「酒ゃおおたけ」は本店でも地酒に力を入れていたことから生産者の信頼が厚く、各蔵元が通常は流通していない限定品などを『SAKE YA OTAKE』のオリジナルラベルで用意。さらに週末ごとに店主や杜氏が来店する店頭試飲会も開催。地酒に対する興味を深め、さらに各蔵元のファンが足を運ぶこともにぎわいの呼び水になっています。
「日本酒イベントとは客層が違って、熱心な日本酒ファン以外の人もふらっと寄ってくれる。女性が多いし世代も幅広く、日本酒の新しいファンをつかむきっかけになりそうです」とは取材当日、店頭試飲会を開いていた蔵元「伊東」(愛知県半田市)の伊東優さん。
名古屋になかったシーンを創出。立ち飲み新時代到来のきっかけに
「名古屋にこんなに日本酒のファンがいるんだ! と驚きました」という大竹さん。女性や若者が立ち飲みのカウンターにズラリと並ぶ。そんな店主もびっくりの光景が話題性を高め、行き交う人たちの関心を呼び起こし、さらなるにぎわいにもつながる。オープンから半月ほどですが、今のところそんな好循環が生まれているようです。
これを機に立ち飲みの楽しさが広まり、名古屋のあちこちに心地よく酔える立ち飲み屋がより増えていくことを期待しましょう!
(写真撮影/すべて筆者)