無実なのに火あぶりの刑?こも焼きに巻き込まれる益虫たち#啓蟄
蠢(うごめ)くという字は、春に虫虫と書く。冬ごもりしていた虫たちが、蠢きだすと言われる季節が啓蟄(けいちつ)。今年の啓蟄は3月5日だ。
そんな虫たちを、啓蟄前に焼き殺す行事がある。それは「こも焼き」。もちろん、焼き殺されるのは恐ろしい毒虫のマツカレハの幼虫など害虫のはずなのだが、こもの中に入っている虫の多くは、益虫や無害な虫たちだ。
こも(わらなどで編んだむしろ)は、11月の立冬の頃に、松の木などに巻かれる。これを「こも巻き」と呼ぶ。この「こも」は、越冬する虫たちにとって、暖かい隠れ家のように思えるだろう。しかし、この防寒施設は、多くの虫たちが目覚める前に、虫もろとも焼かれてしまうのだ。アーメン。
「こも」の中に一番多いと言われるのは、マツカレハの天敵である肉食カメムシ「ヤニサシガメ」の幼虫だ。それ以外に、アブラムシやカイガラムシを食べてくれるテントウ虫の仲間、害虫駆除に役立つクモなども、「こも」の中に隠れていることがよくある。
こも巻き、こも焼きは日本の伝統行事で、立冬、啓蟄の季節の風物詩でもあるので、文化的観点からは継続が望まれる。しかし、虫好きの意見を代弁する昆虫記者としては、「こも」を外す際に、益虫の一部を救出してほしいなどと思ってしまう(すごく面倒な作業だとは思いますが)。
「こも」の中で越冬しているヤニサシガメやテントウ虫たちには、啓蟄に向けて無実の罪、えん罪で火あぶりになる前に「起きろ!逃げろ!」と忠告したくなる。
(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)