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欧州より30年遅れか。「ポケットをとる」がTV解説者の間でいまごろ流行語になるニッポンの問題

杉山茂樹スポーツライター
(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

 サッカーを特に現場のスタジアムで観戦していて、ワクワク楽しみになる瞬間はどこか。

 「マイナスの折り返しが決まった瞬間だ」と述べたのはヨハン・クライフだ。折り返す距離がゴールに近ければ近いほど、シューターはボールとマーカーとGKの3つを同時に視界に捉えることができる。その難易度は下がる。まさに決定的チャンスになる。ゴールを逆算した時、このルートこそがいちばんの近道になる。逆にディフェンダーはシューターとボールと同時に見る視野が保てないーーと、こちらのインタビューに答えたのは、ちょうど30年前のことになる。

 初耳ではなかった。ダイアモンドサッカーで解説の岡野俊一郎さんだったと思うが、似たようなことを言っていた記憶があったので特別、吃驚仰天したわけではない。だがマイナスの折り返しについてこだわる人はクライフだけではなかった。クライフサッカーの信奉者、つまり攻撃的サッカーの信奉者と言われる人たちで、クライフの母国はオランダながら、スペインに目立って多く存在した。クライフがその時、バルセロナの監督を務めていた影響も大きかった。

 1997-98シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)で、レアル・マドリードがユベントスを倒すと、攻撃的サッカーの勢いは欧州全土にみるみる広がっていった。ところが、その流れは日本になかなか伝播しなかった。日本のサッカー界はその頃、ほぼ鎖国状態にあったのだ。代表監督で言えば加茂、岡田、トルシエ、ジーコの時代である。当時、日本と欧州を頻繁に往復していた筆者は、その事実を強く実感していた。こう言っては何だが、誰よりも歯がゆく感じていた。

 欧州に遅れること約10年。筆者はそう見ていたが、先日、見ていたサッカー中継で実況アナが発した次の一言を耳にして愕然とした。「最近のサッカーではここからの折り返しが得点に繋がりやすいと言われています」。マイナスの折り返しについての話である。その前に傍らの解説者が「ポケットをとる」なる言い回しをしたので、それをわかりやすく伝えようとしたからだが、「最近のサッカー」にはさすがに参った。

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スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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