HPVワクチン 有効性、安全性に高いレベルのエビデンス。 米国では男の子にも接種を推奨
HPVワクチンって?
子宮頸がん予防のワクチンとして知られるHPVワクチン。HPV(*1)とは実際には150種以上もあるヒトパピローマウィルス群のことで、うち13種類以上に発がん性があることがわかっている。性的接触で皮膚や粘膜が直接触れ合うことで感染が広がるため、性交渉経験者の8割から9割は1種類以上のHPVに感染すると米国疾病予防管理センター(CDC)は推計している。
HPV感染といっても、多くの場合は何の症状もないまま、免疫により1-2年で消滅するので、自覚がない人がほとんどだ。しかし何らかの理由でHPV16型、18型など高リスク型の感染が長期間続くと、異常な細胞(前がん病変)を発生させ、それが子宮頸がんをはじめとするいくつかのがんを引き起こす要因となる。
実際、子宮頸がんのほとんどがHPV関連で、特に16型と18型が原因の7割を占める。米国では2006年にはじめて食品医薬品局(FDA)が、このHPV16型、18型を含む4つの型を標的とするワクチンである4価ガーダシルを、9歳から26歳までの女性を対象に子宮頸がん、外陰がん、膣がんの予防として承認した。
性交渉でHPVに感染する前にワクチン接種を受けることが有効なため、米国のCDCでは、11歳か12歳でHPVワクチンの定期接種を受けることを推奨している。
有効性、安全性の評価
世界保健機構(WHO)によれば2016年までに、65カ国でHPVワクチンが導入されている。米国のFDAをはじめ、ワクチンの使用を承認するにあたっては、多くの国で臨床試験を行い、その有効性、安全性を確かめている。
薬剤の有効性や安全性の証明には、様々な段階のエビデンス(根拠)がある。専門家の意見、症例などもエビデンスにはなるが、普遍的なものとは言い難い。ランダム化比較試験と呼ばれる検証方法なら、ランダム(無作為)に分けた二つのグループで、評価しようとしている薬を使わなかった場合と、使った場合の効果や安全性を比べて検証できるので、信頼度が高い。
そのランダム化比較試験よりもさらに上で、エビデンスレベルが最も高いと言われるのが、システマティック・レビューと呼ばれるものだ。過去に行われたランダム化比較試験を収集して系統的に調べ、評価、分析する。1992年に英国の国民保健サービスの一環として発足した非営利団体のコクランが行うコクランレビューがその代表である。世界有数の学術機関や医療機関の研究者が協力し、信頼できる医療情報を提供する活動として世界的に認められている。
コクランレビューの結果は
コクランレビューは過去8年間に世界各国で行われたHPVワクチンの有効性、安全性に関する臨床試験26件、合計で7万3000人以上の女性を対象とした研究について詳細に分析した。
5月上旬に発表された結果によれば、高リスク型HPVに感染していない段階でワクチン接種を受けた15歳から25歳の女性では、HPVワクチンの接種により、HPV16型/18型と関連する子宮頸部前がん性病変が発生するリスクが、1万人あたりで約164人から、2人の割合まで低下しており、HPVワクチンが予防に有効であることが改めて確認された。
また15歳から26歳でワクチン接種を受けた女性は、接種時のHPV感染状況にかかわらず、HPV16型/18型に関連する子宮頚部前がん病変の発症リスクが、1万人あたり341人から、157人の割合に下がっていた。
一方、安全性についても、HPVワクチンを接種したグループと、プラセボまたはHPV以外の感染症に対するワクチンを接種した対照群との間で、重篤な有害事象の発現リスクは同等であることが示された。今回のコクランレビューでは、「HPVワクチンによって、重篤な有害事象や流産や妊娠終結が生じるリスクは増大しない」と結論づけた。
男の子にもHPVワクチン
HPVは子宮頸がんのほかにも、肛門がん、中咽頭がんを発症する要因となる。70年代のテレビ番組チャーリーズ・エンジェルの人気女優ファラ・フォーセットさんの命を奪った肛門がんは、約95%がHPV(多くは16型)によって引き起こされる。
また女性よりも圧倒的に男性に多くみられる中咽頭がんも、米国では約7割がHPVに関連している。男性の場合、HPVが陰茎がんのリスクにもなる。さらに低リスク型HPVは、がんを生じることはないが、生殖器や周辺の皮膚にできるいぼを引き起こすこともある。
米国ではFDAが2009年9月に4価ガーダシルを9歳から26歳の少年、男性への使用を承認している。2011年にはCDCが少年に対しても、11歳または12歳でHPVワクチンの定期接種を推奨した。
現在米国では、FDAが2014年末に承認した9価ガーダシルが使用されている。16型、18型をはじめ7種類の発がん性HPVと、性器にいぼを起こす2種類のHPVで、合計9種類のHPV感染を予防する。男女にかかわらず、11歳~12歳の小児、HPVワクチン接種歴のない26歳までの女性および21歳までの男性、同性と性交渉を持つ26歳までの男性に対し、HPVワクチンの2回接種(6カ月から12カ月の間隔をあける)が推奨されている。(*2)
接種義務付けの州も
子宮頸がんだけでなく、中咽頭がんや肛門がんなども予防できるHPVワクチン。2016年には、米国の13歳から17歳のティーンのうち、60%が1回以上のHPVワクチン接種を受けた。接種率は前年より4%ポイント上がったが、2回目、3回目(初回接種が15歳以上の場合)も受けて完了した率は43%にとどまっている。
HPVワクチンがFDA承認を受けてから10年以上すぎたが、米国でもHPVワクチンに対する正しい認識がまだ十分に広がっておらず、漠然と安全性について懸念したり、自分の子供はまだ性交渉の心配はないと考えたり、HPVワクチンについてよく知らなかったりする親もいる。小児科医も患者にHPVワクチンにかかわる性の話を積極的にしていないという指摘もある。(*3)
このため米国の各州は、HPVワクチン接種に関する啓もう活動に取り組んでいる。これまでのところロードアイランド州では、男女にかかわらず7年生(12歳)の学童、バージニア州、ワシントンDCでは6年生の女子にHPVワクチンの接種を原則として義務付けている。また現在、フロリダ州議会でも学童へのHPVワクチンの義務付けが提案されている。
予防は治療に勝る
有効にがんを予防できる術があるなら、がんを発症してから体に負担のかかる治療を受けるより、どれほど良いことか。がんサバイバー達は、みなそう考えるはずだ。がんは治療が難しい段階で発見されることもあるのだ。
HPVワクチンは、感染した状態を治すことはできないので、感染前に接種する必要がある。接種対象年齢を考えると、親が接種の判断をすることも多い。心情的にワクチン接種に不安を覚える親御さんもいるだろうが、漠然とした不安を抱えたままワクチン接種の機会を失ってしまうのではなく、どうかプロの医療従事者に相談してほしい。
米国国立がん研究所(NCI)も、HPVについてわかりやすい動画を公開している。海外のがん情報を日本語で伝えるJAMT(日本癌医療翻訳アソシエイツ)が日本語字幕を付けているので、ぜひ、ご覧ください。
参考資料(JAMT翻訳):